紀平梨花の逆転優勝に終わった四大陸。三原舞依、坂本花織らの思い――。

左から、銀メダルのエリザベタ・トルシンバエヴァ(カザフスタン/18歳)、紀平梨花(16歳)、三原舞依(19歳)。 photograph by Akiko Tamura

 2019年2月8日、ロサンゼルス郊外アナハイムで開催された四大陸選手権で、16歳の紀平梨花が今大会の初タイトルを手にした。

 日本女子がこの大会で優勝したのは、紀平が9人目である。

 アジアと北米などの代表選手が競い合うこの四大陸選手権は、日本女子にとって世界のトップへの足がかりとしても、重要な位置を占めてきた。

 初回の1999年から今季までの21大会中、日本の女子が優勝したのは13回(村主章枝浅田真央がそれぞれ3回ずつ優勝)。2位の米国の6回に、大きく差をつけている。

 台北で開催された昨年は、坂本花織、三原舞依、宮原知子の3人が女子の表彰台を独占。

 今シーズンも、日本女子が表彰台を独占することが期待されていた。だがアナハイムの勝負は、そう易々と筋書き通りには進まなかった。

序盤……アメリカ勢が予想外の健闘。

 SPでトップに立ったのは、アメリカのブレイディ・テネルだった。

 2018年全米女子チャンピオンで、9月のオータムクラシックではエフゲニア・メドベデワを抑えて優勝した選手である。最後のスピンがわずかに乱れた坂本花織を僅差で抑え、「今日は全て、練習通りにうまくいきました」と満足そうな笑顔を見せた。

 3位には、同じくアメリカのマライア・ベルがノーミスの演技で入り、2位の坂本がアメリカ勢2人に上下を挟まれる形になった。

「事前には日本女子に焦点が当てられていたが、こういう顔ぶれになってどう感じるか」という質問が会見で出ると、テネルもベルも異口同音に「あまり外部の意見は気にしたことがない。でもこうしてトップ3にアメリカ人2人が入れたのは、地元開催としてよかったと思います」と述べた。

 ここしばらくアジア開催が続いていたこの大会が、北米に戻ってきたのは2012年コロラドスプリングズ以来、7年ぶりのこと。アメリカ選手たちの士気も高かったのに違いない。

紀平5位、三原8位のスタート。

 紀平梨花は、公式練習中に左手の薬指を亜脱臼という事故に見舞われた。 

 その体調で挑んだSPでは、アクセルが1回転半になり5位スタートに。本番リンクの照明、ジャンプの直前に視野に入る光景など、1つひとつを綿密にチェックしていく紀平にとって、本番リンクで存分に3アクセルの練習が出来なかったことがネックとなったのだろう。演技後、紀平はアクセルについてこう説明した。

「スピードがまだ足りなかったのと、(指の怪我のために)3アクセルをするかまだわからない状態で、この氷では今までにないくらいしか跳んでいなかったので、あのミスが起こってもおかしくないような練習量でした」

 一方の三原舞依は、冒頭の3ルッツ+3トウループの着氷が乱れ、トウループは回転不足の判定を受けた。

「こっちに来てからショートで今日みたいなミスをしたことがなかったので、どうしてこうなったのかなと……今日すごく反省したいなと思っている。ずっとミスのない演技ができていただけに、本番でできないというのが自分の弱さなんだと改めて感じました」と、演技後に悔しそうに唇をかんだ。8位という立場で、フリーに向かうことになった。

フリーで追い上げた日本勢。

 フリーでは、日本勢の中で三原がトップをきった。『ガブリエルのオーボエ』のメロディにのって、3ルッツ+3トウループ、2アクセル、3ループと、1つひとつのエレメントを着実にこなしていった。結局すべてのジャンプを着氷して、最後にガッツポーズ。観客席が総立ちとなった。

「すごくほっとしています。6分間練習に入る前に音楽に合わせて観客の皆さまが踊っていらして、アメリカっぽいなと思った。踊っている方たちが笑顔だったので、私も笑顔で踊り切れたらいいなと思って、エンジョイしながら氷の上に乗ることができました」

 休憩時間に、ビレッジピープルの『YMCA』が会場に流れ観客がノリノリで踊っていたことが、三原の心をリラックスさせたのだという。

 総合207.12という数字で何位まで上がれるか。残りの選手の演技待ちとなった。

紀平梨花、フリーでの大逆転!

 紀平梨花は、冒頭の3アクセルをきれいに着氷。次のアクセルは2回転半にとどめ、3トウループをつけた。2度の3ルッツのコンビネーション、3フリップなど、1つひとつのジャンプの質が高く、身体全体を伸びやかに使って音楽を表現した。

 フリー153.14、総合221.99の数字が出ると、会場は大きな歓声に包まれた。まだテネル、坂本らが残っていたが、彼女たちが完璧な演技を見せない限り、これを上回るスコアを出すのは難しいだろうと誰もが思ったに違いない。

 そのプレッシャーがあったのか、テネル、ベルともジャンプのミスが出て表彰台圏外へと落ちた。

坂本の予想外の表彰台落ち。

 最終滑走は、SP2位だった坂本花織だった。優勝を狙うのなら、1つのミスも許されない。そういう厳しい状況で氷の上に立った坂本。

『ピアノレッスン』のメロディにのって、3フリップ+3トウループから演技を開始したが普段の彼女の、思い切りの良さが感じられない。かなり緊張していることが、見て取れた。

 後半、2アクセルから入る3つのジャンプコンビネーションを予定していたが、アクセルが1回転半になって、残りのジャンプが続かなかった。

 大きなミスといえばこれだけだったが、坂本にとって高くついた。

 フリーは133.43で総合206.79と僅差で4位に終わり、表彰台からもれたことがわかった瞬間、キス&クライに座っていた坂本は両手で顔を覆った。

「凄い悔しいです。(演技前は)いつもの最終滑走と変わらないと思っていたんですけど、いつもは自分に集中するんですけど、今日はなんか点数を……何点以上出せば勝てると考えてしまって全然集中できていなかった」と、悔し涙をこらえながら演技後にコメントした坂本。

 中野コーチに何と言われたのかと聞かれると、こう答えた。

「これは世界選手権に向けて『しっかりやれよ』と神様が言っているんだ、と言われました。世界選手権は今シーズンの最後の試合になるので、笑顔で終われるようにしたいです」と、決意を口にした。

SPトップ3人が全員表彰台から外れる。

 結局SPでトップに立っていたブレイディ・テネルが総合5位、マライア・ベルが6位に終わり、2位はフリーで4サルコウに挑んだカザフスタンのエリザベート・トゥルシンバエワが入り、三原が3位に残った。SPトップ3名が全員表彰台からもれるという、珍しい結果となった。

 優勝会見で紀平は指の怪我の影響について聞かれて、こう説明した。

「跳び方も少し苦戦はしたけれど、去年の同じような時期に同じような怪我をしていたので少しは慣れていて、跳び方を変えることができた。そこが良かったと思う。良い感覚を持ちながらできたと思います」

 紀平は指の怪我のみではなく、全日本後に靴の調整で苦労して、結局左足のみ新しい靴をはき、右足は古い靴で滑るという悪条件もついていた。

「どんなハプニングがあっても、ずっと前を向いてあきらめずにやっていこうと思ったので、すごく良い経験になった」と大会を振り返った。

 三原は次はユニバーシアード、紀平と坂本は世界選手権が待っている。

 3選手それぞれ、この大会で学んだものを抱えて、次へと進んでいく。

(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文 / photograph by Akiko Tamura)

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