宇宙人はいる? SF作品に欠かせない地球外生命体を本気で探すプロジェクト「SETI」とは

佐々木亮「酒のつまみは、宇宙のはなし」

宇宙人はいる? SF作品に欠かせない地球外生命体を本気で探すプロジェクト「SETI」とは

1日10分、毎日更新されるポッドキャスト「宇宙ばなし」が人気を呼び、注目を集める佐々木亮さん。

この連載では、独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わった経験と、天文学分野で博士号を取得した知見を活かし、最新の宇宙トピックを「酒のつまみの話」になるくらい親しみやすく解説します。そして、宇宙と同じくらいお酒も愛する佐々木さんが、記事にあわせておすすめの一杯もピックアップ。

今回は誰しもが一度は考えたことがある、地球外生命体の存在について。SF作品にも頻繁に登場するロマンあふれるテーマを、これまでの科学的な研究実績から紹介します。

第13 回「宇宙人探査」のはなし

世界中の一般人をも巻き込んで実施した、伝説のプロジェクトがあった

「宇宙の研究をしています――」と話すと、必ずと言って良いほど聞かれる質問があります。
それは、「宇宙人っているの?」です。

何度これを聞かれたかわかりません。今、この記事を読んでいるあなたもきっと一度は考えたことがあると思います。
しかも、この質問は世界中のあらゆる人から聞かれます。それほど人類にとってのロマンなんですよね。
特に私がNASAで研究していた話をすると、火に油を注ぐような感じでその好奇心は燃え上がってしまいます。

この質問にはいろんな回答をしてきました。正直、ちゃんと説明するのが億劫な時もあるので、そういう時は「NASAとの守秘義務で喋れない」と冗談混じりに軽く受け流すんですが、相手が本当に興味がありそうな時によくする話があります。
それは、本気で地球外生命体の探査を目指している天文学者たちがいる、ということです。

この記事を読んでいるあなたも、「本当に知りたい人」だと思うので、今回は地球外生命体を本気で探す研究「SETI」について紹介します。

イメージ図

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SETIとは、Search for Extra Terrestrial Intelligenceの略称で、日本語にすると「地球外知的生命体の探索」です。とても分かりやすいストレートなネーミングですよね。
SETIでの研究は幅が広く、宇宙から飛んでくる地球外文明からのシグナルを取得することや、地球外の生命体へのメッセージ送信など様々なものがあります。

その中でも、特に知られているのは地球外生命体のシグナルの受信実験です。そのために利用されるのは、巨大なパラボラアンテナ。
団地とかマンションのベランダについてる白い丸いお皿のような物体の、もっと大きなサイズです。
このアンテナで宇宙空間の電波を観測することが、この研究の中心になっています。

これは、地球外生命体の文明が通信を行う際に、利用されるであろう方法を本気で検討した『Nature』掲載の論文が元となっており、当時の資料からもかなり真面目に検討されたことが想像できます。

米国ニューメキシコ州ソコロ近郊にある、NRAO国立電波天文台が運営する超大型アレイ電波望遠鏡は宇宙からの微弱な電波を捕らえることなどを目的にしている

米国ニューメキシコ州ソコロ近郊にある、NRAO国立電波天文台が運営する超大型アレイ電波望遠鏡は宇宙からの微弱な電波を捕らえることなどを目的にしている

パラボラアンテナによって、地球外文明の通信をキャッチしようとするだけでなく、人類の存在を宇宙に向けて発信する実験も行なっています。
他の惑星や生命体からのシグナルを受信できる星がどこかにあるかもしれないと考え、これまでに発見されている惑星や、生命がいる惑星があるかもしれない恒星にむけて私たち地球人の存在を送信していたりもするのです。

SETIを題材にしたSF作品はいくつもあります。この連載で取り上げた、世界的大ヒット小説をNetflixでドラマ化した『三体』はまさにそのど真ん中。
物語の起点にあったのはまさに巨大な電波望遠鏡です。他にも、ジョディ・フォスター主演の映画『コンタクト』ではSETIが描かれていて、この映画がSETIを世界中に広めたと言っても過言ではありません。

私は、天文の研究に携わる前に映画『コンタクト』を観たのですが、物語に登場するSETI計画を空想のプロジェクトだと思っていました。今、この記事を読んでいる人の中にもそう思っていた人がいるかもしれませんね。

