右利きか左利きかは胎児になる前の「胚」の段階で決まるかもしれない


右手と左手は線対称になっており、普通に考えると右利きになる確率と左利きになる確率はちょうど半々になりそうなもの。しかし、実際には左利きになる割合は約10%で、右利きが圧倒的多数となっています。利き手が左右のどちらになるのかは「特定の遺伝子における変異」が関連している可能性を、マックス・プランク心理言語学研究所の研究チームが論文で示しました。
Exome-wide analysis implicates rare protein-altering variants in human handedness | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-024-46277-w
Right- or left-handed? Protein in embryo cells might help decide
https://www.nature.com/articles/d41586-024-00977-x
これまでの研究で、右利きの方が左利きよりも圧倒的に多いということが大陸を超えて一貫していることがわかっています。2009年に発表された双生児を対象とした研究では、左利きは約4分の1の確率で遺伝することがわかっており、利き手がどちらになるのかは遺伝形質の1つである可能性が示唆されました。
2019年にはオックスフォード大学の研究チームが、約40万人の個人記録を調査した研究を発表しました。この研究結果では、左利きに関連すると思われる遺伝子領域4つが発見されました。
左利きの原因となる遺伝子変異が特定される - GIGAZINE


また、2020年には170万人を対象とした遺伝子解析により、左利きに影響を与える遺伝子変異が41種類発見されました。
170万人の遺伝子の分析で「左利き」に関する41の遺伝子が新たに特定される - GIGAZINE


そこで、マックス・プランク心理言語学研究所の遺伝学者であるクライド・フランクス氏らの研究チームは、イギリスのバイオバンクに登録されている35万人以上の遺伝子データを調査しました。なお、対象となったデータ提供者のうち31万3271人が右利きで、3万8043人が左利きだったそうです。
左利きに関連する特定の遺伝子領域をチェックし、この遺伝子領域における変異が利き手にどの程度影響を与えるのかを調べたところ、変異による左利きの遺伝率は約1%だったことがわかりました。
さらに左利きの人は、細胞内にある管状の構造物でチューブリンと呼ばれるタンパク質で形成される微小管を発現する遺伝子「TUBB4B」に変異を持つ割合が右利きの人よりも2.7倍高いことが判明しました。


この微小管は細胞に形を与える細胞骨格の一部を形成し、ニューロンの発達や可塑性で重要な役割を担います。また、胚の発生の過程で非対称な流れを生み出す細胞膜の繊毛を形成するため、利き手に影響を与える可能性があるとのこと。


研究チームは「微小管が利き手の個人差にどのように影響するかは不明ですが、脳発生の初期段階で細胞の対掌(たいしょう)性に寄与し、それによって脳の左右軸の器官固有の形成に寄与する可能性が示唆されています」と述べています。
さらに研究チームは、「この研究は、左利きにおける希少な遺伝子変異の役割を明らかにし、微小管と疾患関連遺伝子の関与をさらに裏付けるものです」と述べ、より大規模な研究によってさらに多くの遺伝子が左利きに関連することが明らかになる可能性が高いと論じました。

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