生理の課題「男性にも知ってもらいたい」 女性も、男性も、自分の体を知ることの大切さ

一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)は9月6日、「女性アスリートのためのシンポジウム『生理とスポーツ』」を開催した。

「女性アスリートのためのシンポジウム『生理とスポーツ』」に登壇した元競泳日本代表の伊藤華英氏

「女性アスリートのためのシンポジウム『生理とスポーツ』」に登壇した元競泳日本代表の伊藤華英氏

「女性アスリートのためのシンポジウム『生理とスポーツ』」伊藤華英氏インタビュー

 一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)は9月6日、「女性アスリートのためのシンポジウム『生理とスポーツ』」を開催した。

 このシンポジウムは、UNIVAS加盟大学である順天堂大スポーツ推進支援センターの協力により実現。元競泳日本代表の伊藤華英氏が登壇し、UNIVAS副会長であり、元マラソンランナーの有森裕子氏、元ハンマー投げ日本代表の室伏由佳氏らオリンピアンらと、女性学生アスリートの月経の問題について意見交換を行った。

現在、社団法人『スポーツを止めるな』の理事を務める伊藤氏は、同法人の生理×スポーツの教育・情報発信活動、『1252プロジェクト』のリーダーでもある。普段からトップアスリートや専門家とともに、女子学生アスリートの悩みに寄り添う活動を行う伊藤氏が、シンポジウム終了後、インタビューに答えた。

――今回、UNIVASはシンポジウムに参加する女子大学生アスリートに対し、生理に関する事前アンケートを実施(回答者数104名)。そのなかで、「生理に関する不調やトラブルが起きた際、誰に相談をするのか?」という問いに対し、家族(57.7%)、友人・競技仲間(46.2%)、産婦人科医(14.4%)の順に多く、コーチ・指導者は1%、教員はゼロという結果になりました。また、相談する相手がいないという回答も10%ありました。

「私たちの団体でも、中学生から大学生に対しアンケートをとっていますが、ほぼ同じ結果です。また、学生の42%は生理の悩みを抱えているにも関わらず、特に対策はしていないという人も63%いました。

 学生は家族、特に母親や友達に相談する方が多いかもしれません。でも、ほとんどの方には専門的な知識はなく、自分の経験からアドバイスをするしかありません。しかし、生理は十人十色。体調や痛み、あるいはメンタル面の変調など、生理によって現れる症状は一人ひとり異なります。

 今回の回答から、月経や女性の体について専門的な知識を持ち、かつ気軽に相談のできる存在の必要性を改めて感じました。同時に、知識を持つ指導者はいても、伝える機会や場所がなかったり、伝え方がわからなかったりするので、学生と指導者間のコミュニケーションも課題と感じます」

――女子学生アスリートと月経の話をすることはセクシャルハラスメントになるのでは? と心配される男性指導者もいます。月経トラブルは健康問題ですが、この手の話はなかなか消えません。

「月経に関する課題はその国の文化を象徴しています。例えば世界には、月経中は他人と会ってはいけないとする国もあります。日本では月経のことを人に話すのは恥ずかしいという感覚、隠す文化があります。

 しかし、選手、指導者、家族が体に関する正しい知識を持てば、月経の話をする際に『個人的な問題』『誰かに言いにくい』『恥ずかしい』『セクシャルハラスメントになる』という認識もなくなり、コミュニケーションが円滑になるのではと思っています。

 ところが、女性の健康について、そして月経がいかに女性の健康と関わるのかについては、あまりうたわれてきていないと私は日々感じます。まず、当事者である女子学生自身、生理の仕組みがわからない人が多い、という課題がある。ある統計では、生理について学んだのは小学生のときという回答が90%を占めていました」

伊藤氏は「体を知る」は人間が活動するなかで最も大切なことと語った

伊藤氏は「体を知る」は人間が活動するなかで最も大切なことと語った

「体を知る」は人間が活動するなかで最も大切なこと

――長い学校生活のほんの一瞬に過ぎませんね。

「そうです。また、認知的なLGBTQの課題も含めて、ジェンダーの課題も山積みですが、体の仕組みでいうと男性・女性では異なります。ところが、私が子どもの頃は、月経の仕組みを学ぶとき、何故か男女に分かれて講義を行っていました。今は男女一緒に実施する学校も増えましたが、それでも半数は未だに男女別に行っているという報告があります。

『体を知る』ことは人間が活動していくなかでもっとも大事なことですので、自分の体のこと、そして自分とは異なる性のことも知ってもらいたい」

――伊藤さんはオリンピアンであり、かつ月経の正しい知識を伝える活動をされています。アスリートと専門家や指導者を繋ぐ現場で感じる難しさは何でしょうか?