SETIを支えるのは、宇宙全体を観測した大量の電波観測データです。地球外の文明からのシグナルをそこから見つけるのは、果てしない宇宙空間から砂粒一つを見つけるようなもの。そのためには、膨大な量のデータを分析する必要があります。
そのデータ量は、研究者がたくさん集まって、どれだけ効率的な自動解析プログラムを作っても、到底追いつけないレベル……。スーパーコンピューターをこの解析だけに永遠に使い続けるようなあり得ない状況でようやく処理できるくらい、でしょうか。
そんなことは実現不可能です。そこでこの課題を解決するべく立ち上がったのが「SETI@home」という一般人参加型プロジェクトでした。

SETI@homeは、世界中から希望者を募って、それぞれが持っている家庭用PCの処理能力を少しづつ提供してもらい、インターネット経由で接続。仮想の最強スーパーコンピューターを作り上げて地球外からのシグナルを検出しようとする計画です。

これは、分散コンピューティングという比較的よく知られる技術が使われていて、提供される処理能力が多くなればなるほど強化されていくものなので、この計画への世界中からの賛同が得られることが重要でした。

専門家でなく世界中の誰もが地球外生命体の探査に参加できる、という触れ込みが世界中に広がり、2020年までにSETI@homeプロジェクトには累計で520万人以上が参加したと言われています。
それによって、これまで蓄積していたデータはどんどん解析が進んでいきました。

しかし残念ながら、みなさん知っての通り、これまでに地球外文明からのシグナルは発見されていません。

これだけの人が参加して盛り上がりを見せていたSETI@homeですが、必要なデータ解析がほぼ完了したことなどを理由に2020年に一般参加によるプロジェクトは終了してしまいました。
科学的成果がなかなか出せないこと、その管理コストという非常に現実的な理由もあったのでしょう。

私も自身が進めている研究が落ち着いたら参加したいと思っていたので、この終了の知らせは少しショックでした。けれど研究者目線で考えると、採算が取れないプロジェクトはやはりいずれ終わってしまうよな……という妙な納得感も同時に沸いたのでした。

現在は、ブレイクスルー・リッスンというブレイクスルー財団のプロジェクトが進んでおり、電波観測データが世界的に公開されながら、引き続き地球外の文明探査が行われています。この取り組みの先に、文明発見があるかもしれないと思うと、ワクワクが止まりません。

宇宙を研究することは、「わたしたち人類がどこから来てどこへ向かうのか」を知ることであり、これらの研究は、宇宙における生命の可能性を検討する上で非常に重要な要素となります。

この宇宙が生命にとって適している環境なのか、はたまた私たち地球人がイレギュラーな存在なのか。後者だと私たちに宇宙で生存していく未来は実はないのかも……。と少し怖くもなりますね。

ここ10年で発見されている惑星の数も5000個以上に増えており、今後さらにSETI関連の研究は様々な角度で検討されることが期待されています。
私たちが抱える宇宙人発見というロマンが、実際どう解明されていくのか楽しみです。

この記事のお供はこのお酒!

 アメリカ ニュージャージー州にあるTonewood Brewingの「IMPROV」。このパッケージを見た時に「SETIだ!」となりました。
このお酒を見つけたのが先か、この記事を書くと決めたのが先だったか……。ダブルIPAだからこその香りの強さがありますが、フルーティーな味わいが飲みやすさもキープしてくれています。
地球外生命体がいるかいないかを考えながら飲んでいたら一瞬で飲み干していました。

 次回連載第14回は5月24日(金)公開予定です。

参考資料

天文学辞典 SETI/公益社団法人 日本天文学会

Searching for Interstellar Communications/nature GIUSEPPE COCCONI & PHILIP MORRISON

50 年目をむかえた SETI ~アストロバイオロジー国際研究会に参加して~/天文教育2010年7月号 鳴沢真也

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〝宇宙人を探して″集められた観測データ「ブレイクスルー・リッスン」公開/sorae 2020/2/18 

BREAKTHROUGH LISTEN’S SEARCH FOR INTELLIGENT LIFE (SETI) RELEASES UNPRECEDENTED DATA SURVEY OF MILKY WAY’S GALACTIC CENTER, EARTH TRANSIT ZONE AND INTERSTELLAR COMET 2I/BORISOV/Breakthrough Initiatives

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