「早晩、日本全体の課題に」「カギはリピーター生むイベント」全国に744カ所「消滅可能性自治体」住民が語る危機感&光明

佐渡市。昭和の街並みがあちこちに残るが、海風に晒され、かなり傷んでいる

 

「消滅可能性都市」という言葉が波紋を広げた「増田レポート」から10年。民間の有識者グループ「人口戦略会議」は4月24日、「令和6年・地方自治体『持続可能性』分析レポート」をまとめ、2050年までに全国の4割の自治体が消滅する可能性があるという衝撃的な結果を明らかにした。

 

 同レポートは、前回と同じく20~39歳の若年女性人口が減少すれば、出生数も低下することに着目し、「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」をもとに、全国の1729自治体を分析。以下の4タイプに分けた(ただし、福島県内の13市町村は浜通り地域として、1自治体とカウント。数字は総数)。

 

 

・自立持続可能性自治体:65
自治体間で人口移動がなく出生と死亡だけで人口が変化すると仮定した「封鎖人口」と、移動傾向が続くと仮定(「移動仮定」)した場合の人口がともに、若年女性人口の減少率が20%未満の自治体。

 

・消滅可能性自治体:744
若年女性人口が、2020年から2050年までの30年間で50%以上減るであろう自治体。前回は「消滅可能性都市」と呼んでいたが、都市部のみの課題と誤解を招くとし、今回はこの名称に。

 

・ブラックホール型自治体:25
移動仮定における若年女性人口の減少率が50%未満である一方、封鎖人口における減少率が50%以上の自治体。人口増加分を他地域からの流入に依存し、かつ出生率が非常に低い。

 

・その他:895
上記の分類に該当しない自治体。とはいえ、人口は減少傾向にあり、出生率改善などの対策は必要。

 

 東京23区の大半や大阪市・京都市などが指定された「ブラックホール型自治体」も問題だが、ここで取り上げたいのはやはり消滅可能性自治体。前回調査(2014年)の896より減少したが、744という数は多い。また、239自治体が消滅可能性を脱した一方、新規に99自治体が指定された。

 

 消滅可能性自治体はとくに北海道や東北に多く、それぞれ117と165。今回、新たに加わった福島県白河市の鈴木和夫市長は、前回のレポート発表時の2014年、市のサイトで連載中のコラムで、全国で「田園への回帰が始まろうとしている」のに「非現実的な議論」と、批判的なメッセージを発していた。

 

 同市にある日本基督教団白河教会牧師で、東北学院大学非常勤講師の竹迫之氏は、レポートの結果を受け、白河市だけではなく「日本全体が『消滅可能性国家』になりつつある」と疑問を呈する。

 

「若い女性の住民が減っているということが問題のようですが、妊娠や出産が女性だけのイベントとされる限り、また、子育てが家庭のみの問題とされ続ける限り、早晩、『消滅可能性』は日本全体にとっての課題となるでしょう」

 

 ただ竹迫氏によれば、東北では女性の社会進出がいまだ途上の部分があるといい、氏は、その解消策が白河においても不十分だと感じている。

 

「教会に集う女性たちからは、『女性の意見など不要という雰囲気が、たとえば商工会議所などには濃厚だ』といった不平を聞くことはたびたびありました。子育てにしても、子どもが成人年齢に達するまでの話ではなく、就職や経済活動全般にまで及ぶ話。白河という一地方都市の問題としてのみとらえようとするのではなく、『日本の将来をどうするか』というマクロの視点を持たない限り、打開策には結びつかないでしょう。地方都市が中央に奉仕するためだけに存在しているかのような、国政のあり方自体が問われているのではないでしょうか」

 

 白河市の2024年4月1日現在(以下同)の人口は5万6695人。2023年度は5万7597人だったので、1000人近く減っている。だが竹迫氏は、白河市にもそれなりの利点があると語る。

 

「新幹線は1時間に1本しかないながらも、2時間以内で東京都心まで行けるロケーションですから、子育て世代に対する支援に力を入れるだけでも、移住者が増え、消滅から脱する可能性はあるように思います」

 

 中部地方に目を向けると、新潟県では半数以上の18市町村が消滅可能性自治体に。前回同様の結果だった佐渡市は、若年女性人口減少率がさらに悪化した。沖縄本島に次ぐ大きさの島の人口は4万8649人だが、2023年度は4万9947人だったから、1000人以上も減った。

 

