野球で経済効果1億円 「全国初」のまち、期待する高校野球の底力

大阪桐蔭が参加した招待試合を観戦する阿南市民ら

■人口減ニッポン 高校野球の今(1)徳島・阿南光

 「ナイスバッティング!」「今のは惜しかったなあ」

 6月上旬の週末。徳島県阿南市の山間にある球場で、市民ら1300人が高校野球を見て、わいていた。春夏9回の甲子園優勝を誇る大阪桐蔭と、県内4チームが対戦する「高校野球招待試合in阿南」が開催された。

 今春の選抜大会で、公立校として唯一8強入りした地元の阿南光が3―2で競り勝った。

 「阿南光の活躍のおかげで、今年はさらに盛り上がったんじゃないですか」。満足げに語るのは、市産業部「野球のまち推進課」で課長を務める大川康宏さん(54)。県外の強豪校を招いた試合は、今年で3回目だ。

 主催は県高野連だが、企画したのは市だった。2010年に誕生した同課は、市役所に「野球」の名がつく全国初の例とされる。大きな観光地がなかった市が07年、ナイター設備があるJAアグリあなんスタジアムが完成した際、野球による町おこしを狙った。当時、小学生や社会人ら100近いチームが活動しており、野球の文化が根づいていた。

 市の試算では野球関連の事業による経済効果は年間1億円に上る。特に、球場利用代と市内ホテルの宿泊費、阿波踊りを一緒に楽しむ宴会代などをセットにした1泊2日の「野球観光ツアー」が、県外の中高年の草野球チームに人気だ。

 民間からの寄付金を原資に、22年から招待試合が始まった。今回の企画で、市が計上した予算は180万円。岩佐義弘市長(53)は「高校生がいずれプロや県外の社会人チームで競技を続けたとしても、いつか野球熱の高い地元に帰ってくれるかもしれない」と、長期的な目線でも効果を期待する。

 阿南市の人口は、徳島市に次いで県で2番目。ただ、1980年の8万2710人をピークに減少が続き、今年5月末時点で6万8419人となった。阿南光は、少子化に伴う学校再編で、新野と阿南工が統合して2018年にできた。

 「市全体からのバックアップを感じる。この時期に、全国トップチームと戦えたのは大きい」と高橋徳(あつし)監督(41)。選抜前には優先的に市内の球場や室内練習場を使用させてもらった。

 監督は22年春に就任した際、「県南の力で勝つ」と決めた。自身は県北部の鳴門市出身だが、幼児向け野球教室を開くなど地域を挙げて野球振興を図る阿南市に来て、身近に才能ある子どもがあふれていると感じた。

 実際、選抜大会で活躍した3年生のエース吉岡暖(はる)や主将・井坂琉星ら主力の多くが、中学時代に全国優勝した「ヤング阿南シティホープ」のメンバーだった。

 県内の野球部員数は、20年度に1千人を割った。部員減に悩むチームも多い中、阿南光にはこの春も1年生19人が入部。選手44人のうち県南地域の出身者は40人となった。森河丈志・県高野連理事長(56)は「子どもが減る中で、市の協力は非常にありがたい。これからも地域とつながりを強化したい」と話す。

 自治体が野球をサポートし、選手たちの活躍が市民を盛り上げる。躍進した選抜大会で吉岡は言った。「はたから見たら、どこやねんて感じでしょ。『阿南』の名前を全国に広げられたら」。この夏、さらに地元を元気にするつもりだ。(室田賢)

■2023年度の日本高校野球連盟加盟校・部員数(硬式)

    部員 加盟校

東京  9127 272

愛知  6930 185

神奈川 6206 188

大阪  5933 182

埼玉  5819 160

和歌山 1213 39

福井  1160 28

徳島  921 30

高知  864 29

鳥取  722 24

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