宮司愛海アナが振り返る東京オリンピック・パラリンピック。問い続けた「スポーツが伝えられることとは」

宮司愛海連載:『Manami Memo』第26回

 フジテレビの人気スポーツ・ニュース番組『S-PARK』とweb Sportivaのコラボ企画として始まった『Manami Memo』。第26回は、フジテレビ五輪報道のメインキャスターとして活躍した宮司アナが、東京オリンピック・パラリンピックを振り返ります。


3年半、オリンピックに向けて取材を重ねてきた宮司アナ

 東京オリンピック・パラリンピックが閉幕しました。

 まずは、出場した選手の皆さんはもちろん、暑いなか運営に当たってくださったボランティアスタッフの皆さん、医療従事者の皆さん、大会に携わったすべての方々に心から尊敬の意を表します。

 今大会は、オリンピック・パラリンピックともに多くのメダルが生まれました。

 オリンピックでは金27、銀14、銅17と、前回のリオ大会41個を大きく上回る日本史上最多58個のメダルを、そして、過去最多の254選手が参加したパラリンピックでも、金13、銀15、銅23と、51個ものメダルを獲得しました。

 無観客開催となった今大会、画面を通じてご覧になったみなさんは、どんな思いをもったでしょうか。

 今回は、伝える側として大会をどう感じたか、振り返る回にしたいと思います。


国立競技場を背に 写真:フジテレビ提供

【オリンピックでの印象深い瞬間たち】

 まず、オリンピックでは、競泳・大橋悠依選手と体操・橋本大輝選手の2冠達成に、レスリング川井梨紗子・友香子姉妹の金メダルや柔道阿部一二三・詩兄妹の同日金メダルなど、感動の瞬間は挙げきれないほどありますが、特に中継を担当した、卓球混合ダブルスの水谷隼・伊藤美誠ペアの決勝は忘れることができません。2ゲーム先取されたところから3ゲーム連取し、次のゲームを取られ再び絶体絶命の状況に立たされるも、最終ゲームを勝ち取り掴んだ、あの大会史に残る金メダル。水谷選手が後ろで構え、伊藤選手が前に出るという基本的なスタイルを窮地で変え、積極的に前に出るプレーで水谷選手が作った流れを伊藤選手が持ち前の攻撃力でものにする。地元・静岡県磐田市が同じ、昔からよく知る仲だからこその、息のあったプレーでした。これまで一度も勝利したことのない中国ペアに、大舞台で初めて勝って金メダルを獲得した瞬間は、感動のあまり自分の手が震えたことを思い出します。

 女子バスケの銀メダルも凄かったですよね。準々決勝のベルギー戦、終了間際で林咲希選手が放ったあの逆転の3ポイント。現場で見ていて、興奮のあまり思わず仕事を忘れて叫んでしまうほどでした。厳しい練習を重ねチーム一丸となって掴んだ史上初のメダルは、これからの女子バスケ界にとって大きな価値をもたらしたと思います。

 それから、メダルには届かなかったものの、男子バレーの躍進も忘れてはなりません。大学時代から海外挑戦を続けてきたキャプテン・石川祐希選手がチームにもたらした「世界と戦う意識」で、試合ごとにぐんぐん高まっていったチーム力。最終順位を7位で終え、実に29年ぶりに8強入りを果たしました。大会後、チームからはすでに西田有志選手と関田誠大選手が海外移籍を決め、今大会大車輪の働きを見せた髙橋藍選手も海外挑戦の意向を示しています。男子バレーの歴史は、今大会を機に大きく動き出していくことになりそうです。

 男子マラソン・大迫傑選手の走りも強く記憶に残りました。6位入賞を遂げたラストランは、どこか彼の哲学が走りから伝わってくるようでした。常に挑戦をし続け新たな道を創り続けてきた大迫選手が、次のステージでどのように陸上界を盛り上げ関わっていくのか、同学年としても注目しています。

 また、今大会初めて採用されたスケートボードやスポーツクライミングなどのアーバンスポーツも盛り上がりましたね。これらの競技は、国を越えて勝ち負けに関係なく互いを称えあい、それぞれのスタイルを尊重する、これまでとはまた違う新たな風をスポーツ界にもたらしたと言えるのではないでしょうか。

【過去一番の注目度だったパラリンピック】

  続いて、パラリンピック。パラリンピックでも、競泳・鈴木孝幸選手の金を含む5つのメダルに、最年少14歳・山田美幸選手の銀メダル、車いすテニス国枝慎吾選手のロンドン大会以来のシングルス金メダル、男子車いすバスケの銀メダルなどなど......こちらも挙げきれないほどの印象深いシーンが多くありました。

 そのなかでも、個人的に記憶に残ったのは男子ブラインドサッカーの戦いです。念願のパラリンピック初出場で初戦のフランス戦で快勝すると、続くブラジル戦、中国戦を落とすも最終戦スペイン戦はしっかりと勝ちきり、初出場で堂々の5位入賞を果たしました。