 同市で農家民宿「ローゼンキャット」を営む本間弘子さんによれば、「毎年、500人は移住者がいるのに、それを上回る数のお年寄りが亡くなっている」という。本間さん自身、同市で育ったが、進学を機に島を出て以降、10年前にUターンを決心するまでは、東京でファッションデザイナーとして働いていた。

 

「コロナ禍で打撃を受けた観光が少しは回復し、外国人や若い人がたくさん見えるようになりました。うちにも2023年は、800人ほど利用者があって、うち11人が移住してきたんですよ。3~4歳のお子さん連れの、30代前半ぐらいの夫婦が、『(仕事が)IT関連だから、どこにでも住めるんだ』と言ってね。障がいを持った息子さんのいる、60代後半のご夫婦も、うちに泊まっては島内で空き家を探していました」(本間さん)

 

 2015年に策定された「佐渡市人口ビジョン」では、若年層の流出を抑制することが「人口減少克服のための大きなポイントである」としている。本間さんの肌感でも、「一時期より若年層の流出は減っているのではないか」とのこと。

 

「私たちバブル世代のほうが、進学・就職でいったん出てしまえば、もう島には戻らなかった。いまは都市部でも給料は安いし、家も買えない。半分は残っているんじゃないかな。(島を)出てもある程度すると、戻ってくる若者が多いように見えます」

 

 2018~2022年の、佐渡市の合計特殊出生率は1.45。それに対し、年齢構成が異なる自治体間の比較に用いる「標準化死亡比」は、男性113.4、女性111.0と、国の平均100よりそれぞれ10以上多い。つまり、死亡率は全国平均より高いことを意味する。

 

 県全体(出生率1.34、標準化死亡比は男性102.2、女性101.0)と比べても、死亡比はかなり高い。若いUターン者もいて、出生率は極端に低くはないが、死亡比が白河市(男性99.3、女性99.6)と比べてだいぶ高い。本間さんの実感は正確なようだ。

 

 妙案はないものか。本間さんは「単なる観光施策より、リピーターを生むイベントを増やせばいい」と考える。

 

「毎年4月の『佐渡トキマラソン』、5月の自転車レース『佐渡ロングライド210』、7月の『佐渡オープンウォータースイミング』、そして、9月の『佐渡国際トライアスロン大会』……。スポーツイベントは盛んで、そのたびに何千人と来島します。さらに、音楽フェスなど文化的なイベントがおこなわれれば、そこにはいろいろな出会いが生まれるし、ここに住んでもいいと思う人がもっと増えるんじゃないかな」

 

 近畿地区をみると、大阪府で12の自治体が消滅可能性ありと認められた。大半が山間や海沿いなど、もともと人口の少ない町村部だが、中央に位置する大阪市を取り囲んで、北は門真市、南は柏原市、富田林市、河内長野市といった、大阪市のベッドタウンと目される市も指定された。

 

 それぞれが都心回帰の影響を受け、2000年代の初頭に人口のピークを迎えて以降、急ピッチで減らしている。現在、人口10万5155人の富田林市の場合、ピークの2002年には12万6400人いたので、2万人以上も減ったのだ。市の生涯学習課の正木邦彦参事によると、それでも「近隣の市町村に比べ、際立った下降率とも思えない」とのことだが……。

 

 富田林市では今後の市政には若年層の参加が不可欠と、2022年から「若者会議」を設けた。毎年メンバーを20名募り、さまざまな市の振興策が提案されている。

 

「そもそも、高校生から20代にかけては、行政との接点が薄い。人口減少対策自体が会議の目的ではありませんが、そこで郷土愛の醸成も図りたく、間接的にはその意味合いも出てくるでしょう。市内には大阪大谷大学がありますが、隣接する(同じく消滅可能性自治体の)河南町には大阪芸術大学があって、市内に下宿する学生も多いんです。だから、市民ではなく、あくまで在住者対象です。

 

 また、メンバーには府立富田林高校の生徒がいて、一部は大阪市内からも通学しています。富田林の田園風景を眺めるにつれ、農業に関心を持つ生徒もおり、やがて定住や就農を考えてくれるかもしれません」(正木参事)

 

 こうした地道な営みを通じ、魅力ある地域づくりをまず優先させれば、そこに住み、働き、子育てしたいというZ世代も現われるだろう。“消滅”から脱するために打つべき手はいくらでもある。

 

文・鈴木隆祐

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