【大の里「最速綱取り」への道】九州場所前稽古に密着 二所ノ関親方やライバル琴櫻とぶつかり合い、体調不安も一蹴 8年ぶり「和製横綱」誕生への期待

大の里の九州場所前稽古に密着

 九州場所の二所ノ関部屋の宿舎に、新大関・大の里(24)のうめき声が響いていた。白まわしを締めた師匠の第72代横綱・稀勢の里(現二所ノ関親方)の胸を借りたぶつかり稽古が行なわれていたのだ。

【写真】二所ノ関親方とのぶつかり稽古。近所の保育園児たちが見学にやってくると、率先して記念撮影の輪の中に入る大の里

 疲れて動きが止まると首根っこを持って引っ張り回され、土俵に叩きつけられる。何度も押しては転がされる。全身が汗と砂にまみれた7分間の稽古だった。

 大の里は初土俵から史上最速となる所要9場所での昇進を果たし、九州場所番付発表の会見で、綱取りへの思いを語った。

「大関としてまだ場所を迎えていないが、そう簡単になれるものではない。でも、大関として経験を積んで勉強していけば、さらに見えてくるものがあると思う」

 1年前の九州場所での大の里は十両。部屋の朝稽古も閑散としていたが、協会の看板力士となった今年は多くのファンが詰めかけている。師匠の稀勢の里以来、8年ぶりとなる「和製横綱」の誕生に期待がかかる。

「横綱昇進の内規には『大関で2場所連続優勝もしくは準ずる成績』とあり、九州場所で優勝すれば、来年1月の初場所が綱取りとなる。横綱昇進までのスピードも史上最短が期待され、昭和以降の最短記録である羽黒山と照国の所要16場所や、年6場所制後の輪島の21場所を大幅に更新することになるでしょう」(相撲担当記者)

 快挙が続くだけに、歴代の大横綱と比較される報道も目立つ。

 新大関の優勝は過去8人で、2006年の白鵬以来18年ぶり。関脇から新大関の連続優勝となれば双葉山以来87年ぶりだ。

 現在、大の里は56勝で年間最多勝争いのトップを走っており、11勝以上をあげて年間最多勝となれば昭和の大横綱・大鵬の新入幕での記録を抜くことになる。そんな報道の過熱ぶりに、大の里は戸惑いの色も見せた。

「1年前の自分と比べると想像していないところにいる。自分自身、実感が追いついていない部分もたくさんある」

「和製横綱」を目指す大関対決にも注目

 大の里は秋巡業を「アデノウイルス感染症」で離脱し、体調に一抹の不安を残してもいた。

 しかし、親方の胸を借りた冒頭のぶつかり稽古で、その懸念をいきなり払拭してみせた。

「番付社会で大関を転がして砂まみれにできるのは横綱だった師匠しかいない。若い力士を鍛えるために兄弟子が見せる光景です。師匠が元横綱というのは大の里にとってアドバンテージとなる」(前出・相撲担当記者)

 もちろん土俵上でも難敵が待ち構える。同じく「和製横綱」を目指し、連合稽古で大の里との取組を見せた大関・琴櫻が、独走に待ったをかける。

 110年ぶりの新入幕優勝を飾った尊富士が幕内の土俵に戻ってくるほか、同学年でたたき上げの平戸海をはじめ、王鵬、若隆景、熱海富士、阿炎が番付上位に名を連ねる。

 常に謙虚な大の里だが、今回の取材に「いい形で1年を締めくくりたい」と語った。彼なりの優勝宣言なのだろう。「和製横綱」の足掛かりとなる15日間が始まる。

取材・文/鵜飼克郎 撮影/太田真三、作田祥一、杉原照夫

※週刊ポスト2024年11月22日号

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