 特に、スペイン戦で生まれたゴール。キャプテン川村怜選手のコーナーキックから黒田智成選手が合わせて決めた、各国の選手たちをして「大会史に残る」と口々に言わしめた奇跡のようなゴールです。ブラインドサッカーでは、視覚に障害がある選手たちがプレーするため、なかに鈴の入った音の出るボールを用いるのですが、このゴールはその音が鳴らないよう、ボールを宙に浮かせて放ったコーナーキックから生まれたのです。ゴールを決めたベテラン黒田選手は「空中に浮いている時に聞こえたかすかな音で、軌道のイメージができた」と話していましたが、緻密な練習があってこそ、そしてチームの想いがひとつになったからこそ生まれたスーパープレーでした。

 今大会、ブラインドサッカーは男子のみの開催でしたが、女子にも正確無比のシュートを武器とする菊島宙(そら)選手をはじめ、すばらしい選手がたくさんいます。次回は男女ともにピッチで戦う姿を見たいですね。

 ......と、数々の歓喜の瞬間があった一方で、悔し涙をのんだ選手の姿もたくさん目にしました。どうしてもメダルばかりに目が行ってしまいますが、メダルを手にした選手よりも、メダルに手が届かなかった選手のほうが多いのですよね。

「オリンピックの借りはオリンピックでしか返せない」と話す選手もいるように、4年に1度しか(今回は1年延期により5年でしたが)、努力の報われる機会がやってこないというプレッシャーと、そこにかける思いの強さは想像を絶するものなのだと思います。

 どんな結果であれ、この舞台にたどり着いたことこそがすばらしいことなのだと、改めて心に留めておきたいです。

【伝え手の葛藤 心の置き場所を探る日々】

 こうして、選手の皆さんから、戦う姿を通じて多くの感動をもらったオリンピック・パラリンピックでしたが、大会を迎えるまでの道のりは決して簡単なものではありませんでした。取材を重ねるなかでは、複雑な心境を口にするアスリートも多く、この状況で行なわれるオリンピック・パラリンピックとは、スポーツとは何か、ということを強く考えさせられたのは我々伝え手も同じです。

 大会開催に否定的な声がアスリートに直接届くような状況で、開催が不透明ながら「開催された時のために」トレーニングに集中することは極めて難しいことだったと思います。

 時に、開催の是非を客観的に議論することとは別に、アスリートの努力自体を否定しているように感じる声もあったように思います。自分が信じて積み重ねてきた努力に対し、それは必要のないものだと声が聞こえてきたら? 直接その声が自分に届くとしたら? 想像するだけで胸がギュッと苦しくなります。もどかしい気持ちでいっぱいでした。 


伝え手としても、スポーツとは何か、を強く考えさせられました 写真:フジテレビ提供

 ひとりの伝え手としては、さまざまな状況の方々がいて、オリンピック・パラリンピックどころではない、アスリートばかりが優遇されるのは間違っているという声も、正直なところ痛いほど理解できました。

 しかし一方で、スポーツキャスターとして、3年半オリンピックに向けて取材を重ねてきたなかで、アスリートがオリンピックに向けてどれだけの思いで努力を重ねてきたかも身をもって感じていたつもりです。

 この狭間で、自分の心の置き場所を探り続ける日々が続きました。

 悩み続けて、大会を伝える立場としてたどり着いたひとつの答えは、ただ選手の努力とその裏にある思い、事実をまっすぐに伝えること。それによって、情報を受け取る側の皆さんがどう感じて、どうアスリートの姿を、スポーツを捉えるのか委ねたい。何か絶対に伝わることがあるはずだ、と信じて日々中継をしていました。

【自分に問い続けた「スポーツを通して伝えられることって何?」】

 世界がすっかり変わってしまったこの1年半、スポーツ番組に携わる者としてずっと考え続けてきた「スポーツが伝えられることはいったい何なのか」ということ。

 大会を終えた今、私なりに出したこの問いに対しての答えは「あらゆる努力を、結果がどうであれ肯定できることの大切さ」でした。

 本番で思ったように実力が出せなかった。目指していた舞台に辿り着くことができなかった。逆に、目標どおりの結果を残せた。後悔なくすべての力を出しきることができた。どんな結末になろうとも、すべての努力が等しくすばらしく尊いもので、尊敬に値するものだということを、スポーツは教えてくれるのではないか、と。そして、そういうふうに、互いの努力やバックグラウンドに思いを巡らせ肯定しあうことができれば、みんなが生きやすくなっていくのではないか、と思っています。

 大会開催に当たってのさまざまな問題点について改めて議論を続けていくことは、これからの社会に必要不可欠なことですが、まずはスポーツキャスターとしてアスリートの努力を心からたたえ、1か月半の戦いの日々を私なりに締めくくりたいと思います。


オリンピックを一緒に伝えた宮里藍さん、野村忠宏さんと 写真:フジテレビ提供


PROFILE
宮司愛海(みやじ・まなみ)
91年7月29日生まれ。2015年フジテレビ入社。
福岡県出身。血液型:0型。
スポーツニュース番組『S-PARK』のメーンキャスター。
スタジオ内での番組進行だけでなく、
現場に出てさまざまな競技にふれ、
多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。

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