「他にあまりいない」東京ヴェルディ、山田楓喜が抱く左足への絶対的な自信。U-23日本代表でも貴重な“匠の技”【コラム】

【写真:Getty Images】

●圧巻の直接FK「自分だったら入るとわかっていた」

 明治安田J1リーグ第4節、東京ヴェルディ対アルビレックス新潟が16日に行われ、2-2のドローに終わった。この試合でフリーキックから鮮やかな先制ゴールを奪ったのが、U-23日本代表のMF山田楓喜だ。同選手はこれで、今季早くも直接FKから2ゴールをマークしている。「入るとわかっていた」と話す通り、その左足には絶対的な自信を持つ。その理由とは。(取材・文:藤江直人)

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 敵陣で直接フリーキックを獲得したチームのキッカーたちが、セットされたボールに近づく。多くの場合で右利きと左利きの選手が一人ずつスタンバイ。そして、口もとを手で覆い隠しながら何かを話し合う。

 サッカーの試合でよく見られる光景で、実際にはどのような会話が交わされているのか。東京ヴェルディがホームの味の素スタジアムにアルビレックス新潟を迎えた、16日の明治安田J1リーグ第4節。開始直後の8分に東京Vが迎えたチャンスでは、意外な響きを持つ言葉が飛び交っていた。

「俺が蹴るから(ボールの近くに)立っといて」

 声の主は22歳のMF山田楓喜。そして、どちらが蹴るのかを新潟に絞らせないために、ダミーになってほしいと山田から伝えられたのは25歳のMF見木友哉。指示に込めた思いを山田はこう明かす。

「あの位置でFKをもらった瞬間に自分が蹴ると決めていましたし、あの距離で自分だったら入るとわかっていたので。あとはもう思い切って、自信を持って蹴るだけでした」

 こぼれ球を収めようとした東京VのFW染野唯月が、敵陣中央のやや左側で新潟のボランチ秋山裕紀に倒されて獲得した直接FK。利き足の左足に寄せる絶対的な自信を物語るように、山田は主戦場の右サイドから染野が倒された地点へゆっくりと歩み寄り、右利きの見木へ前出の言葉を伝えた。

ゴールまでは約25mと距離があったが、山田は「あまり感じなかった」と意に介さない。新潟が作った壁は4枚。山田はその一番左側、身長177cmのFW谷口海斗に狙いを定めた。

そして、左足のインサイドキックから放たれた直後にゴールの枠を外れた一撃は、谷口の頭上を越えたあたりから大外を巻いて美しい弧を描き、さらに急降下しながら新潟ゴール左隅の一番上を急襲した。

 昨年10月に日本代表へ招集された新潟の守護神、小島亨介も懸命に反応する。しかし、ダイブしながら伸ばした右手を弾き飛ばし、ゴールインするだけの力強さが山田の一撃には込められていた。

「スピードがありましたけど、それでも何とか(ゴールの外へ)弾き出したかった」

 東京Vに先制された場面をこう振り返った小島は、さらにこんな言葉を紡いでいる。

●「これが俺やぞ」

「まずはあの位置でFKを与えないことが重要だと思う。あとは最後のところで、自分がしっかりとステップを踏んで、ボールに対してパワーを持ってダイブしていけばよかったんですけど」

 小島の述懐を聞けば、対峙するゴールキーパーにステップを踏ませないだけの、予想を上回るスピードを伴った軌道だったのが伝わってくる。直後からネット上を騒然させた山田は、横浜F・マリノスを国立競技場に迎えた2月25日の開幕戦でも直接FKから鮮やかな先制ゴールを決めている。

 Jリーグが産声をあげた1993シーズンの開幕カードが、国立競技場で時空を超えて再現された一戦の開始わずか7分。16年ぶりにJ1へ挑む東京Vの初ゴールは、まったく異なる位置から放たれた。

 ペナルティーエリア右角のわずか外側。距離にして約17m。マリノスが作った3枚の壁をものともせずにゴール右隅の一番上、最短距離を射抜く強烈な一撃を突き刺した山田は試合後にこう語っている。

「あのあたりは自分のエリアなので、どの場面でもあの距離ならば決める自信はありました」

 試合自体は1-2で逆転負けを喫した。それでも強烈な爪痕を残した山田は、後にクラブの公式YouTubeチャンネルで配信された「THE GOAL REVIE」に登場。そのなかで「自分のプレーを見たことがない人がほとんどやったと思うので」と断りを入れながら、関西弁をまじえてこんな言葉を残している。

「これが俺やぞ、というのを見せられたと思う」

 年齢が上の見木へかけた「立っといて」という言葉も然り。直接FKに対して抱く、不敵なまでの自信の源泉はいったい何なのか。新潟戦後の取材エリア。参考にしているキッカーの存在を問われた山田は、不断の努力を介して左足に宿らせてきた、オリジナルの「匠の技」だと強調している。

●FKへの確固たる自信。「続けてきた」作業とは?

