なぜサッカー日本代表は北朝鮮に苦戦したのか? 攻撃が停滞した原因と依然として浸透しない仕組み【西部の目】

【写真:田中伸弥】

●「個々の役割を果たした」勝利

 日本代表は21日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選で北朝鮮代表と対戦し、1-0で勝利した。開始2分に先制したものの、その後は追加点を奪えず。実力差があると目されていた相手に対し、日本代表が苦戦を強いられた理由に迫る。(取材・文:西部謙司)

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 予選で最も重要なのは結果だ。予選は通過するための試合で、内容云々は二の次である。そう考えれば1-0とはいえ勝利したことは何より重要だろう。ただ、この試合は「結果」しかなかったとも言える。

 日本代表は開始2分で先制。左サイドで上田綺世が相手に追い込まれながら意表をつくヒールキックで起点を作り、最後は堂安律のプルバックを田中碧が冷静なシュートで決めた。開始早々のゴールで大量点が入るかと思われたが、これが唯一のゴールだった。

 FIFAランキングで日本は18位、北朝鮮は114位。実力に大差があることになっている。しかし、このランキングから想像されるより力の差はずっと小さく、後半は北朝鮮代表がむしろ攻勢だった。なぜそうなったのか。

 ランキングの算定方法が著しく間違っているというより、本来あるはずの力の差を日本代表が示せなかったからだ。

「アジアカップでは失点が多かった。今日も簡単なゲームではなく後半に押し込まれた。失点してもおかしくなかったが、粘り強く守れた」(森保一監督)

 相手の圧力に屈せず無失点で勝利をつかんだので、「選手たちが戦術と個々の役割を果たして勝ち切れたのを評価していただけたらうれしい」(森保監督)

 確かにアジアカップで酷評されていたGK鈴木彩艶をはじめ、集中した守備で北朝鮮代表の攻撃を跳ね返し続けたことは称賛できる。森保監督の言葉を借りれば「自信になる勝利」だったかもしれない。しかし、なぜそうなってしまったのかのほうがチームにとってはより重要と思われる。

●北朝鮮代表の術中に。「ビルドアップ」の問題とは

「戦術については話さない」

 北朝鮮代表のシン・ヨンナム監督はにべもなかった。前半と後半でプレーぶりが変化したことを問われての答えだが、前後半で豹変するのはいわば北朝鮮代表の得意技である。

 ミドルゾーンに4-4-2の守備ブロックを構え、前から奪いに行くことはほとんどない。早々に1点を食らったショックというより、最初から前半は抑え目にプレーすると決めていたのだろう。日本代表が後半に押されたのは、前半の45分間で相手に体力を温存させてしまったことが原因だ。相手に合わせてペースダウンしてしまった。

 止めてパス、止めてパス。足下から足下。相手の守備の面前でつないでいるのでテンポが上がらない。現象面で言えば、もっとワンタッチパスがほしかった。

 ワンタッチパスを有効に使えばもっとテンポアップできたと思うが、そのためにはラインの数を増やさなければならない。

 DF、MF、FWの3ラインがあるとすると、その中間に人を置いて段差を作る。ラインを1つスキップして縦パスを送ることで、飛ばされたラインにいる選手にワンタッチでボールを下げられる。2コマ進んで1コマ下がるような形になるが、そうすることでテンポを上げながらボールを前進させられる。

 もちろん日本代表がこんな基礎中の基礎を知らないはずもなく、チームとしてもやろうとはしていた。

「ビルドアップから前線にどう配球するか。中央とサイドがあるけれども、回数も足りなかったしボールを失うことも多かった」(森保監督)

 主にサイドでやっていたが、精度を欠いてパスが引っかかっていた。中央では13分に前田大然がクサビを受けて落とし、堂安が惜しいシュートを放った場面があったが、このときの前田のパスも浮いている。

 精度を欠いたのはボールタッチのせいかもしれないが、回数とスムーズさに関してはポジショニングに問題があったと考えられる。日本代表の攻撃はなかなかギアが上がらないまま後半を迎えることになってしまった。

●ワールドカップの「宿題」。依然として浸透していないのは…

 後半は北朝鮮代表が定番の豹変作戦。ワンタッチを組み込んだテンポアップという点では、むしろ北朝鮮代表のほうが意欲的だった。前半は自重気味だったハイプレスも仕掛けてきた。

 この変化に面食らったのか、日本代表は押し込まれてしまう。相手はペナルティーエリア内に人数を投入し、少々強引でもゴール前へボールを入れる。それを跳ね返してカウンターを狙うという展開になっていった。

 73分、森保監督は3人を交代。フォーメーションも3-4-3に変えた。相手の圧力に耐えられるように谷口彰悟を入れた3CBの防御体制を組み、シンプルに浅野拓磨のスピードを使ってカウンターを狙う。ドイツ代表戦などでもお馴染みのカウンター狙いだが、まさか北朝鮮代表を相手にこうなるとは思わなかった。

 後半は攻め込まれたが、それでもトータルで決定機の数は日本代表が上回っている。そのうちのいくつかを決めていれば、もっと楽に試合を運べたはずなので、このチームとしては珍しくフィニッシュが課題として浮上したわけだが、元をたどれば前半のペースダウンが苦戦の原因だ。依然としてビルドアップの仕組みが浸透していない。

 自分たちがボールを持ったときのプレーはカタールW杯の宿題だった。そこにまだ大きな進歩が見られておらず、この先のアジアの戦いも簡単ではなさそうに思わされる一戦となった。

(取材・文:西部謙司

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