「正直、自分が誰よりも…」長友佑都はいかにしてサッカー日本代表復帰を掴んだのか。見えてきた大記録への思い【コラム】

【写真:NN】

●「僕は代表が楽しみで仕方がなかった」

 FIFAワールドカップ26アジア2次予選兼AFCアジアカップサウジアラビア2027予選、北朝鮮代表との2連戦に臨む日本代表メンバーが14日に発表された。サプライズとなったのが、長友佑都の復帰。37歳と大ベテランの域に達した男は、いつか自分が必要になると、常に「準備」を怠ってこなかった。(取材・文:藤江直人)

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 興奮が極限まで達した長友佑都は、決まって寝つけなくなる。象徴的だったのは2011年2月6日。セリエAの名門インテルへ移籍し、強豪ローマ戦で待望のデビューを果たした夜も眠れなかった。

 鳴りやまない胸の鼓動を静めようと、長友はいまも恩師と慕う愛媛・西条北中学時代のサッカー部顧問、井上博氏の携帯へ国際電話を入れている。時差がある日本は7日の早朝。井上氏によれば、おかまいなしに電話をかけてきた長友は、試合後も興奮で昂ぶる第一声を受話器越しに響かせたという。

「楽しかった!」

 微笑ましいエピソードが刻まれてから13年あまり。37歳と大ベテランの域に達した長友は、今度は窓の外がまだ薄暗い未明に飛び起きている。3月18日。ワールドカップ・カタール大会以来、約1年3カ月ぶりに復帰を果たした日本代表の活動が、午後から行われる練習とともに幕を開ける日だった。

「もう4時とか5時に目が覚めてしまいましたね。疼き始めた自分の細胞たちに『ちょっと落ち着け』と言ったんですけど、そのくらい僕は代表が楽しみで仕方がなかったんですよね」

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表と21日に東京・国立競技場で、26日には平壌・金日成競技場で対戦する、2026年のワールドカップ北中米大会出場への第一歩となるアジア2次予選。14日に発表された代表メンバーは、長友が名を連ねるビッグサプライズとともに大きな注目を集めた。

 代表復帰から2日後の16日に行われたアビスパ福岡戦で、2010年5月15日の清水エスパルス戦以来、実に5054日ぶりとなるJ1リーグでのゴールをマーク。FC東京を4戦目にして今シーズン初勝利に導いた長友は、気持ちも新たに臨んだ代表合宿初日後の取材対応でこんな言葉を残している。

●アジアカップは「覇気がなかった」

「正直、自分が誰よりも若いと思っている。実際にコンディションもいいし、走れているし、そういった面で20代のときのようなコンディションを感じている。年齢は37歳で、9月には38歳になるんですけど、本当にただの数字というか、誰よりも動けているからこそ、今回呼んでもらえたと思っている」

 熱さをほとばしらせる長友の姿を見ながら、本人をして「成り上がった」と言わしめるサクセスストーリーを支え続けた、前出の井上氏から授けられた金言を思い出さずにはいられなかった。

「自分の意思次第で道は変わる」

 第2次政権をスタートさせた昨年3月以来、森保一監督はベテランと呼ばれる選手を招集していない。長くキャプテンを務めた吉田麻也や長友、酒井宏樹、ゴールキーパーの川島永嗣と権田修一らに加えて、幾度となく待望論が沸き上がった昨シーズンのJ1得点王、大迫勇也も復帰を果たせていない。

 2026年のワールドカップ北中米大会をにらんだチーム作りの一環、と見られていたからこそ、長友の復帰はファン・サポーターやメディアを驚かせた。森保監督の決断には優勝候補筆頭として臨みながら、準々決勝でイラン代表に敗れた先のアジアカップが大きく影響していると見ていい。

 グループリーグでもイラク代表に屈しているアジアカップの戦いぶりは、元日本代表として大会を外から見ていた長友の目に「元気がないというか、すごく覇気がなかった」と映っていた。しかも、苦境に陥ったチームを盛り上げる、いわゆるムードメーカー役を担える選手もまた見当たらなかった。

 ワールドカップ・カタール大会を振り返れば、髪の毛を金髪から赤色へと変えながらイタリア語の感嘆詞である「ブラボー!」を連呼。当時の流行語にも昇華させた長友の熱量は、グループリーグで優勝経験のあるドイツ、スペイン両代表を撃破した、世界を驚かせた快進撃を縁の下で支えていた。

 長友は自身の代表復帰を「チームのなかに何らかの問題があるから自分が呼ばれた、という認識はないんですけど……」と受け止めながらも、一方ではこんな思いも明かしている。

●日本人は未到のW杯5大会出場「僕は行きます」

「次のワールドカップまでの4年間という長い期間のなかで、いい時期だけじゃなく難しい時期も必ず訪れる。そんな状況になったときに自分自身が呼ばれるための、やはり長友は代表に必要な存在だと思われるための準備はしてきました。その意味でもFC東京で見せているピッチ上のプレーが評価されたのと、経験に関しては誰よりも積んでいるので、そういった部分も含まれているのかな、と」

