安倍派幹部7人「処分後の明と暗」なぜ萩生田氏だけが “しぶとく” 生き残ったのか…識者が解説

しぶとく生き残った萩生田氏

 

 4月4日、派閥の裏金事件を受けて自民党の党紀委員会は、安倍派・二階派の議員ら39人の処分を決定した。しかし、対象となった安倍派の幹部には、いまも不満がくすぶり続けている。

 

 4月12日、「離党勧告」を受けた塩谷立(しおのや・りゅう)元文部科学相は、処分を不服として再審査を請求した。塩谷氏は処分決定直後から「まるでスケープゴート」と抗議していた。

 

 元朝日新聞政治部デスクの鮫島浩氏が言う。

 

 

「今回の処分は、岸田文雄総裁、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、森山裕総務会長の4人で決めたのが実態。この4人が、それぞれ自分の影響力を見せつけるために、押し合いへし合いして、処分に軽重の差をつけたのです。重い処分を受けた議員から不満が出るのは当然です」

 

 鮫島氏が、安倍派の座長だった塩谷氏をはじめとした安倍派幹部の、処分後の「明」と「暗」を解説する(カッコ内は現時点での処分)。

 

●塩谷立・元文部科学相(離党勧告)

 

「塩谷氏は5人衆が互いにけん制するなかで、当選回数が多い順番で安倍派座長に選ばれました。こういう “お飾り座長” は、なにか問題が起きたときに、責任を取らされるために存在しています。

 

 その意味で今回、塩谷氏が離党勧告を受けたのは、既定路線だったといえます。もちろん、本人にとっては心外だったでしょうが、大勢に影響はありません。

 

 今回、再審査を請求したので、もう一度、党紀委員会で議論することになりますが、結果は変わらないでしょう。抵抗したという、『形は示した』というだけの意味しかありません。

 

 もともと選挙には弱く、前回の選挙でも小選挙区では落ちて、比例で復活当選している人物。離党によって、次回の選挙は無所属で出ることになりますが、74歳という年齢を考えても、たぶん勝てないでしょう。おそらく、このまま不出馬で、引退に追い込まれる可能性が高いと思われます」

 

●世耕弘成(ひろしげ)・前参院幹事長(離党勧告)

 

「世耕氏は、処分に対して不満があるかと問われ『まったくない。明鏡止水の心境だ』と答えていますが、心中、穏やかではないでしょう。怨念が沸々と湧いているはずです。

 

 今回の政倫審では、弁が立つのが裏目に出て、理屈を並べ立てているように見えました。それで、5人衆のなかでもいちばんの悪役になってしまった。さらに、元秘書による “過激ダンスショー” 報道が決定打となりました。ちなみに、あれは地元のライバルである二階俊博元幹事長側からのリークとも言われています。

 

 極めつきは、二階氏が不出馬を表明したこと。二階氏は85歳で引退のタイミングを探っていました。そこに裏金問題が起きて、いまが引退のチャンスと考えた。自分が政界引退すれば、世耕氏も処分されて、衆院に鞍替えできなくなると。

 

 世耕氏は、2025年が参議院の改選。離党勧告を受け、すでに離党届を出しているから、無所属で出るしかありません。本人は無所属で出て勝って、禊を済ませたということで、復党したいと思っているでしょうが、その思惑どおりになるかどうか。

 

 世耕氏が参院選に出たときに、地元・和歌山の二階派がすんなり世耕氏の当選を許すはずがありません。自民党が公認候補を立てて、世耕氏を勝たせないようにするかもしれない。

 

 そう考えると、世耕氏の自民党復帰は難しい。かりに参院選を勝ち上がってきたとしても、その後すぐに、復党が認められるかどうかもわかりません。しかも、党内に戻る場所がない。参院執行部は、元岸田派、元茂木派に固められています。

 

 派閥もない。参院執行部にも、戻る場所がない。簡単に復党できるかどうかもわからない。復党できたとしても、もう戻る場所はないということです」

 

●西村康稔・前経済産業相(党員資格停止1年)

 

「5人衆のなかで、自分が総理総裁にいちばん近いと思っていたはずです。西村氏は、まだ総理をあきらめていません。最大のライバルが、萩生田光一前政調会長です。

 

 処分後のぶら下がりで『いまはすべてを失ったと思っている』と言っていましたが、その意味は、自分が処分を食らったこと以上に、ライバルである萩生田氏よりも、自分のほうが処分が重かったことが大きかった。

 

 党員資格停止で、1年間、選挙は無所属で出なければいけない。1年を過ぎても、公認をもらえるかどうかは、そのときの政治状況次第。もちろん、この9月の総裁選には絡めない。この1年、プレイヤーから外れるということの意味は大きいです。

 

 そもそも、次の選挙に勝てるかどうかも微妙。兵庫9区で、ずっと楽勝してきたのは、つねに相手候補が弱かったため。事前に強い候補を立たせない戦略をとってきたのです。本当に強い候補が出てきたら、勝てるかどうかわかりません。

 

 今回は、前兵庫県明石市長の泉房穂氏が、野党から出るのではないかと噂されています。しかも、西村氏は自民党公認ではなく、比例復活もない。裏金問題の逆風も強いので、泉氏が対立候補で出てきたら、ピンチかもしれません。

 

