1500m優勝の木村友香と5000m日本人トップの樺沢和佳奈 GGPでのポイントアップをステップにパリ五輪代表入りに照準【織田記念レビュー】

パリ五輪出場資格は標準記録突破だけではなく、Road to Paris 2024(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)でその種目の五輪出場人数枠に入ることで得られる。織田記念(4月29日)で好走した女子2選手がその道を進んでいる。

1500mでは木村友香(29、積水化学)が4分10秒75の大会新で優勝、5000mでは樺沢和佳奈(25、三井住友海上)が15分25秒30で日本人トップの2位に入った。パリ五輪参加標準記録は4分02秒50と14分52秒00。絶対に届かない記録ではないが、そこを目指して無理をしてしまったら、五輪本番にピークを合わせられない事態に陥りかねない。木村と樺沢も標準記録突破よりも、Road to Paris 2024で出場選手枠に入ることを狙っている。世界ランキング用のポイントが高いGGP(ゴールデングランプリ。5月19日・国立競技場)と日本選手権(6月末・新潟)で好成績を残せば、代表入りは可能な位置につけている。

ラスト300mの切り換えができればパリ五輪への道が開ける木村

残り1周ではローズ・ワングイ(世羅高3年)と並んでいたが、木村はラスト300m地点から一気にリードを奪った。手元の(非公式)計測でラスト300mは49秒だった。優勝タイムの4分10秒75は、自己記録の4分09秒79(日本歴代6位)に約1秒と迫っただけでなく、兵庫リレーカーニバルの4分10秒92(2位)から8日後に出したことも評価できた。兵庫の前週の金栗記念では5000mと2種目に出場し、4分14秒11(3位)だった。

「記録は少しずつ上がっていますし、安定もしてきました。日本選手権まで2カ月ありませんが、課題と向き合えるその期間を大切にしていきます」

ラストスパートでケニア人選手を引き離したが、木村は自身の課題を「1000m以降の切り換え」だと感じている。

「気持ち的にも余裕があるのに、スピードの切れが戻っていません。レースでも練習でも、もどかしい感じが続いています。記録を求めて行くにはそこが一番の課題です」

木村の指導を委託されているTWOLAPS TCの横田真人ヘッドコーチによれば、昨年の全日本実業団陸上(4分11秒51の3位=日本人トップ)では46秒だったという。それに比べれば織田記念の49秒は3秒遅い。だが今季はここまで「1試合毎にラスト300mは1秒ずつ速くなっている」(横田コーチ)。

女子1500mでは田中希実(24、New Balance)が日本の第一人者。3分59秒19の日本記録を持ち、21年の東京五輪は8位に入賞した。スローペースなら45秒で上がったこともあるが、田中でさえラスト300mは46~47秒のことが多い。木村のラストが46秒に戻れば田中に対抗できる。木村は「1000m以降の段階的な切り換えができていませんが、その課題を克服したら4分7~8秒くらいを目指して行きたいです」と今後のプランを話す。

織田記念終了時点で木村の5レース平均ポイントは1146点にアップし、Road to Paris 2024の順位が60位に上昇した。五輪出場人数枠ボーダーの45位選手は1165点だが、織田記念の木村のポイントは1181点である。GGPで木村の目指す走りができれば、“世界の田中”と好勝負ができるし、Road to Paris 2024のポイントもかなりの上積みが期待できる。やはり国内試合ではポイントの高い日本選手権でも好成績を続ければ、45位以内に木村が浮上するはずだ。

樺沢は中盤までの速いペースへの対応がパリ五輪へのカギに

樺沢は5000m日本人トップの2位と好走したが、課題は残った。

「速いペースで進みましたが、思ったよりラストに力を残しておけなかったのが反省です。ケガをしたりや体調を崩したりすることがなく、順調と言えば順調なのですが、爆発するような走りができません。今回もアグネス(・ムカリ・21、京セラ)さんが15分前後のペースで走っていたのに、私はキツい感覚ですごく後ろを走っていました」

だが4月の2レースだけでなく、昨年秋以降の安定性は評価できる。9月の全日本実業団陸上で1500m4位(日本人2位・4分11秒53の自己新)と5000m7位(日本人1位・15分33秒69)、その翌週のYogibo Athletics Challenge Cup5000m優勝(15分36秒47)、12月の日本選手権10000m5位(31分45秒19の自己新)、今年2月の全日本実業団ハーフマラソン優勝(1時間10分13秒の自己新)、そして4月の金栗記念4位(日本人1位・15分22秒04)と織田記念2位と1レースも失敗していない。

昨年の日本選手権5000m(10位・15分35秒18)がきっかけだったという。

「緊張して最初からダラダラした走りしかできなかったのが、本当に悔しくて。そこから一念発起じゃないですけど、頑張ろうと思って。そのときから世界ランキングも随時チェックして、自分のタイムと順位を全試合で計算するようにしました。昨年秋も、ここでしっかり走れなかったら、(五輪選考のかかる)日本選手権でもまた緊張して走れなくて、オリンピックには一生出ることなく終わってしまうという気持ちで走っていました」

Road to Paris 2024の順位は織田記念終了時点で平均1142点の40位相当。五輪出場人数枠の42人に入るための計算もしっかり行っている。

「GGPでしっかり自己ベスト(15分18秒76)を出して8位入賞することと、日本選手権で3位以内に入ることが絶対条件です。GGPは得点がめちゃ高くて8位でも大きいですから。たぶんすごく速いペースで入ると思うので、15分10秒くらいまで行けたら良い感じになると思います」

そのレースを実行するために、前半から速いペースで入っても対応できる練習を行うという。

ラストスパートを課題とする木村と、中盤までのハイペースへの対応を課題とする樺沢。注目点は異なってもGGPは、パリ五輪への可能性を広げたい選手にとって極めて重要な大会となる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

※写真は左が木村選手、右が樺沢選手(2023年9月)

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