『男はつらいよ』の寅さんはテキヤかヤクザか 時代とともに変わってきた暴力団とテキヤの関係

寅さんシリーズ48作目、最後の出演作品となった映画「男はつらいよ・寅次郎紅の花」。神戸市長田区でのロケ風景(時事通信フォト)

 警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、『男はつらいよ』シリーズの主人公、フーテンの寅さんこと車寅次郎の仕事であるテキヤについて。

【写真】桜の中、多くの露天でにぎわう通り

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 今年も桜前線に合わせるように、桜まつりが開かれた各地では屋台が見られた。テキヤと呼ばれる露天商が出す店は、祭りという賑やかな雰囲気と外という解放感からか、なんでも美味しそうに見えてくるから不思議だ。

 テキヤといえば暴力団だと思い込んでいる一般人はまだ多いようだが、テキヤと暴力団は同じではない。普通に参道や沿道で屋台を出しているようなテキヤは暴力団組員ではない。しかしテキヤの中には昔からテキヤを稼業としてきたテキヤ系暴力団と呼ばれる組織があるのも事実で、テキヤも一家や組を形成し、親分子分の上下関係や代替わり制など暴力団組織に近いこともあり、そこがテキヤと暴力団の違いが分かりにくい要因だろう。

 では国民的人情喜劇『男はつらいよ』シリーズの主人公「フーテンの寅さん」はどちらなのか。先日、テキヤ系暴力団組織の幹部に、特定抗争指定暴力団、山口組系平井一家の話を聞いている最中、話題が寅さんになったのだ。

 平井一家の話から、なぜ寅さんにつながったのか。平井一家がテキヤ系暴力団組織だからだ。愛知県豊橋市や岡崎市などを庭場として11代続いてきた平井一家だが、2023年11月21日、薄葉政嘉総裁は、露天商約30人でつくる愛知県東部街商協同組合から名古屋地裁に訴えを起こされた。組員が同組合に嫌がらせをし、やむを得ず支払ってきたみかじめ料の約2020万円返還を求められたのだ。組員がやったことに対して、暴対法では組のトップに対し「使用者責任」を問うことができる。暴力団側からすれば、一緒に仕事をしてきた昔なじみの身内のような存在に訴えられたようなものである。庭場はヤクザでいうシマ、縄張のことで、テキヤ用語だ。

 テキヤから暴力団が訴えられるという全国的にみても稀有なケースとなった平井一家だが、話題になったのはこれだけではない。2023年7月には総裁が、内縁関係の女性に「ディズニーランドに行きたい」とねだられ、暴力団組員の宿泊を拒否しているホテルに身分を隠して利用して逮捕されるという、ヤクザの組長らしからぬ事件を起こしている。さらに2024年1月には六代目山口組の若頭補佐から降格されるという、こちらも滅多にない珍しい人事が行われた。組の懐事情も芳しくないといわれていたところに降格人事となり、幹部や組員が次々と組を去った。「役職返上して辞めた者、除籍された者、その者の除籍に納得がいかず辞めた者。その他、主だった者はフケたり、サツに走ったり、ほとんど残っていない状態だ」と幹部はいう。

得意の口上をテキヤが言う場面

 話を寅さんに戻そう。テキヤ稼業を生業にしていた寅さんは、テキヤ系暴力団組織の組員ではないためヤクザではない。

「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」というお馴染みの口上は、テキヤの挨拶だという。

 テキヤは口上が得意だ。ヤクザの代替わりの襲名披露や盃事では、代々伝わる作法に則って媒酌人を務めてきたのがテキヤであった。「有名なのは浅草の丁子家会で、どの媒酌人を呼ぶかで盃事の格も変わる」と幹部は話す。「俺も口上を言えと言われればスラスラと出てくるが、それを言う機会はほとんどない。今のテキヤは代替わりして若い者が多いから、寅さんみたいに口上を言えるヤツは数少ないだろう。そもそも口上なんて知らないんじゃないか」という。

「俺の知っているテキヤで、寅さんみたいにあれだけ全国をあっちこっちフラフラ回るような者はいない。今のテキヤのスタイルではない。今のテキヤの組織では無理だろう。俺らからすればどこにも属さないフーテンの寅さんは、テキヤというより半グレだな。それに鯉口シャツに腹巻姿の男が昼間、住宅街を歩いてごらんよ。それこそ変質者扱いだ。新宿歌舞伎町を歩こうものなら、数メートルで警察官に職務質問をかけられる」と幹部は笑い出した。

 国民的映画の主人公がヤクザから半グレと言われてしまう。それだけ時代も環境も変わったということだろう。

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