もし井上尚弥が“生涯無敗の元世界王者”リカルド・ロペスと戦ったら…34年前“伝説の世界戦”で対戦した大橋会長とのトークショーで明かした“究極の仮想対決”の答えとは?

 プロボクシングの元世界ミニマム級王者で大橋ジム会長の大橋秀行氏(59)と、元世界2階級制覇王者で21連続の防衛記録を持つメキシコの“レジェンド”リカルド・ロペス氏(58)が24日、都内でトークショーを行った。両者は34年前の10月25日に後楽園ホールで対戦、2度目の防衛戦だった王者の大橋会長が5回にTKO負けを喫し、ロペスはそのWBC王座を21度防衛し、無敗のまま引退した。8年ぶりの再会で、ロペスは大橋会長の“愛弟子”のスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)を絶賛し「もし現役時代に対戦しても勝つのは難しい」と断言。自分と同じく無敗でボクサー人生を終えるための秘訣をメッセージとして伝えた。

 大橋ジムの指導の理想はロペスの「打たさずに倒すボクシング」

 あの34年前の“伝説の世界戦”が蘇ってきた。
 大橋会長とロペス。2016年に米国ロス近郊で行われたロマゴンとクアドラスの世界戦を大橋会長が井上と共に観戦した際に会って以来、8年ぶりの再会である。1990年にWBC世界ミニマム級王者だった大橋会長が、最強の挑戦者のロペスと後楽園で対戦したV2戦を互いに語るのは初めてのこと。
「オーラがあった。紳士だしね。嬉しかったね、またもう一度戦いたくなった。MMAルールでね」
 大橋会長が感動を覚える劇的な再会となった。
 トークショーはWOWOWの解説でおなじみのマッチメーカーで米殿堂入りしているジョー・小泉氏が、豊富な知識をもとに、進行を務め、通訳は元日本ウェルター級王者の坂井祥紀が務め、2人が対戦の秘話を披露した。
この試合は、指名試合とされていたが、大橋会長は「違うんです。1位は韓国の選手で指名試合を待ってもらっての選択試合。あのフリオ・セサール・チャベス(3階級制覇のメキシコの英雄)が『同じ階級じゃなくて良かった、最高のチャンピオンになる』と世界王者になる前から言っていると聞いて、お願いしますと、選んだんですが、間違いでした(笑)」と対戦に至った裏話を明かした。
当時は当日計量。計量後の握手で、大橋会長が、思い切り強く握り、あまりもの握力にロペスの膝がぶるぶると震え、国歌斉唱時に怖くて涙を流したとの噂話が流布していた。
大橋会長は「減量が苦しくて強くなんて握れないと思うし、その記憶もないんだけど、もし試合前にそんなことをしていたら、謝ろうと思っていた」と言うが、ロペス氏は、「強く握ってきたのはファイティング原田氏。ただ大橋さんの顔が凄く怖くて目を合わせられなかった」と笑って否定した。
試合は1ラウンドの残り30秒で、大橋会長が飛び込んで放った右のオーバーフックがヒットした。ロペスは足が止まり下がった。
「いけばよかったんだけど、何か罠だと思って躊躇した。その後、左右前後のフットワークを使われて遥か遠くに感じた」
 後で米倉健司会長は「あれで警戒された。ミスだったな」と大橋会長に愚痴ったという。
 ロペスは「あのパンチは足にきた。とにかくパンチ力があった。だから距離をとって足を使ったんだ」と34年ぶりに打ち明けた。ロペスはステップワークを駆使。大橋会長がプレスをかけ、追いかけるも、つかまえきれずに空回りした。

 

 