 ここで長友が言及した「準備はしてきた」が「自分の意思次第で道は変わる」に繋がってくる。

当然ながら、盛り上げ役だけで招集されるほど代表は甘くはない。長友は今シーズンのFC東京で、右サイドバックとして4試合連続で先発。フル出場したセレッソ大阪との開幕戦でチーム最多の「22」のスプリントを記録するなど、コンディションのよさを維持している点も森保監督を振り向かせた要因だろう。

 しかも、長友は自身の将来に対して、すでに別の「意思」をその胸中に脈打たせている。

 ひとつは国際Aマッチの出場数。復帰を果たした時点で長友は歴代2位の「142」を数え、長くトップに君臨していたMF遠藤保仁の「152」を視界にとらえつつあった。だから、いまはこう語る。

「ヤットさん(遠藤)には常に『超えたい』と言ってきたので、そこはもちろん目指していきます」

 もうひとつは5大会連続のワールドカップ出場となる。世界ではポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシを含めた8人が達成している大記録。もちろん日本人選手では初めてとなる偉業に関して、長友は「僕は5回目に行きます」と公言した。

「自分のなかでそれはもう決めていて、そこから逆算しながらいま、いろいろなものに取り組んでいる。もちろん代表メンバーを決めるのは森保監督ですけど、そのために努力をしています。こんなことを偉そうに言っていたら、また批判されて叩かれると思いますけど、それもエネルギーに変えていきたいですね」

●「批判は仙豆」長友佑都は言われる度に強くなる

 長友が「また」と言及したように、岡田武史監督のもとで2008年に初招集された日本代表だけでなく、FC東京を皮切りにチェゼーナ、インテル、ガラタサライ、オリンピック・マルセイユ、そして2021年9月に復帰したFC東京で、長友は毀誉褒貶の激しい状況を何度も経験。自然と打たれ強くなったと笑う。

「僕はそういった批判を、エネルギーに変えながら成長してきました。僕にとって批判は『仙豆』みたいなもので、むしろもっと、もっと批判してください、という感じですよね」

 ここで言及された「仙豆」とは、今月1日に死去した鳥山明さんが描いた人気漫画『ドラゴンボール』のなかで登場するアイテムだ。ひと粒でも口にすれば大怪我が癒え、体力も回復する摩訶不思議な豆と、自分自身に向けられる厳しい批判の声が、いつしか長友のなかで同一化していた。

 長友はワールドカップ・ロシア大会の期間中も髪の毛を金色に染め、同じく『ドラゴンボール』で登場する「スーパーサイヤ人」だと周囲を笑わせ、苦戦が予想された西野ジャパンを盛り上げている。この『ドラゴンボール』の流れで、主人公の孫悟空が操る最大の武器である「元気玉」を、北朝鮮戦に臨む森保ジャパンに持ち込んだのかと聞いてみた。長友は苦笑しながらこう返している。

「やはり元気ですよ。エネルギーがあり余っているというか、何か年をとってからそういうのがより一層強くなってきている。こうして代表に来ると、疲れも吹っ飛ぶんですよね。そういった意味でもやはり意識とか気持ちというのは大事だと、あらためて感じています。だからこそ、1年ちょっとのブランクが空いているけど、様子見なんかはまったくしていないですね。若い選手たちや新しい選手たちは僕の熱に引いているというか、ちょっと距離を取られている感覚が最初こそありましたけど、練習をしながら心が近づいたと思うので、ここからまたみんなのなかへグッと入っていこうかなと思っています」

 長友の半生のほんの一部を振り返っただけでも、何が起ころうと揺るがない強靱な意思が、進んでいく道を切り開いてきた跡が伝わってくる。サッカー界を驚かせた今回の代表復帰も、サッカー人生のすべてを代表とワールドカップに懸けてきた、と公言してはばからない長友が引き寄せたと表現していい。

 そのなかで、ひとつだけ誤解があると長友は苦笑する。平壌での北朝鮮戦が開催されるのは、ザックジャパン時代の2011年11月以来、13年ぶりとなる。0-1で敗れたワールドカップ・ブラジル大会出場へ向けたアジア2次予選第5戦に、負傷離脱中だった長友は実は帯同していない。

「何か前回も僕が行ったみたいな感じで、選手たちも『佑都さん、行ったんですよね。教えてください』と言われるんですよ。僕もいろいろと情報を集めていますけど、さまざまな経験を積んできたなかで、どんな相手だろうが、どんな過酷な場所だろうが、自分はやれるという自信を持っている。一人でも元気なやつがいれば、それがチームに伝染していくと思うので。そういう存在で常にありたいですね」

 日本は過去に平壌で4度戦い、2分け2敗とひとつも勝っていない。それどころか無得点が続いている。情報がほとんどなく、不気味さが漂う敵地の戦いだからこそ「僕、マジで悩みがないんですよ。それが自分の強みというか、逆境が大好物なんですよね」と公言する長友の存在感が大きくなってくる。

(取材・文:藤江直人

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