【遠藤航・分析コラム】なぜ世界最高峰の試合で輝いたのか? デ・ブライネを追いやったリバプールの準備

【写真:Getty Images】

●“世界最高峰の試合”で遠藤航がマン・オブ・ザ・マッチを受賞

 プレミアリーグ第28節、リバプール対マンチェスター・シティが現地時間10日に行われ、1-1の引き分けに終わった。この試合で先発出場を果たしたリバプールの遠藤航はアンカーのポジションで躍動し、試合後に発表されたクラブ公式のMOTMに輝いた。なぜ、日本代表MFはこの大一番で抜群の存在感を放つことができたのだろうか。(文:安洋一郎)

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 今シーズンの欧州5大リーグにて、これ以上のハイレベルな戦いは見られないかもしれない。

 首位リバプールがホームのアンフィールドに2位マンチェスター・シティを迎えた首位攻防戦は、目まぐるしく攻守が入れ替わる“世界最高峰”と呼ぶに相応しい試合だった。互いに何度も相手ゴール前に攻め込んだ中で決まったゴールがコーナーキックとPKだったのは、両チームの守備陣が最後まで集中していたからに他ならない。

 1対1の局面においても、アーリング・ハーランドvsフィルジル・ファン・ダイクやルイス・ディアス vs カイル・ウォーカーなど、ワールドクラスのFWとDF同士のマッチアップも見応え十分だった。

 そして試合後には今季限りで退任するリバプール指揮官ユルゲン・クロップとマンチェスター・シティ指揮官ジョゼップ・グアルディオラが厚い抱擁を交わしている。両監督のキャリアを通しての対戦成績は、クロップ目線で12勝7分11敗とほぼ五分であり、ペップがプレミアリーグへとやって来た2016/17シーズンからは何度も激戦とタイトル争いを繰り広げてきた。

 サッカー史に名を残す2人の名将による互いへのリスペクトが伝わる約10秒間に及ぶハグと会話のシーンは、近年のプレミアリーグの集大成とも言える。

 そんな歴史的に残るであろう試合にて、リバプールの遠藤航はクラブ公式のマン・オブ・ザ・マッチに輝いた。リバプールOBである元ブラジル代表MFルーカス・レイバも自身の『X(旧Twitter)』にて名指しで賞賛するなど、日本代表MFはこの最高峰の試合でも輝きを放っている。

●遠藤航に与えられた役割

 この試合で遠藤に与えられた役割は[4-3-3]のアンカーのポジションから、状況に応じてライン間に立つケビン・デ・ブライネや相手の両ボランチ、ジョン・ストーンズとロドリに対して強烈な圧力を掛けることで、自由を奪ってボールを奪うこと。そして素早くシンプルなパスを出してショートカウンターの起点となることだった。

 遠藤からするとタックルを仕掛ける相手選手は状況によって変わってくるが、チームのプレスが連動した上での得意な「前向きの守備」となるため、守備範囲はある程度限定されている。決まったエリアでボールを奪い切る能力に関しては、この日本代表MFより秀でている選手は早々いない。

 世界最高峰のMFであるデ・ブライネ相手にもプレーの選択肢を与えないほどの激しい寄せで自由を奪い、彼が得意としているドリブルでの持ち運びからのカウンターをほとんどさせなかった。これがどれだけ効果的だったのかはマンチェスター・シティの交代策に表れており、グアルディオラ監督は69分にベルギー代表MFを下げる決断を下している。

 代わりにジェレミー・ドクを投入し、遠藤がいる中央からの攻撃ではなく、サイドからドリブルで仕掛けさせる戦術的な変更を行った。

 ペップが嫌がったのも無理はない。実際に遠藤のマンチェスター・シティ戦でのデュエル勝率は約86%(7戦6勝)であり、昨季のプレミアリーグ王者は日本代表MFが君臨している中央を避けた攻撃へと形を変えた。

●なぜ遠藤航は世界最高峰の試合で輝けたのか

 ハイレベルだったこの試合で遠藤が輝けたのは、チームとして彼が得意なプレーに専念できるように整備されている影響が大きいだろう。

 試合やトレーニングを重ねるごとに、彼の得意なプレーと苦手なプレーを見極めた首脳陣のアプローチは素晴らしかった。現在はチームの構造として遠藤が活きる形を採用しており、彼のところをボールの奪いどころに設定した上で、逆算したプレスを前線からかけている。

 その結果、遠藤はボールホルダーに対して迷わず全速力で圧力を掛けることができており、多くの局面で相手に前を向かせない守備が可能となった。

 一方で、最終ラインから後ろ向きでボールを受けた際に奪われるケースが多かったビルドアップも遠藤のために整備されている。現在はこの試合での31分のシーンに象徴されるようにCBの間に降りてパス回しに参加することで、低い位置からカウンターを食らうリスクを最大限に減らした。

 そしてインサイドハーフには、どんな体勢でボールを受けても何とかしてくれるアレクシス・マック・アリスターとドミニク・ソボスライの両名がいるため、遠藤自身は難しいパスを選択しなくてもシンプルに味方選手に繋ぐことで攻撃の起点となる。

 苦手なプレーを減らし、得意なプレーに専念できるようにピッチ内での環境が変わったことで、遠藤自身も着実に成長を遂げてきた。逆にここまで存在感を放つのであれば、仮にいなくなってしまうと現在のリバプールのサッカーが成立しなくなる可能性もあるのではないか。そう思わせるほど、現在の遠藤はユルゲン・クロップ監督のチームの中心なのだ。

(文:安洋一郎)

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