軽量級“新怪物”ロドリゲスが3回衝撃TKO勝利でWBC王座統一…注目の次戦はロマゴンか?王座復帰した時の井岡か…将来的には中谷潤人と井上尚弥の好敵手に

 プロボクシングのWBC世界スーパーフライ級の統一戦が9日(日本時間10日)、米国フィラデルフィアで行われ、正規王者のジェシー“バム”ロドリゲス(24、米国/帝拳)が、暫定王者のペドロ・ゲバラ(35、メキシコ)を3回2分47秒に鮮烈の右アッパーで仕留めてTKO勝利した。注目は次戦。大晦日開催の方向で進んでいるWBA世界同級王者のフェルナンド・マルティネス(33、アルゼンチン)と元4階級制覇王者、井岡一翔(35、志成)の再戦の勝者をターゲットにした統一戦、それが実現しなかった場合は、元4階級制覇王者のローマン・ゴンサレス(37、ニカラグア)が最有力となるが、階級を上げてWBC世界バンタム級王者、中谷潤人(26、M.T)、スーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)との戦いも視野に入れている。

 

 軽量級の“新怪物”の名に恥じないWBCタイトルの統一戦だった。バムの愛称で知られるロドリゲスは、かつて元3階級制覇王者の八重樫東からタイトルを奪い、木村悠、寺地拳四朗とも激闘を繰り広げるなど、日本でもお馴染みのベテランメキシカンをまるで相手にしなかった。
 3ラウンドだ。ワンツーがカウンターとなって一度目のダウンを奪うと、コーナーにつめ、左に小さくステップを踏んで体の角度を変えることをフェイントにすると、瞬時に小さく上体を切り替えて死角から右のアッパーをかちあげた。
「あの瞬間は、もう試合を楽しんでいた段階。すべてが相手に向かっていた」
 クリーンヒットしたわけではなかったが、ゲベラはもんどりうってダウン。レフェリーはカウントせずに試合を止めた。
「パフォーマンスにはとても満足しているが、私は、このような結果になることをある程度分かっていた。これは次に向けての試合だ」
 リング上でロドリゲスは豪語した。
「なぜか?」と聞かれ、「わからない。ただ願っていたし。感触があった。感覚があれば、ファイターはわかるものだ」と返した。
 ゲバラは第1ラウンドから飛びはねるようにステップして足を使ってきた。だが、ロドリゲスは、冷静に右のジャブから左のボデイストレートでプレッシャーをかけた。ゲバラはボディショットや手数で対抗しようとしたが、ただ動くことしかできなかった。
「動いてくるとは見込んでいなかった。もう少し足を止めて戦ってくると思ったが、ゴングが鳴ると彼はたくさん動いてきた。しかし、言ったようにファイターの感覚として、前の試合から学び、今夜は強打を見せられた」
 ロドリゲスが口にした前の試合とは、6月にメキシコの“英雄”ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)を7ラウンドにカウンターの左のボディショットで仕留めた衝撃の1戦。ただ、途中ワンツーを浴びてダウンを奪われるシーンもあり、「多くを証明しようとし過ぎた。試合のプランから離れてノックアウトしようとしていた。それは私の本来のファイターとしての形ではなかった」との反省がある。
 相手のレベルは違うが、この日は一分の隙もなかった。
「今夜、あなたたちは私が何ものであるかを目にしただろう」

 

 

