怪物・大の里、大関昇進に追い風となるか 相撲界では異例の「兄弟子・白熊が残留」の衝撃、宮城野親方への影響も

兄弟子・白熊(左)の横で手を振る大の里(時事通信フォト)

 5月場所で優勝を果たし、来場所の成績次第では大関昇進の可能性もある大の里。幕下10枚目格付け出しでの初土俵から1年、新入幕から3場所での初優勝だった。新入幕後、11勝→11勝→12勝と34勝を挙げ、3場所連続での三賞受賞も果たした。令和の大相撲を背負って立つ力士になることが期待されているが、その将来をも左右する重大事が、5月場所後に起きていた。

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 大関昇進には「三役で3場所通算33勝以上」という目安があり、大の里は3月場所が平幕(西前頭5)だったため、審判部長の高田川親方(元関脇・安芸乃島)は「(7月場所は)昇進を懸ける場所ではない」としているが、来場所の成績によっては昇進もあり得ると担当記者はみている。

「三役で3場所33勝以上というのはあくまで目安であり、明文化されたルールはない。過去には大関昇進の3場所前が平幕だったというケースもある。直近では栃ノ心がそう。西前頭3枚目だった2018年1月場所で14勝1敗の初優勝を果たすと、直後の2場所は関脇で10勝、13勝。平幕上位での優勝が評価された。横綱・照ノ富士も2015年、最初に大関昇進した時は平幕が起点。東前頭2枚目で8勝。新関脇で13勝した後に、12勝で初優勝。三役2場所の成績が評価されて昇進したかたちだ。

 大の里も2場所連続優勝ということになれば、昇進の機運は高まる。13勝以上なら優勝しなくても昇進するのではないか。今年の3月場所から琴櫻が昇進して4大関となったが、先場所はカド番だった霧島が大関を陥落。貴景勝もカド番を繰り返している。弱い大関がいることも、大の里には追い風となる。いずれは横綱を期待されており、唯一の学生出身横綱の輪島を超える力士になれるとの期待もある」

同じ中高大でも嘉陽は中村部屋へ移籍

 そんな期待がかかるなか、大の里が所属する二所ノ関部屋付きの中村親方(元関脇・嘉風)が6月1日付けで独立し、部屋を新設することが5月30日の理事会で承認された。前出・担当記者が続ける。

「2021年に所属していた尾車部屋が閉鎖となり、中村親方は内弟子のかたちで二所ノ関部屋に連れてきた力士が8人(移籍後1人引退)いた。移籍後も内弟子として母校・日体大から2人を獲得。他にも1人が内弟子として入門し、合わせて10人の内弟子が中村部屋に移籍すると見られていた。

 ところが、中村部屋に移籍すると発表されたのは8人。中村親方の内弟子のうち、大の里の優勝パレードで旗手を務めた十両・白熊と幕下・麒麟龍の2人は移籍せずに二所ノ関部屋に残ることになったのです。白熊は、大の里と同じ糸魚川市立能生中学、海洋高校(ともに新潟)から日体大に進んだという経歴の持ち主です。麒麟龍はやはり中高が同じで大の里の1学年後輩にあたります」

 大の里の中・高・大の1学年先輩で兄弟のように仲が良い白熊と、尾車部屋への体験入門で嘉風(当時)に稽古をつけてもらったことがきっかけで尾車部屋に入った麒麟龍が移籍しないという発表に関係者の間では驚きが広がっている。二所ノ関一門関係者が言う。

「この世界では異例の話です。通常、内弟子は部屋付き親方が独立の時に一緒に連れて出ることを前提に、部屋の師匠に預けるかたちをとっている。もちろん明文化されておらず、あくまでも慣習、口約束です。しかし、師弟関係を重視する角界ではそれが常識。

 今回、独立にあたり中村親方は内弟子全員に考えを確認したそうです。すると白熊と麒麟龍が残留の意思を示したという。白熊と中高大と同級生で双子のようだと言われていた幕下・嘉陽は移籍することになった。来場所は新十両の嘉陽だが、今場所は大の里の付け人をやっており、5月場所は大の里、白熊、嘉陽の3人が毎晩のように焼き肉に出掛けてゲン担ぎをしたほど仲がよかった。大の里は残ってほしいと希望していたようで、最後は白熊が自分の意思で残留を決めたという。部屋の環境でいえば稽古相手に大の里もいる二所ノ関部屋は抜群。嘉陽も残りたかったのでしょうが、角界の慣習で移籍を決意したのだと思われます」

 中村部屋は両国国技館のすぐ側にある元陸奥部屋の建物に入ることになり、茨城に立地する二所ノ関部屋とは大きく違う環境での立ち上げとなる。

「中村親方としては内弟子を残していくことに忸怩たる思いだろうが、独立を認めてもらえたことのほうが大きいのだと思う。あれだけ手が合っていた二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)と手が合わなくなったと聞きます。中村親方は指導においてすぐに口を出したくなるタイプだといい、特に大の里が入ってからは、二所ノ関親方が自分のやり方で弟子を育てたいとの考えを強め、方向性が違ってきていた。

 当初は引っ越し先の元陸奥部屋の改装工事などで9月場所後の独立とみられていたが、7月の名古屋場所前に前倒しされたことと、大の里の出世が想定より早かったことは、無関係ではないのではないか」(前出・二所ノ関一門関係者)

宮城野親方の今後に影響も

 白熊と麒麟龍の残留は大相撲の慣習から考えると異例中の異例の出来事だ。「内弟子が独立時についていかない」という前例ができた意味は大きいという。協会関係者が言う。

「これから様々な場面に影響してくる話です。まず思い浮かぶのは元横綱・白鵬の宮城野親方の今後。弟子の不祥事で宮城野部屋の親方、力士は伊勢ヶ濱部屋に吸収されたかたちだ、いずれ処分が解けて宮城野部屋の再興した時に、もともと部屋にいた力士たちを連れて“再独立”することになる。この時に伊勢ヶ濱部屋に残りたいという力士が出てきたら、認めるしかないという話になるわけですから」

 元宮城野部屋の力士は伊勢ヶ濱部屋への転籍後に引退が相次いでいる。転籍時のみならず、5月場所後も4人が引退した。宮城野親方にとっての試練も続きそうだ。

※週刊ポスト2024年6月21日号

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