蛯名正義・調教師、真っ盛りの2歳新馬戦で気になるのは「どの新種牡馬の産駒が早いうちに勝ち上がるのか」

新馬戦は自厩舎の馬が出走しないレースもじっくり見ているという蛯名正義氏

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、2歳新馬戦についてお届けする。

【写真】ブルーグレーのジャケット姿、馬と顔を付け合せる蛯名正義氏

 * * *
 いまや2歳新馬戦が真っ盛り。わが蛯名厩舎では5頭がデビュー、うち2頭が勝ち上がってくれました(8月18日終了時点)。

 新馬戦は自厩舎の馬が出走しないレースもじっくり見ています。どの新種牡馬の産駒が早いうちに勝ち上がるのか興味がありますね。

 アメリカのアーカンソーダービーなど4戦4勝で引退したナダル。産駒は仕上がりがいいとデビュー前から聞いていて、どういうレースをするのか楽しみにしていましたが、早々と勝ち上がりました。皐月賞馬サートゥルナーリアや香港マイルなどGI3勝のアドマイヤマーズの産駒も勝ち上がっているようですね。

 その他芝・ダート両方のマイルGIを勝ったモズアスコット、高松宮記念を勝ったミスターメロディ、香港のGIを2勝したウインブライト、地方交流GIなどを5勝したゴールドドリームなど、異なったタイプの新種牡馬がいます。

 2歳戦は6月から始まりますが、セリ市やクラブの出資募集の時期と重なります。特に新種牡馬はこのタイミングで活躍していると、注目を集めるようですね。種付け料もまだ高くないケースが多く、その分馬の価格も控えめなので、お買い求めやすくなっています。新種牡馬から活躍馬が出ると、人気の種牡馬が偏らなくて、購入する側にとっては選択肢が広がるのではないでしょうか。

 新種牡馬で注目されているのは、やはり現役時代にGIをいくつも獲ったような馬。来年産駒がデビューする三冠馬コントレイルなどは、セリ市でもすでに高い評価を受けています。

 今年のクラシック戦線では、キズナ産駒が活躍しているように感じます。芝・ダートを問わず活躍馬が出ているので、評価が高いようです。

 2戦目で勝ってくれたラパンチュールは、僕が厩舎を開業するにあたってお世話になった藤沢和雄厩舎でスプリンターズステークスなどを勝ったタワーオブロンドンの子。やはり今年の新種牡馬です。

 僕自身はセリに出される馬をあまり先入観で見ないようにしています。新種牡馬だからとか、この産駒だからという目で見るのではなく、その馬を見て評価しています。人気種牡馬に限らず、いろいろな馬を手掛けてみたいなと思っています。

 余談ですが、そんな中、ちょっと気にしているのはオーヴァルエースという新種牡馬。2018年に高木登厩舎からデビューしたヘニーヒューズ産駒で、僕が乗って3戦3勝。少し怖がりの馬だったけれど、故障しなければダートではこの世代トップクラスだったと思います。高松宮記念を勝ったナランフレグや、ケンタッキーダービーに出たマスターフェンサーにも勝っているんです。

 地方競馬ではすでに勝った産駒が出ているようですが、この先も活躍馬が多く出てくれたら嬉しいなと思います。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2024年9月13日号

ジャンルで探す