腸内細菌が視力の喪失を引き起こす可能性が指摘される、抗生物質で視力低下を食い止められる可能性

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視力の低下や喪失を引き起こす要因には、網膜剥離や白内障など、さまざまなケースが考えられます。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの眼科医であるリチャード・リー氏らの研究チームが、特定の遺伝性眼疾患による視力の低下は、腸内細菌によって引き起こされる可能性があることを突き止めました。
CRB1-associated retinal degeneration is dependent on bacterial translocation from the gut: Cell
https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(24)00108-9
Surprising Link Found Between Gut Bacteria And Vision Loss : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/surprising-link-found-between-gut-bacteria-and-vision-loss

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Blindness from some inherited eye diseases ma | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1035493
網膜に発現するCRB1遺伝子は、眼球に出入りする物質の調整を行う「血液網膜バリア」の構築に役立っていると考えられています。このCRB1遺伝子に変異がある場合、網膜色素変性症やレーバー先天性黒内障などの遺伝性眼疾患が生じるリスクが高まります。
CRB1遺伝子の変異に伴う眼疾患では、光感受性視細胞の薄い層状構造を網膜で発達させることができなくなり、異常に厚くなるため、視力の低下や喪失につながるとされています。これまでの研究で研究チームは、CRB1関連の眼疾患を持つ患者の目に細菌が異常に多かったことから、細菌が網膜に損傷を与えた結果視力の喪失につながるのではないかと推測していました。
新たに研究チームはマウスを用いた実験を行い、これまで脳と網膜色素上皮にのみ存在すると見られていたCRB1遺伝子によるタンパク質が、腸壁にも存在することを明らかにしました。CRB1タンパク質は、病原体や有害な細菌と戦い、体内の健康を維持するためのバリアを維持する上で重要な役割を果たします。一方でCRB1遺伝子に変異があると、CRB1遺伝子が十分に発現されず、保護のためのバリアが破れてしまいます。
研究チームによると、意図的にCRB1遺伝子に変異を起こしたマウスでは、腸内細菌が破れたバリアを通過し、血流を通って網膜に入り、視力を低下させるような病変を引き起こしたとのこと。一方でこれらの細菌に対し、抗生物質などの薬品を投与すると、それ以上のマウスの視力低下を防ぐことが可能でした。なお、抗生物質を投与しても損傷したバリアは回復しなかったことが報告されています。

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遺伝性の眼疾患は、失明の原因としては一般的なものです。病気の発症は幼児期から成人期までさまざまですが、視力の低下は不可逆的で、生涯にわたる影響を及ぼします。遺伝性の眼疾患に対する従来の研究は、主に遺伝子治療に焦点が当てられてきました。
今回の研究によって、抗生物質のような抗菌薬を使用するだけで、CRB1に関連する遺伝性眼疾患の悪化を防ぐことができる可能性が示唆されました。リー氏は「腸と目の間にはこれまでに予期しなかったつながりがあり、それが一部の患者の失明の要因になっている可能性があることがわかりました」と語りました。

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リー氏は「私たちの発見は、CRB1関連の眼疾患における治療を変革する上で大きな意味を持つ可能性があります。私たちはこの研究を人間を対象とした臨床研究でも行い、このメカニズムが本当に人間の失明の原因であるかどうか、また細菌を標的とした治療である、抗生物質の投与が失明を予防できるかについて確認したいと考えています」「さらに、今回の研究では網膜の変性と腸をつなぐまったく新しいメカニズムが明らかになったため、より広い範囲の目の状態に影響を与えるようなさらなる研究を行いたいと思います」と述べています。

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