壮絶覚悟!名門帝拳が誇る“エリート”岩田翔吉は進退をかけて挑む2度目の世界戦でベルトを巻けるのか…「負けて次頑張りますとは言えない。甘い世界じゃない」

 プロボクシングの7大世界戦(13、14日・有明アリーナ)で1日目のWBO世界ライトフライ級王座決定戦に出場する同級1位の岩田翔吉(28、帝拳)が1日、公開練習を行った。名門帝拳が送り出すエリートは、2022年11月に同級王者のジョナサン・ゴンザレス(メキシコ)に敗れて以来、約2年ぶりとなる世界戦を前に「負けて次頑張りますとは言えない。甘い世界じゃない」という壮絶な覚悟を明かした。なお試合はAmazonプライムビデオで生配信される。

 

 2年前の世界戦敗戦を糧に進化

 忘れられない悔しさがある。
 この2年の間に「全部を通して10回弱は見た」というゴンザレスとの世界戦だ。
 プロ10戦目で挑戦したWBO世界ライトフライ級戦は、あと一歩のところでゴンザレスに判定で逃げ切られた。ボディ攻撃でグロッキー寸前に追い詰めたが、あと一発のフィニッシュブローと相手が嫌がることを徹底してできなかった。
 元WBC世界スーパーライト級王者で帝拳ジム代表の浜田剛史氏によると「採点で勝ったか負けたかもわかっていなかった」という。
 岩田自身も「相手のやり方に動揺したり、スタミナもなく、少し混乱していた部分があった。地に足がついていなかった」と振り返る。
 だが、その敗戦から元IBF世界ミニマム級王者のレネ・マーク・クアルト(フィリピン)らに4連勝して再挑戦のチャンスを待った。しかもすべてKO勝利である。
 何が変わったか。
 この2年、中村正彦トレーナーのジムへ通い、フィジカル、スタミナ強化に力を入れて「体が2年前と比べものにならないくらい強くなった」との手応えがある。これまでは、スパーリングを重ねて追い込むと、体のどこかに痛みが発生していたが、それもなくなったという。
「2年前に比べて落ちついている。ストロングポイントも伸びている」
 元2階級制覇王者の粟生隆寛トレーナーは「駆け引き」という言葉を出した。
「パンチ力、爆発力、意外性という魅力があるが、そこばかりに頼っていた。この2年は、駆け引きとか、自分から作っていくボクシングをやってきた。もう一段レベルアップしたところを見せられればいい」
 2年前に足りなかったものを埋めてきた。
「世界戦に負けてから、自分の中でんお勝利への貪欲さ、勝ちへの執念は、2年前と比べものにならない。それを本番のリングでお客さんの前で出したい」
 モチベーションは高い。
 世界的なプロモート力のある帝拳ジムでは、実力と努力を兼ね備えた世界ランキング上位のボクサーには世界挑戦のチャンスは巡ってくる。他のジムに比べて恵まれた環境だ。
「帝拳には歴史と伝統があってリスペクトしかない。自分も世界チャンプになるためにやってきて、勝てばそこ(歴史や伝統の1人)に入れる」
 名門の看板を背負って世界戦リングに立つ責任がある。
 2022年6月にIBF世界スーパーフェザー級王者の尾川堅一が王座陥落して以来、ジムに世界王者は不在。しかし、選手層は厚く、世界を狙える予備軍が次から次へと控えている。そのジムメートたちの実力を肌で感じているだけに岩田にも覚悟がある。
「今回、負けて次頑張りますとは言えない。そんなに甘い世界じゃない。そこは腹をくくってすべてを出そうと思っている」

 

 

 加えて今回の2DAYS・7大世界戦に世界王者として出場する同じ1995年生まれのライバル達への思いもある。同日にメインで防衛戦を行うWBA世界バンタム級王者の井上拓真(大橋)や2日目に登場するWBO世界スーパーフライ級王者の田中恒成(畑中)には高校時代に勝ったこともある。今回スパーリングで何度も拳を交えて同日にリングに上がるWBA世界フライ級王者のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)も同級生。だが、早大に進学してプロ入りが遅れた岩田は、1度目の世界戦でて負けて、ずいぶん彼らの後塵を拝することになった。
「同じ年の選手が刺激になっている。励みにもなっているが、それぞれの人生、自分には自分の人生があってペースがある。必ず同じ世界チャンピオンになれるように頑張りたい」
 それも岩田のメンタルを支えているもののひとつ。
 対戦相手のハイロ・ノリエガ(スペイン)は、31歳で14戦(3KO)無敗のオーソドックススタイルのボクサーファイター。KO率は高くはなく、パンチはないが、右も左も手が止まらぬ好戦的なスタイルで、ポイントアウトも打撃戦もできる。打ち合いになれば、粟生トレーナーが「硬くてキレがある。スーパーフライ級でも通用する」と絶賛する岩田のハードパンチが生きてくるが、出入りのボクシングを徹底されれば、空回りする危険性もある。
「スピード、運動量があって、ボディワーク、出入りもある。自分のパンチが空振りさせられて、ポイントを取られるという彼がやりたいボクシングをさせないようにしたい。相手が何をしてこようと冷静に自分のやるべきことを遂行したい」
 そして試合展開も具体的にイメージした。
「浜田さんと冗談交じりに話をした。ダウンを取れば、2ポイントこっちにくる。自分の一番の理想は、そういうポイントの取り方。打ち込み過ぎず、フェイントや角度を意識してパンチを当て、出入りで、逆に空振りさせて、ポイントを取ることを意識している。倒しにいく場面は、今まで以上に組み立てていく」
 相手が王者だと厄介だが、立場は五分の王座決定戦。ある程度ノリエガは出てくると予想される。パワーでは岩田が上。世界奪取のチャンスは十分にある。基本の左ジャブ、そして武器にしているボディブローがポイントになるだろう。
 岩田は、子供の頃、総合格闘家の故・山本“KID”徳郁氏のジムへ通い、格闘家の門を叩いた。6年前に帰らぬ人となったKID氏の命日は9月18日。7回忌の法要には参加できなかったが、試合後に墓前へ勝利を報告したいという。
 “神の子”に教えられたのは「戦いを楽しむ」ということ。その気持ちは、背水の覚悟でリングに立つ岩田だからこそ必要な部分。
 10・13、有明アリーナ。名門帝拳が満を持して送り出すエリートが2日間にわたって行われる日本ボクシング史に残る7大世界戦の先陣を切る。

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