福岡第一が高校バスケで攻撃無双。長身+化け物みたいな猛スピード。

チームを牽引した3年・キャプテンの松崎裕樹(中央後ろ)と2年・司令塔の河村勇輝(中央前)。 photograph by Yuki Suenaga

 年末に行われた全国高等学校バスケットボール選手権(ウインターカップ)の男子優勝チームは、福岡第一高校だった。

 圧勝だった。5試合を戦い、すべての試合で20点差以上をつけている。対戦相手だって弱くない。近畿大会準優勝の東山高校、東海大会準優勝の飛龍高校、夏のインターハイベスト4の東海大学付属諏訪高校。決勝で42-85と大敗した中部大学第一高校も、エース不在でインターハイ準優勝の超強豪だ。

 どのチームも組み合わせさえ違ったら、いや、福岡第一がいなかったら違う結果が出ていたかもしれない。

 対戦相手の監督が「化け物みたい」「高校生のレベルではない」といった言葉で形容した、今季の福岡第一。特に注目されたのが、オフェンスのスピードだった。

 試合時間残り30秒で9点取った。

 福岡第一が自陣から敵陣に向かって速攻を展開したら、敵陣から出ようとするフロアワイパーに追いついた。

 小学生の試合ならまだしも、高校の全国大会ではまずありえないようなことが起こるくらい、速かった。

長身でも特別扱いせず走る!

「速さ」は、これまで高校界男子の多くのチームが追求してきたファクターだ。ただ、それを追求したのはいずれも長身選手のいない小兵チーム。田臥勇太(栃木ブレックス)を生み出し、速攻バスケの元祖とされる秋田県立能代工業高校も、地元の選手だけで「高さ」と「うまさ」を兼ね備えた名門私学を倒すために、速さに着目したという経緯がある。

 2000年代からは2m超のアフリカ系留学生が来日し、彼らの圧倒的な高さが速さに対して優位を誇るようになった。オフェンスをスローダウンさせるチームが増えた中で、福岡第一の井手口孝監督は、彼らを猛烈なスピードで走らせるスタイルを選択した。

「初めて留学生を受け入れた時は、彼らのスピードに日本人が合わせて、ポジションに入るのをジリジリと待ってから攻めることも考えましたよ。ただ、彼らが走れるようになったらこんなに強いことはない。ブレイク(速攻)に走らせるようになりました。

 2mも160cmも、日本人も留学生も、練習内容は基本的に一緒です。長身者を特別扱いしたり甘やかしたりはしません」

 今や、ウインターカップ男子出場校の3割がアフリカ系留学生を擁し、北海道と中国を除くすべての地方に留学生がいる時代だ。高さだけでは違いは生み出せない。そこで高さと速さという新たなスタイルを追求した福岡第一が、頭抜けた強さを誇ったのも当然の理だった。

対策を練ったはずなのに。

 もちろん対戦校は、「福岡第一対策」を綿密に練り、さまざまな策で打ち崩そうとしたが、いずれも返され、突き放された。

 中部大第一の常田健監督は「いろんなチームがあの手この手を使ったけれど、見事にリカバリーして原点の速攻で畳みかけた」と脱帽していた。井手口監督に理由を尋ねても、「なんでなんでしょうね。誰が何をやるか全部わかっているし、隠し球はない。こんなに戦いやすい相手はなかろうと思うんですけれど」と涼しい表情だった。

 3回戦で福岡第一と対戦し、同校の卒業生でもある飛龍の原田裕作監督はこう分析する。

「映像や客席で見ているのと実際対戦するのとでは、スピードが一段階違う。オフェンスだけでなくディフェンスも、寄りや手を出すタイミングまですべて速い。何よりディフェンスでしっかり我慢して守られるので、シュートを打つことに対して恐怖心を覚えてくるんです。変なシュートを打って外したら、全部ブレイクされるんじゃないか、と。ベンチにいる僕ですらそう感じるので、コートの選手たちはもっとそれを感じているでしょう。

 その状態をどうにかしなければと思っているうちに、試合が終わってしまったという印象です。対戦校のスカウティングも相当やっていると思います。寄るだけでなく“捨てる”のもうまい。対戦した監督さんたちとも話しましたが、こぞって『やりたいことをまったくやらせてもらえなかった』と言っていましたね」

ボールを持つと速くなる河村。

 オフェンス面におけるスピードの担い手は、2年生の河村勇輝だった。身長172cmの小柄な司令塔は、井手口監督いわく「普段はそうでもないけれど、ボールを持つと足が速くなるタイプ」。トップスピードでドリブル突破しつつ、ゴール下の密集地帯に差し掛かるとさらにギアが上がる。ドリブルで走るだけで会場がどよめく選手というのは珍しい。

