小久保裕紀監督「選手には下から目線で…」独走ソフトバンクを生んだ“慶應ボーイ3兄弟”

“上から目線”はすっかり影を潜め、対話重視の指揮官に変貌した小久保監督

 

 ソフトバンクの勢いが止まらない。7月7日に早くも50勝を挙げ、76試合を終えての戦績は50勝23敗3分。勝率は驚異の.685となり、2位ロッテに9ゲーム差をつけての独走状態なのだ。

 

 日本プロ野球史上最短のマジック点灯は、2022年のヤクルトの7月2日(M53)。それには及ばないものの、いかに今季のソフトバンクの戦力が充実しているかがわかる。その強さの秘密とはーー。

 

 

「チームには『今季はリベンジの年』という気持ちが充満している」と担当記者は語る。

 

「2022年、残り2試合でチームはM1。2位オリックスの最終戦の結果次第では、引き分けでも優勝の状況でした。ところが西武戦(所沢)、ロッテ戦(千葉)のビジター2連戦でまさかの2連敗。オリックスが勝ったため、優勝を逃しているんです。残り2戦のスタジアムにはビールかけの会場が用意されていただけに、二重のショックでした。

 

 さらに2023年も、ロッテとのCSファーストステージで勝ったほうがファイナルステージに進める第3戦、0-0で延長に突入。10回表にソフトバンクが3点を取って勝利確実と思われたんですが、その裏にまさかの4失点でサヨナラ負け。ナインは『2年連続で落とし物をした。取り戻しにいこう』という気持ちが強いんです」

 

 ただ、けっして順風満帆だったというわけではない。WBCメンバーで、二塁のレギュラーだった牧原大成(31)が右内腹斜筋損傷で離脱。しかも、牧原と競っていた三森大貴(25)までが、右手人差し指を痛めて出場選手登録を抹消された。

 

 極めつきは、柳田悠岐(35)が右太もも裏を痛め、今季絶望と予想されている。主力の離脱に加え、四番の山川穂高(32)が極度の不振となれば、普通ならチームの成績も下降の一途を辿るはず。

 

 ところが結果はまったくの逆で、6月は17勝5敗1分けと勝ちまくった。その要因は、「欠けた選手たちを補って余りある控え選手たちの活躍です」と、前出記者は続ける。

 

「まず挙げられるのが、柳町達(27)、正木智也(24)、廣瀬隆太(23)の“慶應ボーイ3兄弟”ですね。柳町は柳田の代わりとして注目されるなど打撃がいい。廣瀬は守備がよく、牧原の穴を埋めています。正木は怪我で伸び悩んでいましたが、2人の活躍に刺激を受けてか、長距離砲としてひと皮剥けた感じです。彼らが下位打線に入って、点が取れることも大きいです」

 

 さらに、“育成三銃士”の異名を取るトリオの活躍も見逃せない。川村友斗(24)、緒方理貢(25)、仲田慶介(24)の3人だ。彼らは途中出場が多いが、起用されればきっちり結果を残す。しかも3人に共通しているのは守備がうまくて肩が強く、足が速いということ。守りや代走のスペシャリストとして“切り札”となっているわけだ。

 

「脇役たちの活躍が、勝利に貢献していることは間違いありません。彼らを抜擢したのは、今季からチームを率いる小久保裕紀監督(52)。現役時代はダイエー、ソフトバンクの主砲として長年活躍し、巨人でも四番を務めた。

 

 引退後は指導経験のないなか、いきなり日本代表の監督に就任しました。退任後はソフトバンクのヘッドコーチに就任と、まさに球界のエリートコースを歩んできている。それだけに、ヘッドコーチ時代は若手からは近寄りがたい雰囲気だったし、指導法も上から目線だったといいます。

 

 しかし、2022年に二軍監督に就任すると明らかに変わりました。二軍には、技術的にも精神的にも未熟な選手が多い。エリートだった彼が、そんな選手たちに寄り添い、親身になって指導したり相談に乗っていました。

 

 指導は技術だけではないと悟ると、経営学などの本を読み漁った。また、一流経営者のセミナーにも積極に参加して、人を育てる術を学んでいました。二軍で経験を積んだ結果、“慶應ボーイ3兄弟”や“育成三銃士”を育てることができたわけです。

 

 またコーチでは、小久保監督の信頼が厚い倉野信次投手コーチ(49)の存在が大きい。彼はソフトバンクで二軍投手コーチ補佐に始まり、三軍投手コーチ、米国留学、そしてレンジャーズ傘下のチームでMLB初の日本人投手コーチまで務めた人。

 

 彼の指導法は、悪い部分が目立ってもポジティブなことしか言わない。これで投手陣は自信をつけた。また、彼の指導を受けると球速が10キロアップすると言われ、ファンの間では“魔改造”と讃えられています」(スポーツ紙デスク)

 

 離脱者が出ても新ヒーローが活躍を見せ、成長した指揮官を中心に一枚岩となる。4年ぶりの“ビールかけ”――。今回ばかりはドタキャンはなさそうだ。

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