2連覇狙う積水化学は個の強さが特徴 新谷仁美、佐藤早也伽ら多数の代表経験選手を擁しコース初の2時間11分台に挑戦【クイーンズ駅伝】

積水化学が超豪華メンバーで2連覇を狙う。女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝が11月24日、宮城県松島町をスタートし、仙台市にフィニッシュする6区間42.195kmのコースに24チームが参加して行われる。

積水化学は新谷仁美(36)と佐藤早也伽(30)がマラソンで、山本有真(24)が5000mで、22年以降の世界陸上かオリンピックで代表入りしてきた。田浦英理歌(24)と森智香子(31)は、田浦が9月の全日本実業団陸上10000mで日本人1位、森は日本選手権5000m3位と、今季トラックで日本トップレベルの戦績を残している。大会記録は前回優勝の積水化学が出した2時間13分33秒だが、昨年2区と3区の距離が変更になった。2年前の資生堂が出した2時間12分28秒が優勝を目指すチームの指標となっている。「2時間11分台を出す」(野口英盛監督)ことが積水化学の目標だ。

新谷はマラソンの日本記録更新に向けてのステップに

日本代表経験選手数の多さで、積水化学が頭ひとつ抜け出ている。
新谷は5000mと10000mとマラソンで、佐藤はマラソンで、楠莉奈(30)は5000mと10000mで、木村友香(30)と山本は5000mで、そして(今回はメンバー入りを辞退したが)卜部蘭(29)は1500mで、世界陸上かオリンピックの日本代表になったことがある。

「私が見た積水化学の強さは、誰も“クイーンズ駅伝がすべて”と思っていないことです」と新谷が言う。「個人の実績で駅伝メンバーに選ばれて、駅伝をさらに調子を上げるきっかけにできるチームです」

新谷は積水化学に加入した20年以降、クイーンズ駅伝は3区区間賞(区間新)、21年は5区区間2位(区間賞と1秒差)、22年は再び3区区間賞、23年は5区区間2位(区間賞と9秒差)。圧巻だったのは20年の3区で、区間2位に1分05秒という信じられない差をつけた。その2週間後の日本選手権10000mは30分20秒44の日本新、その年の世界2位タイムという快走だった。

22年の東京マラソンで13年ぶりのフルマラソンに出場し、同年のオレゴン世界陸上代表入り(新型コロナ感染で欠場)。23年1月のヒューストン・マラソンでは日本歴代2位(現歴代3位)の2時間19分24秒で走り、当時の日本記録に12秒と迫った。新谷のマラソン練習は圧倒的にスピード重視だが、23年9月のベルリン・マラソンは持久力に寄せた練習を多く行い2時間23分08秒(11位)と失敗した。故障の影響で出場決定が遅くなった今年3月の東京マラソンは、2時間21分50秒(6位)と目標の日本記録(2時間18分59秒)に届かなかった。

新谷は来年1月にもヒューストンで日本記録の更新に挑む。「2時間18分58秒を出したいとはまったく思っていません。世界大会で勝負できる最低限の記録を目指します」。クイーンズ駅伝の走りをそのステップにする。

「今の出力は9月の全日本実業団陸上(5000m4位=日本人1位)の頃より落ちていると感じています」。しかし中期的な流れでは、前回のヒューストン前(22年)のクイーンズ駅伝と似た状態だという。「2年前よりもスピードの土台はできています。最後の10日間で調整して(駅伝に必要な)走りのキレを出します」

新谷にとってクイーンズ駅伝は、必要な通過点だ。

佐藤はマラソンで、山本は5000mで代表入りを目指すステップに

新谷とともに積水化学の長距離区間を支えてきたのが佐藤で、19年大会は3区区間3位、21年3区区間2位、23年3区区間2位。積水化学の2回の優勝(21、23年)は佐藤が3区でトップに立った。

「(3区は)距離が長く自分の持ち味を出せる区間です。昨年は前半から攻める走りができなかったので、今年も3区を任せてもらえたら前半から攻める走りをしたいです」

佐藤は来年の東京世界陸上に、マラソンで出場することを目標としている。「ブダペストでは結果を残すことができませんでした(23年世界陸上20位)。代表になるためには2時間20分を切るタイムが必要と思っています」。区間は未定だが(1区も3回走っている)、クイーンズ駅伝でスピードを確認して冬の選考競技会につなげていく。

