15人制より番狂わせの多い7人制ラグビー 男子日本、メダル獲得の可能性を徹底解剖

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。ラグビーライター・吉田宏氏はメダル獲得の期待がかかる7人制日本代表のコラムを展開。前回リオ五輪では4位と躍進した男子は、銅メダルが目標の最低ライン。1次リーグに相当するプール戦では、前回金メダルのフィジー、英国ら強豪が待ち受ける中で、ホームアドバンテージをどう生かし、勝ち上がることができるのか。その可能性を探る。(文=吉田 宏)

ラグビー7人制男子代表の東京五輪が幕を開ける【写真:Getty Images】

ラグビー7人制男子代表の東京五輪が幕を開ける【写真:Getty Images】

「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#16

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。ラグビーライター・吉田宏氏はメダル獲得の期待がかかる7人制日本代表のコラムを展開。前回リオ五輪では4位と躍進した男子は、銅メダルが目標の最低ライン。1次リーグに相当するプール戦では、前回金メダルのフィジー、英国ら強豪が待ち受ける中で、ホームアドバンテージをどう生かし、勝ち上がることができるのか。その可能性を探る。(文=吉田 宏)

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【1次リーグ】大会のフォーマットは、参加12チームが3組に分かれて総当たり1回戦のプール戦を行い、各組上位2チームと各組3位の中で勝ち点上位2チームの合計8チームが、ノックアウト方式の決勝トーナメントに進みメダルを目指す。

 1次リーグの組分けは以下の通り。

プールA:ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチン、韓国
プールB:フィジー、英国、カナダ、日本
プールC:南アフリカ、米国、ケニア、アイルランド

 日本は26日午前にフィジーとの初戦を迎える。同日午後に英国と、翌27日にカナダと対戦する。

 プールの組分けは、世界を転戦して年間ポイントを争う「ワールドラグビー・セブンズシリーズ」の成績に応じてチームを1、2、3、4位グループに分け、それぞれのグループから1チームずつが各プールに配されている。日本が戦うプールBは、前回大会金メダルのフィジー、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの連合軍である英国、そして3位グループ最強の相手カナダと厳しい相手が揃う。

 どのプールも激戦区なのは間違いないが、日本にとっては、前回五輪で金星をマークしたニュージーランドと別組になったことはプラス材料と考えたい。15人制、7人制ともに世界最強を目指す強豪にとって、前回よもやの敗戦を喫した相手には尋常ではない警戒感を持ち、万全の準備で挑んでくるのは間違いない。B組で最強の相手フィジーは実力ではニュージーランドをも上回る相手だが、日本に対して抱く警戒感は高くない。

 しかも、フィジーと大会初戦での対決となったのは、日本には大きなポジティブ要素になる。初戦で同組最強の相手と対戦するのはニュージーランドを沈めた前回大会と同じ流れ。2戦目が英国というのも同じだ。第1日の2試合の間隔が7時間あるのもいい材料だろう。わずか7分ハーフの7人制だが、1試合での選手の消耗は感覚的には15人制の1試合に近い。試合の間にいかに体力を回復できるかは、重要な戦略だ。唯一の“ホームチーム”という地の利もあるはずだ。

 フィジカル、スキル、経験値とあらゆる要素で参加国トップの能力を見せるフィジーだが、個々の能力を重視したチームのため、初戦から万全に準備して臨むタイプではない。個人技では凄まじいパフォーマンスを見せてくるだろうが、チームとしてのコンビネーション、戦術の完成度には不備がある可能性は十分にある。五輪以外の国際大会を見ても、このチームが1戦ごとにチーム力を高めていくのは間違いない。初戦での対戦は、絶好のチャンスというマインドで挑む決戦だ。

日本のアドバンテージは「対戦順」と「地の利」

【地の利】メラネシアの島国フィジーは、年間平均気温25度の常夏の国。暑さには馴れている印象があるが、日本優位と期待したい。

 取材で数回フィジーに滞在したが、小さな島国特有の湿気はあるものの、常に海風が吹き付けるため過ごし易さがある。日本のような強烈な日差しとまとわりつく湿気、そして周囲をコンクリートに囲まれた環境が生み出す放射熱は、母国では経験できないものだ。

