サッカー日本代表ゴールの舞台裏。「じわじわ効く」冨安健洋と久保建英に伝えられたベンチからの声【アジアカップ2023】

【写真:Getty Images】

 サッカー日本代表は1月31日、AFCアジアカップカタール2023でバーレーン代表と対戦し、3-1で勝利した。31分に毎熊晟矢のミドルシュートがポストを叩き、跳ね返りを堂安律が押し込んで先制に成功している。このゴールの舞台裏を複数の選手の証言から明かしていく。(取材・文:加藤健一【カタール】、取材協力:元川悦子)

●ベンチから冨安健洋に伝えたこと

 バーレーン代表は4-1-4-1のコンパクトな陣形を保ち、パスを回す日本代表を待ち構えていた。闇雲にプレッシャーをかけることはなかったが、危険な位置に入ると身体を寄せて奪ってくる。韓国代表戦を含むグループステージ3試合すべてにデュエル勝率で相手を上回ったチームの守備を崩すのは決して簡単ではなかった(データは『Sofascore』を参照)。

 それでも日本代表は31分に均衡を破る。起点となったのは敵陣までボールを運んだ冨安健洋のパスだった。

「僕が出ていないとき、センターバックの片方がフリーなので、自分でボールを持って(相手のブロックを)縮めてほしかった。前半にトミ(冨安)にそういうことは言っていた」

 冨安とのやりとりを明かしたのは守田英正である。この先制ゴールの後に負傷した旗手怜央に代わってピッチに立つことになるのだが、ベンチで戦況を見つめながら攻略の糸口を探っていた。センターバックが運べないことで「怜央が前に居れるはずなのに怖くなって引いてきたり、(中山)雄太が(不必要に)上がったりとかはあったんで、怜央には『前に居ていい』と伝えました」とも話している。

 冨安にボールが入る場面を見返すと、確かに守田の言う通り、旗手は相手のアンカー脇にポジションを取り、中山は遠藤の脇まで絞っている。そこで冨安からサイドに開いた中村敬斗にパスが通ると、中山がするすると内側を上がって相手を引き連れる。中村は中山へ出すそぶりを見せながら中央の遠藤へ。遠藤は球離れよく右へ展開すると、内側に絞っていた毎熊がフリーになっていた。

中山雄太が描いた「真綿で首を締める」攻撃

「人との距離感は常に意識しています。自分が外にいると人とつながれないと思ったので、つながるためにあそこにポジションを取りましたし、遠藤選手にもパスの選択肢が増えると思ったので。ここ(日本代表)に来る前から意識しています」

 毎熊はシュートシーンに至る過程をこう振り返る。たしかに、変幻自在にポジションを変える動きはセレッソ大阪でやっていることと変わらない。外を追い越す動きもあれば、内側を駆け上がることもある。「らしさ」が出たという表現がピタリとあてはまる。

「マイク(毎熊)のミドルシュートのシーンは左に寄せきれていたので、僕としてはそれでいいかなと。じわじわと苦しめていくような雰囲気。じわじわ効くような攻撃の仕方もあるので」

 こう話したのは、左サイドバックの中山である。得点に至る過程で中山はボールに触れていないが、相手の嫌なポジションに顔を何度も出し続けていた。中山は「ちょっといい言葉が出ないんですけど」と言っていたが「真綿で首を締める」という表現が的確かもしれない。「左に人数を集めて右に展開するシーンも多い」と振り返った毎熊は中山について「逆サイドのことまで考えてプレーしてくれる」と評していた。中山の機転の利いたプレーは、間違いなく日本代表を支えていた。

 左サイドに相手を寄せきった結果として遠藤の脇のスペースで毎熊がフリーになったと言いたいところだが、もう1つの要素を忘れてはならない。久保建英の動きにもアイデアが詰まっている。

●「ゴールより優勝」ベンチから久保建英に送られた指示とは…

「前半は僕のところに6番の選手がマンマークについていた」と言うように、ゴールシーンでは右サイドに開いた久保をアンカーのモハメド・アル=ハーダンがマークしており、一時的に最終ラインが5枚になっている。これはベンチからの指示もあったという。森保一監督は中村を通じて久保に「律とポジションを入れ替えたらスペースが空くよ」と伝えたという。

 久保が右サイドに開いたことで相手のアンカー(6番)を引き連れ、相手のディフェンスラインの前のスペースがぽっかりと空いた。こういった分析と指示の結果として、毎熊のミドルシュートが生まれた。

 そして、最後は堂安である。反応が早かったのは言うまでもないが、冷静なファーストタッチから流し込む動作に至るまですべてが正確だった。「ダイレクトで打とうと思えば打てた」と言いつつも、「(シュートを)ふかしたらPKにもならない」と冷静だった。

「相手よりもちょっと先に動き出せた感じがあった。席に触って、相手がクリアしようとするならPKをもらえるなと思って前に出た。けど、相手がPKを避けて完全に止まったのでそのままゴールに」

 ベンチにいる守田が冨安に指示を送り、中山が機転を利かせてスペースに潜り込む。そして、久保が囮になって味方にスペースを作る。主役になるような選手が一切のエゴを捨てて、囮になることもいとわず走る。その結果として堂安のゴールがあり、久保のゴールがある。

 堂安が「ゴールを目指していますけど、それよりも優勝したいので」と言えば、久保も「90分(体力を)持たせようという考えの選手はピッチに立つべきじゃない」と言う。日本代表というチームは、それぞれのクラブで主役として輝く人たちがときに脇役になることで成り立っている。

(取材・文:加藤健一【カタール】、取材協力:元川悦子

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