山本は昨年のクイーンズ駅伝2区区間賞でトップの資生堂を追い上げ、3区での逆転につながる走りを見せた。しかし13分13秒の記録が不満だった。

「野口監督が設定したタイムより遅かったんです。個人としてはやりきれない気持ちでした。チームのみんなのおかげで、自分の走りやすい5km未満の距離の区間を走らせてもらっています。今年も2区ならオリンピック選手として、圧倒的に勝ちたいですね」

山本は12月の5000mで、15分16秒71の自己記録更新も見据えている。

「来年4月にはそれより速いタイムで走り、東京世界陸上には絶対に出たいです。自国開催は応援してくれる人たちに、間近で走りを見てもらえるチャンスですから」

2区と決まったわけではなく、一斉スタートの1区で得意のラストスパートを生かすこともできる。インターナショナル区間の4区で、外国選手たちにスピードで対抗する期待も持てる。

19年世界陸上5000m代表だった木村と新人の道下美槻(23)、卜部の3人は1500mで来年の東京世界陸上代表を目指している。積水化学の主力選手はほぼ全員が、日本代表を目指す過程でクイーンズ駅伝を走る。

前回ピンチヒッター的起用だった田浦の成長で長距離区間候補が充実

代表経験選手、候補選手の多さに加えて、新たにトップレベルに成長した選手の存在と、日本選手権3位の選手が「チーム6番手」(野口監督)と言われるメンバー争いの厳しさも、今年の積水化学の特徴だ。

田浦は昨年大会の1区で区間5位。トップの資生堂に43秒の差を付けられた。「直前の出場決定で動揺したところもあったと思います。3区の(佐藤)早也伽さんが後半ですごく粘ってトップに立ってくれましたが、私はあの走りができませんでした」

だが大会10日前まで4区を争っていた控え選手で、レース4~5日前に1区への出場が決まった。そのことを考えれば、できることはやった、という評価ができた。そしてこの1年間の、田浦の成長には目を見張るものがある。

「去年のクイーンズ駅伝で悔しい思いをしたので、1年を通してケガをしないことを意識しました。アイシングや超音波など基本的なケアをしっかり行って、ウエイトトレーニングの重量も去年より10kg増で行っています」

5月のゴールデングランプリ5000mで15分24秒37と、自己記録を大きく更新。シーズンベストでは新谷、楠に続く3番目のタイムを出した。新谷と楠はクイーンズ駅伝長距離区間で、区間賞を取ってきた2人である。7月には31分52秒19と自身初10000mで今季日本5位、チーム内2番目の好記録で走った。9月の全日本実業団陸上10000mは日本人トップの4位と、タイトルに近いポジションを占めた。

野口監督は「新谷、佐藤、楠、田浦が長距離区間候補」と考えている。

入社10年目の森の今季も、積水化学を象徴している。昨年のアジア選手権代表になった3000m障害こそ日本選手権6位に終わったが、5000mでは日本選手権3位。田中希実(25、New Balance)、山本有真のパリ五輪代表2人に続いた。さらに記録面では1500mで4分10秒33と、自己記録を4秒64も更新し今季日本3位を占めている。ベテランがこれだけの頑張りをしていても、駅伝メンバー争いでは6番目と言われてしまう。

「他チームならエース区間に行けるのに、積水化学では6番に入るかどうかのレベルなんです。連覇はもちろん目標にしてきましたが、そのことがずっと頭にあって・・・」

森は「10年間で初めてです」と今季のメンバー争いを感じている。大東大が強くなる時期に活躍した選手で、ケガで駅伝に間に合うか不安になったことはあったが、実力でメンバー外になる可能性を感じたことは、「高校(諫早高。長崎県の長距離強豪校)1年以来」だと振り返る。

「この年齢になってもそういう発破のかけられ方をするなんて、と思っています」と森。こういう言い方ができるのは、野口監督との間に信頼関係が築けているからだ。野口監督はライバルチームのことを考えるのでなく、自分たちが成長できているかどうか、を選手たちに意識させ続けて来た。優勝は何とかなるだろう、という雰囲気にチームが流されることを避けたかった。最も長く在籍している森が危機感を持つことで、チームの雰囲気が引き締まると考えた。
2連覇に挑む積水化学はそのくらい、隙が無いチームになっている。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
 

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