 そして、日本では2015年を最後に国際大会は行われていない。フィジーをはじめ世界の列強が、東京の過酷な夏のコンディションを経験していないぶん、ホームタウンアドバンテージがある。アクロバティックなハンドリングが持ち味のフィジー選手にとっては、汗でボールがスリッピーになりがちな状況もリスクは十分にあるだろう。英国、カナダという英連邦系のチームも高温多湿の環境には苦しむはずだ。

 日本代表は、五輪が近づく6、7月に北海道・定山渓で6日間の強化合宿を行っている。五輪本番の暑さ対策のためには向いていない環境とも思われるが、岩渕健輔ヘッドコーチ(HC)は「2018年、19年の夏にも色々な対策をしてきた。オリンピックと同じタイミングでの試合も会場の東京スタジアムで行ってきて、ずっと暑い所でやることが得策ではないと結論づけている。チームとして固まれる、周りから雑音のない中で集中してやって、暑さに関しては3週間前からで十分」と説明する。

 合宿ではGPSの数値、体重の増減、食事の接種状況、発汗量に睡眠量など細部までデータを取り、モニタリングしながら選手のコンディションをチェックしてきた。暑さで消耗の激しい東京よりも練習時間を作れる北海道で、選手のポテンシャルも引き出せたはずだ。非公開での練習が多く、選手のパフォーマンスの全容は判らないが、どの対戦相手にも終盤に走り勝てる持久力アップには十分取り組んでいるのは間違いない。本番では、フィジカル面での消耗を極力抑えることができれば、終盤に運動量で相手を上回る戦い方が期待出来るだろう。

【戦力】まず、五輪代表の座を掴んだ12人を紹介しておこう

石田吉平(明治大学3年)6
加納遼大(明治安田生命ホーリーズ)22
セル・ジョセ(近鉄ライナーズ)11
☆副島亀里ララボウ・ラティアナラ(コカ・コーラレッドスパークス)34
☆トゥキリ・ロテ(近鉄ライナーズ)50
☆羽野一志(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)29
☆彦坂匡克(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)22
藤田慶和(パナソニックワイルドナイツ)27
ヘンリー・ブラッキン(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)-
ボーク・コリン雷神(リコーブラックラムズ)-
松井千士(キヤノンイーグルス、主将)23
本村直樹(ホンダヒート)25
(☆はリオ五輪出場、末尾の数字は7人制代表キャップ数)

 6月19日に発表された五輪代表内定メンバーからは、ここまでリーダーとしてチームを牽引してきたベテランの坂井克行(豊田自動織機シャトルズ)、小澤大(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)が外れ、合谷和弘(クボタスピアーズ)がバックアップメンバーに回った。坂井、合谷は前回五輪の中心選手でもあった。大一番の舞台では、様々な国際舞台での彼らの経験値は大きな武器になったはずだ。今回のメンバーは五輪経験者も12人中4人と決して多くはない中で、岩渕HCは「決断は難しかった」と明かしながらも敢えてポテンシャル重視での選考を決めた。この決断がどう転ぶかは結果を待つしかないが、今回のメンバーを見ると、前回大会以上に海外出身メンバーの力がカギを握ることになるだろう。

 ターゲットに据えるフィジーは、“フィジアンマジック”と呼ばれる変幻自在のステップ、ハンドリングが武器である一方で、古くから巨人国と呼ばれるように長身の大型選手が揃っている。20年前ならサイズがなくてもスピードとスキルで、コンタクトを避けて太刀打ちできた7人制だが、最先端の戦術では1対1のフィジカルコンタクトの強さ、スクラム、キックオフといったセットプレーの安定が重要なファクターになる。このエリアでは、日本生まれのメンバーだけでは苦しいのが現状だ。

 前回大会での海外出身選手は3人だったのに対して、今回は5人に増えている。フィジー出身で2大会連続の出場となるトゥキリ・ロテ、ニュージーランドで7人制代表も経験するボーク・コリン雷神、身長196センチのセル・ジョセらのフィジカルストレングスと経験値、そしてハイボールへの強さが武器になる。去年まで代表資格がなかったボーク、元7人制オーストラリア代表のヘンリー・ブラッキンをフィジーのクラブチームへ武者修行させるなど経験値を上げさせてきた岩渕HCは「厳しい環境、プレッシャー下の中でのパフォーマンスでは2人とも信頼しているし、期待している」と欠かせない戦力と評価している。

