「自筆証書遺言の保管制度」開始で注目度アップ “争族”させない遺言書のススメ

もめない遺言書にするためのチェックポイント

 先月から自筆証書遺言の保管制度がスタートした。これまでと比べて手続きが楽になったことで、「自分の手で遺言を残したい」と作成に興味を持つ人が増えている。ただ、作成にあたっては書式、内容など気を付けないといけない点も多い。これまで数多くの遺言書作成に関わり「子どもを幸せにする遺言書」の著書も持つ、行政書士の倉敷昭久氏にポイントを聞いた。

 先月10日から始まった自筆証書遺言の保管制度とは、これまで自宅等で自ら保管しなければならず紛失の恐れなどもあったところを、法務局に持参すると原本を保管してもらえる画期的なもの。特に今年はコロナで生き方を見つめ直す人も多く、お盆の時期にさらに注目度が増している制度だ。

 これまで自筆証書遺言に必要だった家裁の検認(相続発生後、遺言書の存在について明らかにする手続きで、家庭裁判所に相続人が出向き、内容を確認し証明書を発行してもらう作業)も不要となったことでより簡潔・確実、スピーディーに自分の意思を残せ、また費用面も保管手数料が3900円と割安。その後の撤回も容易に可能であることから、証人の立ち会いや数万円の費用がかかる公正証書遺言に比べて作成のハードルが低くなっているといえる。

【自筆証書に向いている人、向いてない人】一方で、自筆証書遺言を残すにあたっては、いくつかの注意も必要だ。まず「自筆証書」に向いている人に関して倉敷氏はこう語る。
「内容がシンプルな方。財産でいえば、土地・家屋と預貯金というふうにまとまっている方。反対に、海外資産など多種多様な資産を持っている方、あるいは相続関係においても、現在の家族だけではなく離婚した前妻との間にも子がいるなどといったように相続関係が複雑な方も争いになりやすいので、いずれの場合も遺言内容の実効性と法的有効性を高めておくという意味で公正証書遺言が向いているでしょう」

【もめない遺言書にするためのポイント】具体的な内容、書き方に関してはどうか。重要なポイントとしては「遺留分を考慮した遺言書にする」ことが挙げられる。遺留分とは遺言書で相続分を指定されていない相続人でも、もらうことのできる最低限の権利の割合のこと。「たとえば遺言者に妻と2人の子がいるケースで、遺言書に『長男に全遺産を相続させる』と書かれていても、配偶者と子には遺留分があります。さしたる理由もなく、特定の相続人に大きく偏った内容の遺言書を残してしまうと、その遺言書が原因で相続人間に争いが起きることもあります」と倉敷氏。

 こんな注意点があるという。「自筆証書遺言の場合、より感情が入りやすいということ。例えば、特定の相続人に対して○○は自分の世話をしてくれなかったため財産は一切相続させないなどと、財産を相続させないというだけでなく、わざわざ理由として相続人を非難するようなことが書かれていたことがありました。相続人同士の仲はそれまで良好だったのに、この遺言書によって相続人同士の関係は壊れてしまいました。このように遺言書が“争族”を引き起こす原因になってしまうこともあります」

 遺言書により残された家族が争うようなことになるのは避けたいところ。この点の対処法に関して倉敷氏は、遺言書にはシンプルに財産の分け方を書き、遺言書作成において十分な知識を持った専門家(弁護士、行政書士等)に文面、内容をチェックしてもらうことを勧めている。ほかにも遺言執行者を指定しておくと、手続きのすべてを執行者1人で行うことができるため、相続手続きにおける負担を軽減することができるという。

【NGワードとは】自筆証書遺言にありがちなNGワードについても知っておこう。まず基本的な書式で忘れていけないのは、「署名、日付、押印」。日付に「○○吉日」などと書くと、無効になってしまうため、しっかりと「〇月〇日」と書くこと。

 さらにこんな例も。「たまに『私の今の考えは――だけど…』、『私の今の心境は――だけど…』のような書き方をする方がいらっしゃいますが、曖昧なことを書いたり記載されている遺言内容を自ら否定するようなことを書くと遺言者の意思が不明瞭となり、遺言自体が無効になる場合もあります」(倉敷氏)

 このように自筆証書遺言には書き方、内容に関して様々な注意は必要となるが、一方ではいつでもどこでも書けて誰にも知られずに作れるというメリットもある。

「まだ遺言を残されていないという方には、何をどのように家族に残すかを考えることにより、これからの自分の生き方を決める契機になります。しっかりした形で残したいなら公正証書遺言がいいとは思いますが、現在の自分の意思に従った自筆証書遺言を作成してみると、家族への思いを確認する良い機会にもなるかもしれません」と倉敷氏。

 終活として取り組んでみてはどうだろうか。

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