 泉氏本人が出ないにしても、泉氏が対立候補を応援して『西村を倒せ』と盛り上がれば、やはり厳しくなるでしょう。

 

 選挙で勝てたとしても、その間に、ライバルの萩生田氏が復権している可能性が高い。繰り返しますが、1年間、プレイヤーでいられなくなる影響は大きいといえます」

 

●高木毅・前国会対策委員長(党員資格停止6カ月)

 

「高木氏は、キックバックの扱いを協議した4人のなかに入っていなかったのが幸いして、処分が軽くなりました。

 

 もともと、総理大臣の器ではないといわれていましたが、一方で5人衆のなかではいちばん人柄がいいといわれている。それもあって、なんとなく生き残っていく可能性はあります。

 

 選挙区が、福井2区という地方ということもあって、選挙で勝ち上がってくる可能性はあります。とはいえ、今後も実力者として復権するのは難しいかもしれません。

 

 年齢も68歳で、そもそも本人も、総理を目指すつもりはなさそうです。今回の件は、失脚ではあっても、影響は意外に小さいのでは」

 

●松野博一・前官房長官(党の役職停止1年)

 

「事務総長経験者にもかかわらず、党の役職停止という軽い処分にとどめられました。逮捕の可能性も取りざたされましたが、厳罰に処せられなかったのは、岸田首相が “守った” からではないでしょうか。

 

 官房長官を2年もやって、党の秘密を知っているだけに、切りにくい。それに、官房長官までやった者がボコボコにされるようだと、首相への求心力が落ちてしまう恐れがあります。岸田首相にペコペコしていれば、最悪のときにも守ってもらえると示す必要があったのでしょう。

 

 もともと、生活用品メーカー・ライオンの社員で、自民党の政治家特有の、ギトギトとした権力志向はありません。官房長官までやったことで、満足している節があります。表舞台からジワジワと消えていくのではないでしょうか」

 

●萩生田光一・前政調会長(党の役職停止1年)

 

「今回の処分の最大のポイント。5人衆のなかで唯一、しぶとく生き残りました。『党の役職停止』という処分も、ほとんどなきに等しいものです。

 

 理由のひとつは、森喜朗元首相にいちばんかわいがられていたことにあります。処分が軽く済んだのは、森氏の意向があったと考えられます。

 

 さらに、非主流派の菅義偉(よしひで)前首相とも気脈を通じている。岸田首相には『萩生田を重い処分にすると、菅と組んで何をするかわからない』という懸念もあったと思います。

 

 都連会長で、小池百合子都知事とも最近は関係が深いので、小池知事との調整窓口としても残す必要があったのでは。萩生田氏を切って敵にまわすよりも、ここで恩に着せて味方にひきつけておくのが得策と、岸田首相は考えたのかもしれません。

 

 岸田首相にとっても、総裁選を考えれば、100人近い派閥出身の萩生田氏は利用価値があるという判断もあったと思います。

 

 萩生田氏は、この間、茂木幹事長にも接近しています。茂木氏は、小渕優子選対委員長が派閥を飛び出したりして、総裁選にも出られないといわれるほど。そうはいっても、処分を決める幹事長の力は大きい。そこで萩生田氏は、茂木氏に近寄ったのかもしれません。そのへんは、うまく立ち回っています。

 

 萩生田氏は、選挙には強くありません。選挙区の東京24区は大激戦区。萩生田氏は旧統一教会問題も引きずっているし、今回の裏金問題への逆風もあり、党の公認をもらったとしても、選挙で勝ち上がるのは容易ではないでしょう。

 

 しかし、選挙に勝ち上がりさえすれば、5人衆のライバルが次々に倒れていったなかで、相対的に萩生田氏の力が強くなる。若手や中堅は誰かについていくしかない。

 

 次世代の福田達夫筆頭副幹事長などは、まだ独り立ちするには弱い。そうなると、残った萩生田氏を立てようとする。萩生田氏は、権力闘争のなかで相対的に生き残ったといえます」

 

●下村博文・元政調会長(党員資格停止1年)

 

「下村氏はもともと、森氏ににらまれて、ポストから外されていました。5人衆にとっても、目の上のタンコブ。それどころか、一連の闇金問題をリークしたという見方も強くあります。それが事実かどうか断言できませんが、そう疑われていることの意味が大きいです。

 

 党員資格停止1年の処分で、次の選挙には無所属で出ることになりますが、選挙地盤はそれなりに強いので、勝ち上がる可能性はあります。しかし、勝ち上がったとしても、党内に “お友達” はいない。今回、裏金問題で傷を負ったことを考えても、あまり先はないように思えます」

 

 今回、政界引退後も安倍派に厳然たる影響力を持つ、森喜朗元首相については「おとがめなし」だった。

 

「とはいえ、今回の裏金問題は、森氏が派閥会長時代からという印象が強く残ったので、ダメージは大きい。年齢も年齢だし、さすがに表舞台に戻るのは難しいでしょう。自分が名づけた『5人衆』も壊滅状態になって、影響力が大幅に落ちるのは間違いありません。萩生田氏を通して、一定の影響力は残すかもしれないが、もう “森時代” は終わりに向かっているといえます」(鮫島氏)

 

 処分に国民が納得しているか、判断する機会を与えてほしいものだ。

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