「ボールが飛ばない」プロ野球のデータで分かった「長打激減」統一球導入時よりも圧倒的に低下

5月30日時点、パリーグ本塁打数トップのソフトバンク山川穂高(右)。

 

 2024年のNPBではオープン戦の頃からボールが飛ばないという声が聞かれはじめ、シーズンに入っても同様の指摘がなされている。

 

 5月29日試合終了時点で、NPBにおける1試合あたり、1チームあたりの平均本塁打数は、0.48となっている。この数値だけではピンとこないかもしれないが、2010年以降もっとも低い数値である。昨年の0.73と比較しても極端な下落だ。

 

 

 そもそも、本塁打数の減少とボールが飛ばなくなっていることとは、必ずしもイコールではない。本塁打数の減少には、投手の技能の向上、データ分析による配球の変化、打者の不振なども影響しうるからだ。しかしここまで極端に数値が下がると、使用球の何かが違うのではないかと考えたくなってしまう。

 

 ボールが飛ばないという話で思い出されるのは、いわゆる統一球問題である。NPBではそれまで複数のメーカーのボールが使われていたが、2011年シーズンよりミズノ社が製作する統一球が導入された。その結果、2010年は0.93だった平均本塁打数が、2011年には0.54まで激減。さらに2012年は0.51まで下がった。つまり、統一球導入2年目にあたる2012年が2010年以降の最低値だったわけだが、今年は現時点でこれを更新しているのである。

 

 統一球導入後の2年間、NPBもメーカーもボールの反発係数は従来の基準値の範囲内だとしていた。ところが2013年のシーズン中、一転して、過去2年間の反発係数は基準値の下限を下回ることがあったと発表された。さらには2013年から基準値の下限を下回らないように、すなわち反発係数を上げるように、メーカーに要請していたことも明らかになった。

 

 実際に現場からは、2011年にはボールが飛ばないという声が、そして2013年にはボールが飛ぶという声が上がっていたのだが、それを追認する形となったのである。2013年の平均本塁打数は、0.76まで急上昇した。

 

 以後、2023年までの平均本塁打数は0.7台~0.9台で推移していたのだが、今年はまだ5月とはいえ大幅な下落になっている。統一球問題を経験しているだけに、現場の選手や首脳陣が、今年はボールが変わっているのではないか、と考えるのも致し方ないだろう。ましてや、飛ばないと言われた2011~12年よりもさらに本塁打数が減っているのだ。

 

 NPBやメーカーが意図的に仕様変更をしていなくても、管理方法など環境的な影響も含めて何らかの要因があるのかもしれない。しかし管理方法を変更したという話もまた、今のところは聞かれないようだ。

 

 たしかに過去5年間を見てみると、本塁打数は減少傾向にはあった。2019年の平均本塁打数は0.98で、2010年以降で最多。以後、2020年0.89、2021年0.84、2022年0.76、2023年0.73と徐々に減少していた。とはいえ、今年の落ち込み具合は突出している。2019年と比較すれば半分以下だ。

 

 なお、今年はNPB全体の長打率も2010年以降で最低の.329となっている。2010年は.407だったが、4割を超えたのはこれが最後。統一球が導入された2011年が.344、2012年は.343で、今年はこれらよりも低い。2013~2022年は3割6分台から3割9分台で推移するが、2018年の.399をピークに下落傾向に入り、昨年は.358。6年間かけて4分ほど下落したわけだが、今年は前年比で一気に約3分も下がっているのだ。

 

 とはいえ、今シーズンも徐々に飛距離が戻ってきたのでは、という現場の声が実はあった。しかし、5月13日試合終了時点で平均本塁打数0.49、長打率.329で、前述のように平均本塁打数はむしろ減り、長打率は変わっていない。29日までの2週間で0.01減だから誤差の範囲とも考えられ、飛距離の回復傾向にあると言えるかどうかは微妙なところだろう。

 

 投手の話になるが、かつての統一球導入とその後の仕様変更の中でスライダーの変化が悪くなったと感じ、投げる際にひねりを加える動作を増やしたところわき腹を痛めてしまったという声を聞いたことがある。ボールの仕様変更が発表されていれば、そのような無理なフォーム変更はしなかったのに、と嘆いていた。

 

 このように、ボールの仕様変更が明らかにされないことで選手の感覚が狂わされしまい、怪我につながるということもあり得る。いずれにせよ、投手・野手に関係なく安全にプレーできることを祈るばかりだ。

 

文・小島一貴

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