「これからの旅が本当に楽しみ」佐々木憂流迦の“プロレスラー”としての挑戦

「デビューとはいえエキシビジョンなので。まだ“お試し”みたいなイメージはありますね。方舟に試乗させてもらったというか。体験ツアーをやらせてもらったくらいの感じですよ(笑)」

11月13日、プロレスリング・ノア『MONDAY MAGIC ep3』(東京・新宿FACE)で、プロレスデビューを果たした総合格闘家の佐々木憂流迦は、こう屈託なく笑う。

佐々木憂流迦は元・修斗環太平洋フェザー級王者で、2014年からMMA(総合格闘技)の世界最高峰UFCで4年間活躍。2018年からは日本のRIZINに参戦し、のちのRIZINバンタム級王者で現UFCフライ上位ランカーのマネル・ケイプに勝利。今年5月の「RIZIN.42」でも、南アフリカのボイド・アレンに勝利している日本トップクラスのMMAファイターだ。

そんな佐々木が10月13日NOAH新宿FACE大会に突如登場し、プロレスラーとしてデビューすることを宣言。11月13日『MONDAY MAGIC ep3』がプロレスラーとしての初陣となった。

▲個性的なファッションで身を包み、インタビューに答えてくれた佐々木憂流迦【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】

「プロレスの試合で闘える体」を目指す

この大会は全カードが当日発表、佐々木は第1試合にいきなり登場し、拳王とタッグを組み、征矢学&中村大介組と対戦。拳王は現在のNOAHの頂点に立つGHCヘビー級王者で、対する征矢学は拳王が持つ王座に1月2日の有明アリーナで挑戦するトップコンテンダー。中村大介はプロレスとMMAの“二刀流”で闘う先駆者。10分一本勝負のエキシビションマッチとはいえ、佐々木はいきなりNOAHに最前線に立たされることとなった。

 「カードを聞いたときは『えっ! 俺、ここに入るの!?』って(笑)。いきなり、とんでもないメンバーでしたからね。でも、トップのプロレスラーに触れたい気持ちは持っていたので、リングで触れられることのほうが楽しみでした。

ただ、やってみた感想は、自分がジタバタしているなと思ったのと、遊ばれているなって。プロレスラーとしては、まだまだ赤ちゃんだなと思いましたね(笑)。総合だとスタミナに自信があるんですけど、プロレスだと疲れるのも早かったし、まだまだ順応していない自分をエシキビジョンながらも体感できたのが、収穫と言えば収穫ですね」

▲体格も総合格闘技の頃から見違えるほど変わった

今回、ファンを驚かせたのは佐々木の肉体の変化だ。UFCではフライ級(56.7kg以下)、RIZINではバンタム級(61kg以下)、フェザー級(66kg以下)と軽量級で闘ってきた佐々木が、約90kgに上げて登場。身長は実寸で177cmあり、手足も長いため体格で見劣りすることはなかった。

「プロレスをやるからには、やっぱり体を大きくしたいと思って肉体改造に取り組んできたんですよ。でも、体重を上げたとはいえ、まだ格闘家の体でプロレスラーの体にはなっていないので、時間をかけて作り上げていこうと思ってますね。

具体的には食生活もそうですけど、上半身のトレーニングをかなり増やしています。肩回りや胸部って、総合格闘技だとそんなに必要ない部分の筋肉なんですけど、プロレスだと見栄えも含めて必要な筋肉なんじゃないかなと思うし。

ただ、まだ自分のプロレスラーとしてのスタイルがわからないので、試行錯誤している感じです。もしかしたら自分に合うスタイルは、そんなに筋肉を必要としない“なめらかな動き”かもしれないし。それはプロレスを追求する旅のなかで見つけていくしかないですよね」

とはいえ、まずは「プロレスの試合で闘える体」を作ることが重要だと語る。

「早く体を作らないとヤバいですよ。ひとつひとつの技がとんでもない衝撃なんで。ホント、征矢学はヤバい。ボディスラムとかチョップなんて基本技じゃないですか。それがめっちゃ効くんですよ。あとショルダータックル。あの巨大な塊が向かってくるのは、マジで怖かったですよ(笑)。

こっちの技は、蹴ってもビクともしないし。さすがにけっこう効くだろうと思ってバシッて蹴ったら、でっかいタイヤ蹴ってるみたいな感じで全然動きませんでしたからね。そのあと、こっちはスラムで投げられて、めっちゃ効いてるんだから。これでボム系の技なんか食らったらホントに危ないし、死んじゃう(笑)。だから、自分を守るためにも受け身をもっと練習して、体も頑丈にしないといけないですね」

▲征矢学・中村大介との対峙を振り返る

こうして10分一本勝負をフルタイム闘い、プロレスの厳しさとプロレスラーの肉体の強さを体感した佐々木だが、冒頭で語ったとおり、このデビュー戦はあくまでもエキシビションマッチ。まだ本戦ではないことを前向きに捉えている。