 いずれの対戦相手も、福岡第一に攻撃権が移ると素早く自陣に戻り、河村の迎撃態勢を整えていた。

 しかし河村は守れても次に走り込んでくる松崎裕樹や古橋正義を止められない。井手口監督はこれも「なんででしょうね」と首をかしげたが、原田監督は河村の存在によるところが多いと考える。

「河村が速すぎて松崎や古橋のマークマンも目が離せないんです。さらに河村はマークマンが絶対対応できないようなタイミングで彼らにパスを出す。2人も河村がしっかりパスを出してくれることをわかっているから、自信をもってフルスピードで走ってこられます」

アジアで通用するチームを。

 ウインターカップの優勝インタビューでは「(自身のパフォーマンスは)まだ物足りない」とクールにコメントし、来年はアジアで通用するチームを作りたいと意気込む。もはや国内レベルではとどまらない逸材が、福岡第一のバスケットを高みに運んだ。

 2018年夏、福岡第一はインターハイで初戦負けを喫した。河村と松崎をU18日本代表で欠いたとはいえ、戦力的には初戦で負けてはいけないチーム。井手口監督は「1対1でなくシステムを優先し、チームプレーでごまかすようなバスケットになってしまった」と悔やみ、福岡に戻った後には高校バスケ界の名将の著書を読み返したという。

 能代工業を名門に育て上げた加藤廣志氏、桜花学園高校で64回の全国優勝を達成した井上眞一氏、仙台高校を全国制覇に導き、2005年に移った明成高校でもすでに5度優勝している佐藤久夫氏。それぞれの勝利に対するこだわりに触発された。

 加藤氏からは勝ちへのこだわり。井上氏からは相手チームを徹底的に分析すること。佐藤氏からは人間教育の大切さ。井手口監督のこだわりは、鍛え、貫くことだった。

用意したディフェンスは2つだけ。

「私が今年用意したディフェンスはオールコートのゾーンプレスとハーフコートマンツーマンの2つだけ。それ以上やったら間に合わないと思ったし、本当に強い形は作れないと思っていました。その上で『3ポイントだけは打たせない』とか、『右のドライブだけは頑張って止める』とかポイントを絞るということじゃないかと思うんですけれどね。

 事実、天皇杯予選は2つのディフェンスと本来の走るバスケットだけで、名古屋(ダイヤモンドドルフィンズ)に前半10点ビハインドでついていきましたから」

 今回福岡第一と対戦したチームのうち3チームが、30代後半の若い監督が指揮するチームだった。今季6度福岡第一と対戦し、11月の県予選決勝で8点差まで迫った福岡大学附属大濠高校の片峯聡太監督に至っては、昨年30歳になったばかりだ。

「小手先の戦術ではなく……」

 井手口監督は彼らの戦い方を「勝ったから言えることかもしれないけれど、こちらがミスしたらチャンスがあるみたいな弱気さがあったし、短い時間で作り上げた戦術が簡単に通用するほど甘くないんじゃないかな。もっと攻撃的な戦い方をしてもらいたかった」と述べたが、これは自身の苦い経験があったからこそ出た言葉だったのだろう。

「若い先生たちはみな勉強熱心ですが、勝つための小手先の戦術でなく、自分たちのバスケットがどれだけ通用するかをメインテーマにするというアプローチがあっていいのではないかと思います。

 フォーメーションをたくさん教えるのではなく、レイアップやフリースローなど1つ1つをやり込んで、鍛えて、そこに戦術を乗せる。そういうことに立ち返らないといけないと思いますし、私自身、そこをもっと追求しないといけないと思っています」

福岡第一の圧勝は続くのか?

 12月29日にウインターカップが閉幕した。寮住まいの選手たちは帰省することもなく体育館で汗を流し、年始4日から神奈川県で開催された交流戦に参加した。5日の夕方に福岡に帰ると、6日の午前9時から県新人戦予選の初戦を戦うというハードスケジュールだ。

 来年度のチームには、河村を筆頭に優勝メンバーが3人残る。目指すのは言わずもがな、インターハイとウインターカップの両獲りだ。高さ、速さ、うまさの三拍子がそろった福岡第一が引き続き圧勝するのか。それとも知恵と鍛錬を備えた他チームが打ち負かすのか。

 どのチームも新人戦に向けて始動。戦いの火ぶたは切って落とされた。

(「バスケットボールPRESS」青木美帆 = 文 / photograph by Yuki Suenaga)

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