「町田のロングスローは対策しようがない」福西崇史が振り返る今季のJリーグ前半戦

Jリーグ前半戦をフカボリ!


Jリーグ前半戦をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第99回のテーマは、J1リーグ前半戦について。いよいよ後半戦がスタートしたJリーグ。J1初昇格の町田が首位ターンし、大きなサプライズとなった中で、鹿島やG大阪など、名門が追随する前半戦を上位クラブを中心に福西崇史が振り返る。

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今季のJ1も前半戦が終わり、後半戦がスタートしています。前半戦を振り返ると、昇格組のFC町田ゼルビアが、J1初挑戦にして首位で折り返したことは賞賛に値します。町田はチームとしてのやることが整理、徹底され、J1でも通用するほどの団結力となって、ここまでうまく結果に結びついていると思います。

2位鹿島アントラーズ、3位ガンバ大阪も同じように良い守備から素早い攻撃がうまくはまり、上位3クラブは似た特徴を持つチームだと思います。今季、こうしたチームが優勝争いをしているのは、引き分けの多さやリーグテーブルを見てもわかる通り、Jリーグ全体の力がより拮抗しているからだと思います。

どちらに転ぶかわからない試合を堅守で簡単には崩さず、チャンスでしっかりと決め切る。それを徹底してやれているのが、これらのクラブというわけです。

上位のチームを改めて見ていくと、町田は黒田剛監督のやりたいサッカーを誰が出てもやり切れるチームだと思います。前線のハイプレスから守備でしっかりとハードワークし、ボールを奪えば徹底してオ・セフンやミッチェル・デュークの高さ、エリキや平河悠、バスケス・バイロン、藤本一輝などスピードを生かしたカウンターで、少ないチャンスを決め切る。

あるいは、高さを生かしたパターン豊富なセットプレーも大きな得点源です。今や代名詞となったロングスローも相手を強制的に押し込み、ゴール前のカオスを作り出す手段として非常に有効に使っています。今では他でもロングスローを使うチームが増えてきました。

このようにとにかく町田は武器が豊富にあり、その良さを黒田監督がうまく落とし込んでチームの最大値を引き出していると思います。うまくハマらないときは完敗もしますが、ハマった時は"町田の試合"というくらい圧倒してきました。

対策されると厳しくなるという見方もありますが、守備の強度を保てれば崩れることはないし、あの高さを生かしたロングボールとセットプレーというのは、わかっていてもどうしようもない部分もあります。とくにセットプレーは一番理にかなった得点手段で、そこが強みの町田を抑え切るのは難しいと思います。町田がどこまで走り続けられるのか興味深いところです。

続いて鹿島についてですが、個人的な前半戦のMVPは知念慶だと思っています。僕もそうでしたが、FWからボランチにコンバートされたときに、最初は「守備をどうしよう」とか戸惑いがあるわけです。ただ、前からの守備という点では川崎フロンターレ時代からやってきた選手なので、切り替えやチェイシングはもともと速かったと思います。

本人が「自分がやられたら嫌なことをやっている」というコメントを残しているように、FWの経験値というのは、守備の面でかなり生かされているようですね。また、佐野海舟の読みの鋭さによって溢れたボールを回収できるバランス能力も備えていることは大きい。

お尻の使い方がうまいので、相手のバランスを崩させることができて、体幹の強さと合わせて非常に当たりにも強い。そういった寄せの早さ、バランス感覚、フィジカルの強さによって圧倒的なデュエル勝利数を叩き出しているのだと思います。

鹿島にとって佐野と合わせてボランチに能力の高い選手が2人いるというのがものすごく大きくて、潰しの部分、攻撃の繋ぎの部分と攻守に2つの選択肢があることで、チームのバランスというのは非常に良くなるものです。

それに加えて、エースの鈴木優磨の好調さ。彼のところで確実に起点ができることで、周りの選手たちは迷いなく彼を追い越し、裏へどんどん抜けて鋭いカウンターを仕掛けるスタイルが見事にハマりました。鈴木のキープ力、パスとポジショニングのセンスは、彼以外で再現は難しいと思います。

ただ、ここまで好調な鹿島ですが、佐野のドイツのマインツへの移籍がほぼ確実となりました。彼の離脱というのは、今の鹿島にとって非常に痛い。現状のスカッドで言えば、柴崎岳はキャラクターがまた違うし、樋口雄太がどれだけ穴を埋められるか。

その他にも鈴木やセンターバックの2人など、出ずっぱりで代えの利かない選手が多く、夏場をどうしのいでいくかも大きな課題でしょう。町田は誰が出ても一定のクオリティは保てるけれど、鹿島はそうではない。夏の補強でどれだけ補えるかが重要になると思います。

最後はG大阪についてですが、昨季は61失点というリーグ最多タイの失点数で、守備に大きな課題を抱えていたわけですが、今季は見事に生まれ変わりました。守備の意識が高まり、コンパクトでハードワークを厭わない守備によってここまで17失点と見違えるように堅いチームになりました。

これだけ変わった要因にはGK一森純とDF中谷進之介という守備の要となる補強が大きいのは誰の目から見ても明らかです。そこに加え、ダワンやネタ・ラヴィら既存の外国人選手たちの献身的な働きも大きいと思います。

その堅い守備からウェルトンや山下諒也、坂本一彩など、カウンターがハマるスピードのあるタレントが揃っているので、戦い方と選手がうまくハマったと思います。そうした中でやはり一番大きいのは宇佐美貴史の存在です。

鹿島の鈴木のように巧みなポジショニングとキープ力で起点になったり、アタッキングサードではドリブル突破とシュートがあって、相手にとって止めるのが非常に難しい。去年はあまりハマっていなかった彼が、チームにようやくハマったというのは、G大阪の好調を左右した大きな要因の一つだと思います。

この3チームに代表されるように、ヴィッセル神戸やアビスパ福岡など、堅守がベースのチームが上位に名を連ね、Jリーグのトレンドとなっています。

改めてこれだけ拮抗したシーズンというのは近年稀に見る状態だと思います。ただ、後半戦になれば町田や鹿島、G大阪のサッカーが通用しないように、各クラブは当然、対策を講じてきます。それに対して、上位のクラブがどう上回っていくのかというは、後半戦の見どころになっていきます。

町田がJ1初挑戦で初優勝という快挙を成し遂げるのか、鹿島やG大阪が久しぶりの覇権を奪還できるのか。あるいは神戸が連覇するのか。後半戦にどんなドラマが待っているのか、非常に楽しみです。

構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜

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