 メンバー上の不安材料を挙げると、リオ五輪で活躍した、福岡堅樹、レメキ・ロマノ・ラヴァ(NECグリーンロケッツ)のようなワンチャンスで一気にトライを取り切るフィニッシャーが不在なこと。共に大阪・常翔学園高OBの松井千士主将、7人制ではSHとFBを兼ねるスイーパーを担う石田吉平らのスピードに期待したい。

メダル獲得へ挑むラグビー7人制男子代表【写真:JRFU提供】

メダル獲得へ挑むラグビー7人制男子代表【写真:JRFU提供】

岩渕HCが掲げる“ビー・ラグビー”で旋風吹かせられるか

【戦略戦術】東京五輪へ向けて岩渕健輔ヘッドコーチが掲げてきたのが“ビー(蜂)・ラグビー”だ。前回大会のバックアップ要員から今回正メンバーを勝ち取った藤田慶和は「世界一速く動いて、鋭く、素早く動き回って相手を圧倒するラグビー」と説明する。このスタイルを実践するために、選手たちは持久力、スピード、判断の早さを磨き続けてきた。

 松井主将は6月のオンラインインタビューで、五輪開幕までの残された時間でやるべきことを、こう話している。

「短い期間だが、相手の分析だったり、どういう作戦で相手を負かすかをチームとしてしっかり取り組んでいきたい。より一層チームがまとまっているなというところがあるので、これをもっと加速させて、僕たちもセブンズファミリーと言っているので、家族の力をしっかり結束させていきたい」

 15人制以上に個人技が重視される7人制だが、日本代表にとっては組織で戦うことが重要だという意識はメンバー全員が理解しているはずだ。このような個よりも集団で戦う意識は、15人制代表にも通じる日本代表独自のアイデンティティでもある。世界の列強相手に、自分たちのラグビーを遂行できるかが勝負のカギを握るのは間違いない。

 対戦相手以上に完成度が求められる日本代表だが、細部にこだわり尽くすのは国民性でもある。5年前のリオの初戦では、優勝候補のニュージーランドを周到な分析と対策で倒している。大会後には、コーチ、選手から、ニュージーランドとの初戦に全てを賭けていたと聞いた。試合当日の起床からキックオフ時間までを分刻みで完璧にシミュレーションして臨んだニュージーランド戦だったが、当時のメンバーだった坂井克行は「気持ち悪いくらい試合で練習と同じことが起きたし、相手が、そうやってきた。準備していた全てがはまったという感じだった」と、シナリオ通りの試合が出来たことが金星に繋がったと振り返っている。この周到さをフィジー相手にもできれば、誰もが予期していなかった結果が訪れる可能性は残されている。

 今回も、プール戦で最も勝つことが難しい相手フィジーとの初戦が、日本が決勝トーナメントに進出するための最大のポイントになる。もちろんフィジーから金星を挙げても、次戦の英国、最終戦のカナダに勝てる保証はない。だが、短期決戦である7人制では、与えられた時間の中で、いかに勢いをつけるかは重要なポイントになる。フィジーとの初戦に全てを賭けることが重要だ。

【ミッション】結論から言えば、もしメダルに辿り着けなければ、日本ラグビー協会、代表チームの戦略としては失敗と評価せざるを得ない大会になる。

 前回のリオ大会での4位という成績は、日本全土を熱狂させた15人制代表でも、いまだに辿り着いたことがない高みだ。15人制よりも番狂わせの多い7人制だが、リオの日本代表が、金メダル候補のニュージーランド相手にも完璧なまでの勝つ準備をして結果を残したという事実は、2019年大会のベスト8に劣らない価値がある。

 だが、前回五輪後、協会首脳陣は世界4位という快挙を遂げた瀬川智広ヘッドコーチの解任を決めた。その理由は、次の五輪で目指すのはメダルであり、世界4位以上にチームを強化できる指導者を求めたからだ。この大きな決断を下したのは、現在も男女子7人制代表のナショナルチームディレクターを務める本城和彦、現ヘッドコーチの岩渕健輔両氏だ。

 選手は、あてがわれた大会で、対戦が決まった相手を倒すことに集中して戦えばいい。だが、日本ラグビーを司る組織が、進むべき道筋を真剣に考え、選択してきたかが問われる大会になるのは間違いない。日本のファンにメダルを届けることで、3年後のパリ、そしてその先へ、描き、進んできたロードマップが本当に正しいのかを証明してほしい。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏

 サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。W杯は1999、2003、07、11、15年と5大会連続で取材。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。

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