 ロドリゲスを帝拳と共に共同プロモートしているマッチルームのエディ・ハーン代表も、嬉しそうにリングに上がってインタビューを応じた。
「アーティストの仕事ぶりだった。この若者は24歳だ。並外れた才能だ。彼は、この国のボクシングの未来、世界中のボクシングの未来について語っている。彼は、現在パウンド・フォー・パウンドの5位。(1位にランクされているヘビー級3団体統一王者のオレクサンドル)ウシクは素晴らしい。(元2階級4団体統一王者で現WBA世界スーパーウェルター級王者のテレンス)クロフォードも素晴らしい。だが、井上尚弥を私は(上位)リストから外す。この男(ロドリゲス)はパウンド・フォー・パウンドで3位にいると思う」
 リング誌の現在のパウンド・フォー・パウンドランキングでロドリゲスよりも上にいる井上尚弥をバムが追い抜いたと勝手なコメントを残した。
 そして「リヤド・シーズンに向かう時だと思う。彼をあのメガファイトに連れていきたい」と続けた。リヤド・シーズンとは、サウジアラビアが、国家事業として進めているエンターテイメント事業でボクシング興行がその目玉となっている。
 井上尚弥と大橋秀行会長は、先日、サウジアラビアをプライベートジェットで電撃訪問して、トゥルキ・アルシェイク長官と会談し、数十億円規模とみられるスポンサー契約を結んだ。すでにリヤド・シーズンと契約を結び多くのボクサーを送り込んでいるマッチルームは、ロドリゲスをそこへ登場させようと目論んでいる。
 そしてハーン代表は気になる次戦について「スーパーフライ級での統一戦を見たい」との方向性を示した。
 ロドリゲスも「次は統一戦だ。準備はできている」と明言した。
 現在の他団体王者は、WBAが7月に井岡との統一戦でベルトを奪ったマルティネス、WBOが10月の2日間7大世界戦の中で王者の田中恒成(畑中)に判定勝利したプメレレ・カフ(南アフリカ)。IBFはマルティネスが王座を剥奪されたため空位となっている。バムがターゲットとするのはWBAのベルトだ。
 マルティネスは、大晦日に日本で井岡と再戦する方向で交渉が進んでいる。ロドリゲスはその試合を来日して観戦する予定で、井岡も7月の統一戦に敗戦する前にはバムとの最強決定戦を熱望していた。もし井岡が王座に返り咲けば、井岡vsバムのビッグファイトが見られるかもしれない。

 

 

 もし統一戦が実現しなかった場合の有力候補は、ロマゴンだ。56戦52勝(42KO)4敗の脅威のKO率を誇る元4階級制覇王者。エストラーダとは3度戦ったレジェンドで、現在WBC、WBA、WBOの3団体でランキング1位となっている。
 ハーン代表が言う。
「もし統一戦ができなければ、チョコラティート(ロマゴン)との試合になると思う。彼は歴代最強のボクサーの一人だ。彼は大きなチャレンジを望んでいる。その逆(ロドリゲスにとっても)そうだ。彼らには、大金を稼がせ、観客とファンには素晴らしい試合を提供しよう」
 ロドリゲスもその構想に同意している。
「もし統一戦ができなければ、その試合だ」
 だが、ロマゴンの名前を出した途端、場内にはブーイングが起きた。
「なぜダメなのか?それは凄い試合になるよ」
 ロドリゲスは、そう呼びかけたが、ファンが求めるのは、37歳となったロマゴンとの戦いではない。米専門サイト「ボクシングニュース24」はこう解説している。
「おそらく一部のファンはゴンサレスがもう年老いていると感じてブーイングがあった。彼らは24歳のバムのような若いファイターがゴンサレスのキャリアを終わらせることを望んでいない。すでにバムは、過去2年間の最近の試合で年老いたファイターを倒している」
 そう解説した上で期待される対戦カードをこう明かした。
「ファンはバムが118パウンド(53.52キロ、バンタム級)まで階級を上げて中谷潤人と対戦するか、122パウンド(55.34キロ、スーパーバンタム級)まで上げて誰もが認めるチャンピオンの井上尚弥と対戦することを求めている。バムは今夜も大きく見えた。彼は簡単に126パウンド(57.15キロ)のフェザー級で戦うことができる。彼の対戦相手より大きいサイズが軽量級で成功している理由のひとつだ」
 まだ肉体の成長過程にあるゴンサレスは、数年後に体重が合えば、井上尚弥との対戦を夢見ていることを明かしているが、バンタム級の中谷との対戦は、より実現性が高いだろう。
 日本が大好きでプライベートでも何度も来日しているロドリゲスだが、まだ日本のリングに登場したことはない。近い将来、“軽量級最強”のバムが日本のファイターと名勝負を繰り広げるかもしれない。

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