元鉄道マン・深沢大和が現役復帰 東急が「もっと頑張って」と前例なきバックアップ ロス五輪へ「日本新狙う」

田園調布駅での研修期間時代の深沢大和(中央)(東急提供)

 “元鉄道マン”が、競泳界に戻ってきた。国スポの成年男子100メートル平泳ぎ決勝が15日に行われ、深沢大和(東急)が59秒84で2位。今年3月のパリ五輪代表選考会は200メートル3位で代表権を逃し、引退の意向を示していたが7月に現役復帰。東急では前例のない異例の“プロスイマー”として、28年ロス五輪を目指す。

 昨年春に慶大を卒業した深沢は、総合職採用で東急に入社。夏は東急電鉄・田園調布駅で駅員研修を積むなど、当初は社業に専念する方針だった。だが早朝や仕事後にプールに通う生活ながら、大会では自己ベストを更新するなど実力が開花。パリ五輪挑戦の思いが強くなり、東急に相談したところ長期での「勤務免除」が認められ、10月からはパリ五輪をリミットに競泳漬けの生活が実現していた。

 メキメキと力を伸ばし、代表選考会ではパリの派遣標準記録2分8秒48を上回る2分7秒75をマーク。だが3位で上位2人に与えられる代表権をつかめず、会社との約束通り現役引退を表明していた。選考会後は、人材戦略室の「キャリア開発部」で、新入社員の研修を行うなどサラリーマンの日々。深沢自身も競技の道は考えていなかったが、部長面談で「競技を続けて欲しい」と伝えられるなど、周囲の期待もあったという。その中で「そこまで言ってもらえるならやりたいなと。自分でも、まだいけると思った」と続行の道を相談。東急では社員選手を抱えるなど過去に例はなかったが、上司の尽力もあり社長からの承認を得るに至った。

 7月1日から広報などを担う部署に移り、本格始動。前上司は「会社としても応援していて楽しかった。頑張っているのはうれしいから、もっと頑張って」と背中を押してくれた。「若者の夢を応援してくれるような部長さんで。いい人に出会えた」。現在は、選考会まで師事していた高城直基コーチにメニューをもらい1人で練習をしているが、国スポ後は高城チームに復帰予定。競泳は、毎年の成績などを会社側から評価され継続が検討されるという。

 派遣記録を上回りながら届かなかったパリ五輪。深沢は「悔しくて、あまり見られなかった。やっぱり出たかった」とこぼした。練習仲間だった渡辺一平(トヨタ自動車)はパリに出場。「もう一回、2人で頑張っていいタイムを出したい」という思いもある。新たな挑戦で、直近での目標は短水路での世界選手権(12月)出場。そして来年にはシンガポールでの世界水泳も控えている。「日本記録も、100Mも200Mも狙えると思うので。絶対にどこかで出したい」と深沢。一度迎えた終点からの再出発。ロス五輪の切符は、絶対に逃さない。(大谷 翔太)

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