「日本のスポーツ界は縦割り社会の象徴みたいな側面があります。競技団体内での上下の繋がりは強くても、例えば、他の競技団体やそこに関わるステークホルダーは横のつながりがない。いかに横断的な取り組みにしていくかを考えないと、知識や情報を共有することがすごく難しい。

 正しい知識や見識は一部が抱え込み、『私たちが得た情報なので私たちとだけ、一緒に取り組みましょう』という考えでは広まらないんですね。やはり、スポーツ界に関わる者同士、様々な垣根を超えて、協力することが大事ですし、協力することに意味があると思っています。

 月経のことに限らず、正しい知識や知見はきちんと共有して、スポーツ界や社会を、より良くしていこう、という意識がないと、現状は変わりません」

――今回のシンポジウムを終えて、改めて、学生アスリートに伝えたいこととは?

「スポーツの現場に限らず、女性と男性が一緒に活動する機会は多くなりましたが、男女では体が異なることを改めて知ってほしい。自分と他者との違い、多様性など、近年言われていますが、まずは自分と他者との違いを理解することなのかもしれません。

 女性は初経(日本の平均は約12歳)が来たら閉経(同約50歳)するまで、月経とともにあり、生涯、健康であるために必要なものです。女性は初経を迎えるとのちに、妊娠、出産をする機会があったり、閉経を迎えたりと、ライフステージによっての体の変化がすごく大きいんですね。

 やはり一緒に生きていくというところで、男性は女性の、女性は男性の体について知ってもらいたい。そして女性が抱える月経に関する課題には、ぜひ男性も知ってほしい。当事者だけの声では、スポーツ界の月経の課題を取り巻く状況は、変わらないと思います」

――女性アスリートの環境整備には男性の協力は不可欠。

「今の日本はまだまだ男性中心の社会です。特にスポーツ界は、競技団体の女性 役員の割合は9%程度(9.4%※1)、指導者も約7割が男性(72.5%※2)というデータがあります。ですから、月経の課題に取り組むには、男性の指導者、そして、一緒に練習する男子学生にも知ってもらいたい。

 同時に男子学生も、自分の体を知ってほしい。実は男性も、年齢によってホルモンの変化があり、その影響を心身に受けますから」

※1、2 参考:スポーツ基本計画の第2項 スポーツ庁 2017年

「自分の状態を伝えられる力をつけてほしい」と伊藤氏は女性アスリートにメッセージを送った

「自分の状態を伝えられる力をつけてほしい」と伊藤氏は女性アスリートにメッセージを送った

女性アスリートに持ってほしい「伝える力」

――プロアマ問わず、女性アスリートに伝えたいことは?

「どのレベルのアスリートも、競技力向上を目標に競技を続けてらっしゃると思います。また、よいパフォーマンスを発揮することによって、多くの方が、スポーツを楽しみ、ファンになってくれる方が増えて欲しいと願っていると思います。

 そのなかで、若いアスリートにとっては、月経ってただ面倒くさい存在かもしれません。でも、競技を終えても、自分の体との付き合いはずっと続きます。そして、月経は一生、健康であるために、必要なものです。ですから、アスリートである以上、競技力を上げることは基本ですが、同時に、自身の体のことを伝える力をつけてほしい。

 例えば、PMS(月経前症候群)や月経時に『お腹が痛い』とします。ただ『お腹が痛いから休みたい』ではなく、例えば「自分の月経周期はこうで、この時期に体調が悪くなります』とか、『月経痛やPMSが重いので病院に行きたい』とか『実は通院しています』など、先生方や指導者、コーチングスタッフに、自分の状態を伝えられる力をつけてほしいと思います。

 体のことは一生自分に付いて回ります。コーチが、親が『こう言っている』ではなく、自分自身の体のことは自分で選択し、決定できる、自立した競技者になって欲しい。これは、男性アスリートにも伝えたいことです。

 同時に、言える雰囲気を作ることも大事です。これは、スポーツをしてない方にも言えると思います。例えば、具合が悪くても、多少、熱が出ても会社を休めないと言う方は少なくないですよね。

 伝えられる力をつけ、伝えられる雰囲気を作る。これができると、自立したアスリートが育ち、指導者と選手間も『上下関係』ではなく『横の関係』を築きやすくなるのかなと思います」

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。

ジャンルで探す