「FK練習ではないですけど、毎日のようにシュート練習をしている感覚は残っている。それをそのまま……何て言うんですかね、FKでも同じ感覚で蹴る、という作業はずっと続けてきた。なので、止まっているボールでも動いているボールでも、ああいった球筋は蹴れる自信があります」

 さらに直接FKに関して、まだすべてを出し尽くしていないと大胆に言葉を紡いだ。

「開幕戦のFKとはまた違った球筋やったけど、角度や距離に合わせて、あと何種類かは蹴れますね。でも無回転はどうやろう。蹴れるとは思いますけど、実際に試合で蹴るかどうかはわからないです」

 滋賀県甲賀郡水口町(現・甲賀市)で生まれ育った山田は、小学校5年生から京都サンガF.C.のアカデミーでプレー。中学生年代のU-15、高校生年代のU-18をへて2020年にトップチームへ昇格した。

 しかし、同期のMF川﨑颯太とは対照的に、最初の2シーズンの山田は天皇杯の1試合に出場しただけだった。公式戦に絡み始めたのは3年目の2022シーズン。同年3月のサガン鳥栖とのYBCルヴァンカップ・グループステージ第2戦ではプロ初ゴールを決めて、京都も2-1で勝利している。

 鳥栖戦後の記者会見。2021シーズンから京都を率いる曺貴裁監督は、山田の変化を「大人のサッカーへ向かうスイッチが入った」と笑顔で歓迎している。山田の何がそれまでとは違っていたのか。

●さらなる成長のため…。期限付き移籍の覚悟

「自分が点を取るとか取らないか、ドリブルで抜けるか抜けないかくらいの興味しか抱いていなかった選手が、チームに対して少し目を向けることで、持っている力が生かされる一例だったと思う。ただ、そのなかでも個性は絶対に軽視してはいけないし、監督の求めるものだけをやっていて上手くなった選手は実際に一人もいない。なので、自分で考えるという部分も含めて、もっと伸びていってほしい」

 曺監督が期待を寄せる山田は、J1リーグで2022シーズンに出場14試合で2ゴール、昨シーズンは17試合で1ゴールをマーク。成長曲線を加速させるために、今シーズンから東京Vへ期限付き移籍した。

 山田は移籍が決まった昨年末に自身のX(旧ツイッター)を更新。投稿のなかで「サンガありがとう。一旦さようならということで」と綴り、新天地・東京Vでの活躍を誓っている。

 もちろんプレーする環境が変わっても、真っ先に視線を向ける対象がチームなのは変わらない。今シーズンで初めて戦うホームの味の素スタジアムで、初勝利を目指した新潟戦では一時は逆転されながら90分に追いつき、試合終了間際の失点で敗れるか、引き分けた過去3戦とは違う粘りをのぞかせた。

「ヴェルディを勝たせるために、この1週間やってきた。それはかなわなかったけど、最後はいままでとは違った勝ち点1やったと思う。この勝ち点を基調として、次はサンガとの対戦で僕は(契約上の理由で)出られませんけど、それでも全員で勝ち点3を取りにいきたい。そのなかで決定力という面で前半は決めなあかんシーンがありましたし、これまでもそうですけど、決定機を決め切らないとやはり難しい試合になる。そこに関してはチーム全員で、見つめ直しながらまたトレーニングしていきたい」

 東京Vに関わる全員が待ち焦がれる初勝利への思いを新たにした山田はいま、染野とともにチームを離れている。大岩剛監督に率いられるU-23日本代表に招集され、U-23マリ代表(22日・サンガスタジアム by KYOCERA)、およびU-23ウクライナ代表(25日・北九州スタジアム)との国際親善試合へ向けて、18日から京都市内で始まった事前合宿に参加しているからだ。

●「「自分のような左足を持っている選手は、他にあまりいない」

 森保ジャパンを含めて、獲得した直接FKをゴールに変えるキッカーが不在となって久しい。日本サッカー界全体を見渡しても、2022シーズン限りで引退した中村俊輔、今シーズンが始まる直前にスパイクを脱いだ遠藤保仁を最後に、試合の流れを変えられるキッカーの系譜が途絶えかけている。

 だからこそ、開幕からわずか4戦で直接FKを2度も、ともに美しく、なおかつ鮮やかな弾道からゴールに変えた山田の左足が必然的に異彩を放ってくる。直接FKを操るレフティーとして、真っ先に思い浮かぶ俊輔へ存在を問われた山田は「参考にはしていない」と断りを入れながら、こう続けている。

「(自分の)目に入ってくるくらい(直接FK)を決めているし、もう何回も映像で見ましたけど、それ(俊輔)を超えられるような左足になっていけたら、と思っています」

 U-23代表は来月15日から中東カタールで、今夏のパリ五輪アジア最終予選を兼ねたAFC・U-23アジアカップに臨む。国際Aマッチデー期間外でヨーロッパ組を思うように招集できず、厳しい戦いが不可避とされる状況で、一発で劣勢をひっくり返せる山田の左足は代表戦でも貴重な武器になる。

「自分のような左足を持っている選手は、他にあまりいないと思う。さらに同じ左利きのなかでも、自分はまた違った左利きやと思っているので、それをどんどん出していけたらと思っています」

 U-23代表における自身の存在をこう語った山田は、また違った左利き、という意味にこう言及した。

「言葉で上手く表現できないというか……まあ見たらわかるでしょう、くらいの感じですね」

 直接FKの名手へ名乗りをあげただけではない。新潟戦では78分にベンチへ下がりながら、チームトップのスプリント回数17をマークした。身長181cm体重73kgとサイズに恵まれた体にスタミナ、そして戦う姿勢も搭載するレフティーは、本人が胸を張ったように現在進行形で周囲と一線を画しつつある。

(取材・文:藤江直人

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