スケボーアイドルに来た「SLS」への招待、世界最高峰の大会と「穏やかな別れ」と…清司麗菜の#skatelife

 パリオリンピックの興奮も冷めやらぬまま、スケートボード界はさらに熱気を帯びています。スケートボードに熱中するNGT48の清司麗菜さんの元にはあるオファーが。とんでもない「大会」からの招待、そして穏やかな別れ――。果たして、その先に待つものとは。「清司麗菜の#SkateLife~continuity180~」の第21回です。

緩すぎるオファー・とんでもない「大会」

 熱すぎるパリオリンピックが終わって、1か月。この間、私はずいぶんと忙しく働いていた。アイドルの仕事ではフェスやイベント、新曲「一瞬の花火」のプロモーション、そして公演……。もうヘロヘロ。板に乗る時間は明らかに減っていた

 印象深かったのは、「上越妙高サマーフェス」のお仕事。会場ではスケートボードエリアが設置されて、そこでトリックを披露するというものだった。去年は飛び入り参加だったけれど、今年は正式オファー。事前に「どんなセクション作りますか?」と聞かれたから、「低めのレールをお願いします!」と頼んで、やる気満々。「バックボード・スライド」を決めたかったけれど、結果は何十回もトライして一回もメイクできず。

 なんといっても緊張感がヤバかった。初めてのセクションだし、路面も当然、パークとは違う。アイドルとして大きなステージに立つ前はよくおなかが痛くなるのだけれど、ちょっと違う。ひざや足首の動きも硬くなる。やっぱり、スケボーは難しい。オリンピックもそうだけれど、前日練習があるにせよ、その都度新しく作られるコースをトップ選手たちは、どうしてあんなに簡単そうに滑っていけるのだろう。スケボーは割と五輪の中でもすごさが分かりやすいスポーツだったと思う。だけどやってみると、さらにその難しさを実感する。

 忙しすぎた8月、そしてスケボー仕事でトリックを決められず……。思わずため息をつきそうになっていたところ、新しいスケボー仕事が突然、舞い込んできた。

 「11月23日なんですけどスケジュール空いていますか? よかったら、SLSの取材に行きます? 大会側もOK出ています」

 担当編集さんの緩すぎるオファー。出てくるとんでもない「大会」の名前。思わず背筋が伸びた。

SLSとは…

 SLS――。「Street League Skateboarding」の略で、スケートボードの世界最高峰の大会の一つだ。世界中のトップスケーターが「憧れ」として口にする大会で、去年、初めて東京で開催された。パリオリンピックで2連覇した堀米雄斗選手が、初めて「ユウトルネード」を決めた大会だ。トップ選手が新技を持ってくるということは、それだけ重要な大会だということを意味している。日本で行われる、というだけでとんでもないニュースだったのに、まさかそこに取材に行くことになるとは……。

2023年のSLS東京大会で優勝した堀米雄斗選手

 今年、どんな選手が出場するかはまだ決まっていないけれど、去年の顔ぶれを見るだけでもすごい。男子は堀米選手のほか、ナイジャ・ヒューストン選手、ジェイミー・フォイ選手、ケルビン・ホフラー選手。女子は西矢椛選手にクロエ・コベル選手、ライッサ・レアウ選手……。本当に世界中のトップが集まった大会なのだ。断る理由なんてない。

 オリンピックに出ていなくても、素晴らしい選手はたくさんいる。私の今のイチオシは上村葵選手。まだ15歳なのだけれど、スキルは折り紙付き。つい最近、アメリカのオレゴン州で開かれた国際大会「Rockstar Energy Open」で優勝したばかりで、5月にはSLSのトリックに特化した大会「APEX」で2位にも入っている。

スケートボードの国際イベント「UPRISING TOKYO」女子の部で優勝した上村葵(2023年)

 そして、かわいい。素敵な笑顔やヘアスタイルはもちろんなのだけれど、ファッションが……。トレードマークは派手なズボンで、鮮やかな色合いや牛柄のものをサラッと履きこなしてとんでもないトリックを見せる。SLSで会えるといいなぁ。

 しかも、もう一つ。連載の取材以外にも、大会からお仕事をいただいた。この前、六本木ヒルズまでポッドキャスト収録に行ってきた。ご一緒させていただいたのは、俳優・渡部豪太さん。芸能界随一のスケボー好きとして知られている。そんな渡部さんから「アイドルでスケボーやっているってすごいですね」なんて言われてしまった。

スケートボード・ストリート世界選手権に出場した上村葵(2023年12月、有明コロシアムで)=松本拓也撮影

 アイドルとして限界を感じていた私は、この連載をきっかけに等身大の自分を受け入れることができた。スケートボードを通じて、いろんな仕事ができるようになってきた。スケボーを始めて3年間。この間に世の中は大きく変わった。もちろん、公道でスケートボードを好き勝手に滑ることができるようになったわけでも、世の中で爆発的にスケボーファンが増えたわけでもない。だけど、世界規模の大会が国内で開催されるようになって、当たり前のようにいろんな大人がそれを盛り上げようと関わっている。

 少しずつ、一歩。いや、半歩ずつ。たしかにその歩みは進んでいる。

同期との別れは「尊敬と感動と少しの安心感」

 9月に入り、いよいよ暑さは「残暑」と呼ばれるようになった。そんな中、NGT48の1期生の同期、奈良未遥が卒業を発表した。これでいよいよ、残る1期生は私と、西潟茉莉奈の2人だけになる。

 未遥は、私と同じ研究生から正規メンバーに上がった仲間だ。良い時も、悪い時もいつも一緒にいた。彼女が目標に掲げていた「写真集を出す」という夢は、今年の7月にかなった。劇場公演で行われた卒業発表では、会場のファンの皆さんから温かい拍手と共に受け入れられた。新潟に残る決断をした未遥の言葉。それを静かに受け入れるファンの方々の姿がそこにはあった。

 彼女は6年間も「写真集を出したい」と言い続けて、目標をかなえた。尊敬と感動と、少しの安心感。「今まで頑張ったね」と心穏やかに送り出すことができるのは、未遥の今までを知っているから。これからを信じることができるから。

 でも、同時に思う。私の夢は何だろう。それが「スケボー」であることは確かなのだけれど、まだ見えない。輪郭はぼやけていて、何がどうなったら満足なのかも分からない。小さく歩みを進めるスケートボードカルチャーの傍ら、歩き続けた先に何が待っているのだろう。

 未遥のようにきれいな形でなくても、見えない何かを形にして終わりたい。きっと、私のアイドル人生はこれからも、一本のスケーターフィルムのように、何度も転んで、傷ついて、落ち込む。でも、スケーターは最後に笑う。私のアイドル人生もそんな風になればいいな、なんて考えてしまうのだ。

プロフィル

清司麗菜(せいじ・れいな)

 NGT48の1期生。埼玉県出身。「バイトAKB」としてアイドルキャリアをスタートさせ、2016年にNGT48に加入。全国スケートボード施設連絡協議会アンバサダー。趣味はスケボーのほか、歌うこと、筋トレ。Instagramは「 @reinaseiji 」、X(旧Twitter)は「 @official_seiji 」。

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