異常事態?!「熱痙攣が起きて意識がない状態に」箱根駅伝予選会で“名門”東海大が落選する悲劇はなぜ起きたのか…熱中症で10番目の選手がゴール直前で途中棄権

 第101回箱根駅伝予選会が19日、東京・立川市陸上自衛隊立川駐屯地をスタートし、国営昭和記念公園にゴールする21.0975キロのコースで43校が参加して行われ、第95回大会の優勝校の東海大が落選するという大波乱が起きた。6月の全日本大学関東学連推薦校選考会をトップ通過して参加資格の上位10人10000m平均タイムで2位につけていた東海大に〝ゴール直前〟の悲劇が待っていた。

 チーム10番目を走っていたロホマン・シュモンがゴール直前で動けなくなる

 東海大の17.4㎞通過順位は8位。この地点で11位の神奈川大に2分47秒のアドバンテージがあり、通過は確実といえる状況だった。しかし、チーム10番目を走っていたロホマン・シュモン(3年)がゴールの10m手前で動けなくなり、まさかの途中棄権。次の選手もなかなか姿を見せず、11時間03分39秒の14位で落選した。
 あまりにも残酷な結末に選手たちは号泣した。
 西出仁明ヘッドコーチによると、ロホマンの調子は良く、スタート前の状態もいつも通りだったという。
「残り800mぐらいまではチームの8番目か9番目を走っていました。残り80mぐらいで倒れたと聞いているので、そこからゴール前まで這いつくばってくれたんですけど…」
 スタート直前の午前9時30分時点で気温は23.2度。レース中も気温がグングンと上がり、選手たちは高温と夏のような日差しに体力を削られた。東海大は2週間前から天気予報をチェックして、暑さ対策もしっかり練ってきたという。
「ずっと暑くなる予報だったので、その準備はして来たつもりでした。集団走のグループはキロ3分03秒で行く予定を3分05秒に落としたんです。ただ早々に集団から離れていく選手がいたので、ロホマンは自分がやらないとダメだという意識が強かったように感じましたね」(西出コーチ)
 ロマホンは前回の箱根駅伝でアンカーを託されるも、区間20位に沈み、総合10位から同11位に転落。シード権を逃がした責任を強く感じていた部分もあったようだ。
 5㎞を15分18秒、10㎞を30分36秒と前半は設定を少し上回るペースで通過した。後半はペースダウンするも20㎞は1時間02分31秒で通過。順調なら1時間06分前後でフィニッシュできたはずだが、頑張り過ぎた〝歪み〟が最後に出てしまったといえるかもしれない。
「ロマホンは熱ケイレンが起きて、意識がほとんどない状態でした。詳しくは聞いていませんが、チーム10番目、11番目の選手も熱中症だったと思います」(西出コーチ)
 ロマホンはすぐに救急車で搬送されたが、意識は戻ったという。そしてチーム10番目の選手は1時間12分29秒で設定タイム(1時間04分45秒前後)より大きく遅れた。

 他大学も想像以上の酷暑に大苦戦した。総合9位の神奈川大はエース格の宮本陽叶(3年)が15㎞以降で途中棄権。1時間07分02秒でチーム10番目にゴールした中野蒼心(3年)も脱水症状で一時走るのを中断していた。
 最後の1枠に滑り込むかたちになった順大も想定以上にタイムをロスしたという。レース後、長門俊介駅伝監督は大量の汗をかきながら、苦しいレースを振り返った。
「10時間50分ぐらいではと思っていたので、タイムは相当遅くなっています。見ている方も暑かったですし、走っている選手はもの凄かったのかな、と。集団走の7人は前日に5㎞15分15秒ペースと言っていたんですけど、15分20秒に下げました。暑くなっても65分以内で行きたいと考えていましたが、難しかったですね」
 順大の総合タイムは11時間01分25秒(平均1時間06分08秒5)。予選会がハーフマラソンで争われるようになった第95回大会以降で通過ラインは最低水準になった。前年の10位は10時間37分58秒(1時間03分47秒8)で、従来の過去最低は第96回大会の10時間56分46秒(1時間05分40秒6)なので、今大会がいかに〝過酷な条件〟になったのか理解できるだろう。タイムオーバーを含む途中棄権は10人にのぼり、過去5年間で最多人数だった。

 

 

 一方で今回の条件を〝追い風〟にしたチームがある。その筆頭が専大だろう。前回18位、参加資格の上位10人10000m平均タイムは15位(29分19秒54)ながら、総合10時間53分39秒で2位通過を果たしたのだ。
 長谷川淳監督は、「暑さで波乱が起きると思っていましたが、2位通過は正直、驚いています」と笑みを浮かべるも、快走の裏には徹底した暑さ対策と、巧みなレース戦略があった。スタートラインに並ぶ直前まで選手たちは氷をつかってカラダをクーリングした。
「暑くなるのは1週間前からわかっていたので、氷を買い足して、相当数持ってきたんです。首から下をギリギリまで冷やしました。同じことをやっているチームもありますが、うちが一番、氷の量が多かったんじゃないですか。それでだいぶ違ったと思います」(長谷川監督)
 前回は順位をうまく把握できなったのが落選につながったこともあり、今回は順位を意識しながら、後半勝負のレース戦略を組んできた。
「うちは速く入る方なんですけど、今年はいつもより遅く入ったので、その分、後半は余裕度が出たんじゃないでしょうか。暑くて後半は気温がさらに上がってくると思ったので、最初の5㎞は10秒、20秒遅くても関係ない。前半は無理をさせずに、後半勝負を徹底させました」
 3人はフリーで残り9人が集団走を実施。設定ペースは5㎞「15分20秒」だったが、選手の判断で少し落として、集団走のグループは5㎞を15分33秒で通過。その後もさほどペースを落とすことなく突き進んだ。専大は10㎞通過時9位から、15㎞通過時で5位、最後は2位まで浮上した。
 9時30分で23.2度だった気温は10時00分に24.2度まで上昇。選手たちが続々とゴールする10時30分過ぎには25度近くになっていたはずだ。さらに日差しも強くなっていた。
 取材していても「暑い」と感じたが、指揮官として33年目を迎える中央学大・川崎勇二監督は、「こんなに暑くなったのは第75回大会以来(98年)です」と苦笑いしていた。 中央学大はエース吉田礼志(4年)が1時間03分29秒で日本人トップ(10位)を飾り、チームも10時間56分01秒の5位で通過した。暑さを考慮して、集団走のペースを落としたが、それでもきつかったという。
「ペースを下げても後半は行けなかったので、もっと落としても良かったです。テレビ中継ありきでやっている部分もあると思うんですけど、これだけの暑さですから、事故が起きたら大変です。箱根駅伝と同じ8時スタートにすればだいぶ違うと思いますけど」(川崎監督)
 アスリートファーストの視点で、箱根駅伝予選会の在り方を考える時期が来たのかもしれない。
(文責・酒井政人/スポーツライター)

ジャンルで探す