 大橋会長が聞きたかったのはロペスが多用した左のボディジャブの理由。当時、ヨネクラジムの担当の松本清司トレーナーからは「ボディを防ぐパ―リングが大きいクセがあるので、そこを狙われる」と注意されていた。
「あれで探りを入れて上を狙ったんでしょうか?」
 そう聞くとロペスは「ボディを打ったときにああいうアクションをした。試合映像も見て。あのアクションがあるのがわかっていたので狙っていた」と明かした。
 大橋会長は、4ラウンドにワンツーをもらって手を着き、5ラウンドに再び強烈な右ストレートを浴びて2度目のダウン。そして最後は、ボディの防御のパ―リングで右手が大きく下がるクセを見抜かれ、ガラ空きとなった顔面に左フックをまともに食らって3度目のダウン。なんとか立ち上がったが、足がよろけて倒れそうになりレフェリーがストップした。
「目の前が深夜テレビの砂嵐のようになった」という。
 大橋会長は、その後、WBA世界同級タイトルに挑戦して王座に返り咲き、「大橋さんとの試合で人生が変わった」というロペスは、そのベルトを21度防衛、最後はライトフライ級に上げてIBFのタイトルを獲得し2階級制覇を成し遂げて無敗のまま引退した。アマで40戦無敗、プロでは52戦51勝(38KO)1分けの戦績だった。
大橋会長は、指導者としての理想はロペスの「打たさずに倒すボクシングだ」という。
「集大成は、リカルド・ロペス。常にKOを狙い、倒すだけはなくディフェンスもいい。それが井上尚弥につながっていく」
 トークショーの話題は、大橋ジムに所属する井上に移った。レジェンドがモンスターをどう見ているか?は最も興味深いテーマだ。
「井上さんは本当に偉大なチャンピオンだ。強くでパワーもあって速い。技術的にも凄いチャンプだ。日本だけでなく世界で一番凄いチャンプだと思う。メキシコでも評価が高い」。
そう絶賛した。
 そしてもし現役時代に2人が戦ったら?という仮想対決話が及んだ。井上のチャンピオンロードのスタートはライトフライ級。この仮想対決もそれほど無茶ではない。
 ロペスは井上へのリスペクトを込めてこう答えた。
「井上は偉大なので、勝つのは難しい」

 

 

 大橋会長は参謀として「勝たせる自信はある」という。
「ロペスのフットワークにパンチを避けながら、いかに左右にも動いて追いつめるか。昔、ボクシングのDVD級材の撮影で尚弥とマスボクシングをやったことがあるんだけど、横のフットワークを使うので、どっかで見たことがあるな、リカルド・ロペスと同じだと思った。(その横のフットワークも利用して)ロペスを追い込んで、左がいいので、左を外しなだからね。またロペスは接近戦を嫌がる傾向もあった。そこを強引にいってボディから攻めればいけると思う」
 かなり具体的にイメージした。
 井上はロペスと同じく無敗のまま引退したいという未来図を口にしている。
 現在31歳の井上は「35歳引退説」を最近は「37歳」まで延長しているが、ロペスが引退したのは35歳。ロペスは、無敗のまま引退する秘訣を井上へのメッセージとしてこう伝えた。
「(無敗のまま引退するという)考え方はすごくいい。生活に気をつけて準備をすることが大事。決して自信過剰ならないこと。常に準備をし続けること大事なのだ」
 ロペスは、それを守れたからこそ21度連続防衛を果たしたという。
「もちろん、お金は好きだが(笑、)21回も防衛ができたのは、お金のためじゃなく、自分の名誉のためだった。ほとんどのボクサーは成功すると、薬物やアルコールに手を出すが、私は、そんなことはしないように気をつけた。それで成功した。お金と名誉を手に入れると人間はおかしくなる。だが私は神様に祈りながら自分を律した」
ストイックで、常に進化を求め続けているモンスターは、すでにロペスのその領域にいて「自信過剰になる」心配はなさそうだが、レジェンドの言葉は重たい金言だろう。
 今日25日に後楽園で開催される「フェニックスバトル122」では、ロペス氏の来日を記念して、日本同級王座決定戦、OPBF東洋太平洋同級王座決定戦、日本ユース同級防衛戦の3大タイトル戦を含めた、全試合ミニマム級というユニークなカードが組まれた。井上尚弥らが来場してロペスと対面する予定だという。

ジャンルで探す