 「今回の自己採点は20点くらいですかね。動きはなんとなくできたけど、ちゃんと試合になっていたのは、周りの選手たちの腕だと思います。まだまだって感じです。ただ、今回のエキシビジョンは「格闘家・佐々木憂流迦の方舟試乗」だと割り切ってます。

だから、コスチュームも(MMA用の)ファイトショーツだったし、技もアームロックや蹴りを使いましたけど、正式デビューとなったらコスチュームもファイトスタイルもガラリと変わって、格闘家の佐々木憂流迦ではなく、プロレスラーの佐々木憂流迦がいると思う。ずっと裸足で試合してきたけど、リングシューズだって履きたいと思ってますしね」

格闘家がプロレスのリングに上がるのではなく、本物のプロレスラーになるべく真剣に取り組んでいる最中である佐々木憂流迦。プロレスファンの反応も、そんな彼の心意気を感じ取り、11月13日新宿FACEも歓迎ムードに包まれた。

自分はプロレスラーになる運命だったとしか思えない

その一方で、一部の格闘技ファンからSNSなどでは「MMAから逃げるのか」「通用しなくなってプロレスに行くのか」など、否定的な声も散見された。

 「RIZINに来てから直近の戦績がそんなに良くなかったから、そう言われるのかもしれないですけど。僕のストーリーをしっかりと追っている人は、そんなこと言ってないと思うんですよ。それを言わせてしまっているのは、まだ僕のプロレスラーとしての腕不足。『憂流迦は本当にプロレスがやりたくてやってるんだ』と思わせることができてないからだと思ってます。

MMAファイターとしての限界なんて全然感じてないですから。俺、MMA強いっすよ。そこはナメちゃいけない(笑)。今、練習でMMAのスパーリングやっても全然強いんで、MMAから逃げる理由もないし、もともと40歳までは続けるつもりだった。

でも、そういうことじゃなくて、僕は『これがやりたい』という自分の衝動に従って生きているので。今は“何よりもプロレスがやりたい”という気持ちなのは紛れもない事実。34歳の自分がとにかくワクワクすることなので、プロレスに真剣に取り組んでるんです。やっぱり人生、自分が本当にやりたいことをやらなきゃダメってことですよ」

▲真剣な思いでプロレスの道を歩む

佐々木憂流迦がそこまで「プロレスがやりたい!」と思ったきっかけ、それは今年の元日、NOAHの日本武道館大会で行われたグレート・ムタvsシンスケ・ナカムラ(中邑真輔)を生で「観てしまった」からだった。

「共通の知人を通じてご縁をつないでもらったNOAHの関係者に誘っていただき、日本武道館に行かせていたたいだんですけど。ムタと真輔さんの試合を観て、感動で打ちのめされましたね。

僕は絵画や映像作品、お芝居なども含めた芸術、アートが好きでたくさん見るんですけど、あそこまで“食らった”ことはなかったんですよ。僕自身、プロレスも格闘技もすべて『ファイトアート』だと思っていて、総合格闘技をやりながらも常にアートとしての作品を目指してきたんですけど、あの試合は『ファイトアートの作品として、こんなにすごいものを作ることができるんだ』って感動して、そこで腹が決まったんです」

もともと佐々木は少年時代からプロレスファンで、しかも武藤敬司、グレート・ムタのファン。中邑真輔は和術慧舟會の先輩にあたることもあり、個人的な親交もある憧れの対象だった。そんな二人が作り出す『ファイトアート』の作品を目の当たりにしたことで、佐々木憂流迦の運命は変わり、その約1年後となる、来年1月2日のNOAH有明アリーナ大会でプロレスラーとして正式デビューを果たす。

▲子どもの頃からプロレスラーは憧れの存在だった

「“食らった”1年後に自分がプロレスラーとしてデビューするとは思わなかった。しかも会場は、自分がRIZINで最後に試合をした有明アリーナ。最初から運命が決められていたかのようにストーリーが出来上がってて、自分でも不思議ですよ。こんなことが起こるんだって。それが起こるのがプロレスなんですかね。自分はプロレスラーになる運命だったとしか思えないですよ(笑)。

これからどんなことが起こるんだろうかって、めっちゃ楽しみです。プロレスラー・佐々木憂流迦は、どんなレスラーになるんだろうって。まだ見ぬ自分に出会える可能性があると思うんですよ。真輔さんだって最初は格闘技路線で、クネクネし始めたときは『何やってるんだ!?』って思われたんじゃないかと思いますけど(笑)。

それが今や唯一無二の個性として世界で認められてますからね。どんな自分を解放して、どんな作品を作り上げることができるのか。これからの旅が自分自身でも本当に楽しみなんで、ファンの人たちもそれを一緒に楽しんでもらえたらと思いますね」

2024年1月2日の有明アリーナで行われる佐々木憂流迦のデビュー戦の相手は、元GHCヘビー級チャンピオンであるNOAHの重鎮、杉浦貴に決定。この超実力者相手に、佐々木憂流迦はどんな試合、そしてどんな自分を見せるのか。“摩天楼の天狗”と呼ばれた男の処女航海に注目だ!

▲プロレスラー・佐々木憂流迦の今後に期待が高まる

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