遠藤航投入で何が変わったのか?「少々疑問を持ちながら…」サッカー日本代表ボランチ3人の証言からひも解く北朝鮮戦【コラム】

【写真:Getty Images】

 サッカー日本代表は21日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選で北朝鮮代表と対戦し、1-0で勝利を収めた。立ち上がりの2分という早い時間に先制した日本代表だったが、その後は追加点を奪えず。中盤で先発した田中碧と守田英正、途中出場した遠藤航の3人の証言からこの試合の流れをひも解く。(取材・文:加藤健一)

●開始2分で先制。サッカー日本代表に起きた問題とは…

 17日のFAカップで延長戦を含む120分に出場した遠藤航は、北朝鮮代表戦の先発メンバーから外れている。中盤には田中碧と守田英正が名を連ね、2列目には右から堂安律、南野拓実、前田大然が入り、最前線には上田綺世を起用。ゴールマウスを守るのは鈴木彩艶で、4バックは右から菅原由勢、板倉滉町田浩樹伊藤洋輝という並びだった。

 前半2分、日本代表は左サイドの高い位置で前田がボールホルダーに寄せてひっかけ、こぼれたボールを上田が拾って縦に運ぶ。上田からパスを受けた田中が左足でクロスを上げると、ファーサイドで待ち構える堂安律が頭で合わせる。これは南野に当たって跳ね返り、堂安が再びゴール前に折り返すと、走り込んできた田中が右足を振り抜いてゴールネットを揺らした。

 幸先良く先制した日本代表だったが、その後はペースダウンし、フィニッシュに持ち込む場面を多く作り出すことはなかった。守田は「僕も完全にその1人だったんですけど」と前置きしながら、先制後の日本代表の試合の進め方を反省する。

「ボールを大事に保持すること、安全に前進させることだけを意識してしまって、大胆さがなくなったり、ゴールを取りに行くためのビルドアップになっていなかった」

 前半の日本代表のボール保持率は79.4%を記録していた。しかし、ピッチを縦に3分割したアクションエリアを見てみると、日本陣内が32.1%に対し、北朝鮮陣内が19.6%と、日本陣内にボールがある時間がかなり長かったことが分かる。チーム全体としてきれいに崩そうという意識が強すぎるあまり、攻撃のスイッチになるような縦パスがほとんど見られなかった。

●なぜ攻撃はスローダウンしたのか? ボランチが明かす意図

 北朝鮮代表は4-4-2の陣形だったが、ハイプレスをかけるわけでも、ディフェンスラインを高く保つわけでもなかったが、4-4の中にボールが入った時はそれなりに伸縮してボールを奪い、カウンターにつなげる場面は何度かあった。守田が嫌ったのはそういうシーンのことだろう。日本代表は丁寧にボールをつなごうとするあまり、意図しない形で全体が広がっていた。幅を取ると言えば耳障りはいいかもしれないが、守田が言うように「ゴールを取りに行くためのビルドアップになっていなかった」。

 ベンチで前半の戦況を見届けた遠藤も「もうちょっとサイドをシンプルに使ったり、上田綺世が裏に抜け出したシーンのようなボールをシンプルに入れても良かったみたいなイメージはありました」と振り返りながらも「前半の戦い方はそんなに悪くなかった」と総括した。

 ただ、守田は「試合の展開の中で、無理に(前を)見る必要はないかなと思っていた」と言う。「センターバックやサイドバックを使いながら、隙があれば(狙う)」という狙いには明確な意図がある。

「結構縦パスが狙われていて、ひっくり返されたりもしていた。嫌な失い方をしたときの守備のオーガナイズだったり、1人目がボールホルダーにまずプレッシャーをかける。攻撃と守備があまりセットじゃなかったという印象があった」

 田中もそれに関しては同じような感触を持っていた。

田中碧と守田英正の共通認識

「ビルドアップもそんなに安定していたわけじゃないし、すごく長い縦パスは結構カットされるというか、相手も狙っていた。そういう意味で自分が高い位置を取り過ぎると、そこへパスを出すのを躊躇するかなと思って少し下がってプレーする機会が多かった」

 守田と田中はそれぞれ似たイメージを持ちながら意図的にスローダウンさせていたようだが、「見直してみないと分からないですけど」と言う田中は、それが必ずしも最適解だったと言い切らなかった。

「低い位置でプレーすればボールをもらえるけど、それが効率的なのか試合の中で判断しなきゃいけないし、少々疑問を持ちながらプレーしていた」

 いい悪いは別として、丁寧にボールをつなぎながら時間を消費した日本代表は、相手のカウンターの精度の低さにも助けられ、シュートを許すことなく前半を終える。しかし、迎えた後半は2枚替えを敢行した北朝鮮代表が1段階ギアを上げ、シンプルなロングボールを交えながらセカンドボールを拾って日本陣内に攻め込む時間が増えた。

 前半のように日本代表がボールをキープする時間は減った。この時間帯のことを田中は「正直、落ち着かせることが大事かと言われると、僕はそうではないと思っている」と言う。そんな状況の58分、守田に代わって遠藤がピッチに立つ。遠藤は試合の流れを読みながら、意識していたことを次のように明かした。

遠藤航の投入で生まれた変化と5バック化の恩恵

「流れも悪かったんで、もう1回自分たちのペースに戻すという意味でも、やっぱりちょっと前に行く姿勢を見せるべきだと思っていた。ブロックを引くだけじゃなく、アクションを起こして勢いを持っていけば、相手も苦し紛れに蹴ったりしてマイボールにできたシーンもあった」

 遠藤はピッチで身振り手振りを交え、チーム全体に前からプレスをかけるぞと言うメッセージを送り、自らも積極的に高い位置を取ることで相手に圧力をかけていった。しかし、1点を追う北朝鮮代表も前線に人数をかけ、シンプルなロングボールを多用することで日本代表を苦しめていく。日本代表は谷口彰悟、浅野拓磨橋岡大樹を投入し、最終ラインの枚数を5枚にした。

 この修正により各選手の役割は明確になったと遠藤は評価する。

「(最終ラインの)4枚がちょっと苦しそうなのは僕が入ってから感じていた。それでもサイドバックが前に行ききれれば良かったと思いますけど、後ろがきつそうという判断で5枚にしたことで(前にプレスをかける)人も決まった。自分が前に出たり、彰悟君が前に出て潰したりしていたので、5枚にすることでかなり楽になったんじゃないかと思う」

 遠藤が「ベストな試合ではない」と言えば、守田も「我慢を強いられる展開だった」と苦戦を認める。課題もあり、修正していかなければいけないことはまだ山ほどある。ただ、その中でずるずる相手のペースに引き込まれず、勝ち点3を持ち帰ったことは評価しなければならない。

(取材・文:加藤健一、取材協力:元川悦子

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