南野拓実がサッカー日本代表で再び輝く予感。重圧から解放された等身大の29歳に【アジアカップ2023現地取材コラム】

【写真:Getty Images】

●「そろそろ…」「2大会優勝できていないのは情けない」

 サッカー日本代表は14日、AFCアジアカップカタール2023(アジア杯)グループリーグ初戦でベトナム代表と対戦する。前回大会で主力を担いながら不完全燃焼に終わった南野拓実は、今月29歳の誕生日を迎える。数々の悔しい思いを乗り越えてモナコで輝きを取り戻した男には、今大会のキーマンになる予感が充満する。(取材・文:元川悦子【カタール】)
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 サッカー日本代表は1992年広島、2000年レバノン、2004年中国、2011年カタールと過去4度のアジア王者に輝いている。しかしながら、2015年オーストラリア、2019年UAEと直近2大会はタイトルを逃した。

「毎回、『日本が優勝候補』と言われているけど、2大会優勝できていないのは情けない結果だと正直、思います。頭の中では日本がそろそろ圧倒的なアジアナンバーワンにならなきゃいけない」と前回大会で主力だった堂安律も自戒の念を口にしていた。

 当時、堂安とともに撃の軸を担った南野拓実も同じ気持ちではないか。

 森保一監督が日本代表の指揮を執り始めた最初のビッグトーナメントでトップ下に陣取った彼は、グループリーグ3戦目のウズベキスタン代表戦を除く6試合に先発。最初から数多くの決定機を迎えながら決めきれず、終盤まで行ってしまった。ファイナルのカタール代表戦でようやく一矢報いる大会初得点を挙げたが、最終的には1-3の完敗。南野は悔しさをにじませるしかなかった。

●不発の前回大会と屈辱のFIFAワールドカップを糧に

「前回は重圧を背負っていた? 最初はそんなことなかったんですよ。途中からだんだんそうなっていきましたね」と彼は苦笑いしながら5年前を述懐した。実際、24歳のエース候補はノーゴールが続くたびに表情が硬くなり、報道陣から遠ざかっていった。自分自身を追い込んだ当時の失敗、そして昨年のFIFAワールドカップカタール2022(W杯)での屈辱を糧に、南野は自身2度目のアジアカップに挑むことになる。

 14日の初戦・ベトナム代表戦は三笘薫の欠場が決定。ケガが癒えたばかりの久保建英も先発回避が確実視される。日本の基本布陣が4-2-3-1か4-3-3かは予想が分かれるところだが、前者だとすれば、トップ下要員は南野が候補の筆頭になるだろう。9日に非公開で行われたヨルダン戦でも、南野は右の伊東純也、左の中村敬斗(ともにスタッド・ランス)2列目でプレーしており、その流れを踏襲する可能性が大なのだ。

「敬斗とは10月で一緒にやったのが初めてだったけど、シュートのうまさとかポジショニング、技術の高さをすごく感じた。その少し前にスタッド・ランスと試合をしていて、相手としたらすごく脅威でしたね。

 純也君は言わなくても分かると言うか、代表でもずば抜けて攻撃を引っ張っていく存在。その中で自分はよさを出しつつ、いい融合を見せられればいいと思ってます」

 南野は破壊力抜群の“フランストリオ”でベトナム代表に勝ちにいく意欲を見せていた。

●南野拓実が絡む必殺パターン

 そこで南野に求められるのは「味方を生かし、自らも生きるプレー」。左の中村敬斗がゴール前に飛び込んでくる形を得意としていることから、右の伊東、最前線に入るであろう細谷真大と近い距離感で連動しながら敵を攻略し、中村が侵入できるスペースを作ることをまず第一に意識すべきだ。

 ベトナム代表もこの必殺パターンは警戒してくるだろうから、左からの崩しも模索しなければいけない。その場合、イメージしたいのが、元日のタイ代表戦の2点目。中村敬斗と佐野海舟が左で絡んでマイナスの折り返しが入ったところに南野が飛び込んでシュート。そのこぼれ球を中村敬斗が押し込んだわけだが、南野と中村敬斗、細谷らが近い距離感を保っていたからこそ、生まれたゴールだったと言える。

 そういった良好なバランスや関係性を作ることを南野は得意としている。前線と円滑に絡みつつ、自らもゴールを仕留められる能力をいかんなく発揮できれば、彼はベトナム代表戦で確実に輝けるはずだ。

 特に今回はフィニッシュの鋭さというストロングを前面に押し出してほしいところ。それが日本代表ではなかなか出ない時期もあったが、タイ代表戦でようやくトンネルから抜け出した印象がある。その流れを持続し、ベトナム代表戦でも得点を奪えれば、前回大会のような苦悩の日々を送ることはなくなる。本人も同じ轍を踏みたくないと強く願っているはずで、何としても初戦ゴールで勢いに乗りたいものである。

 本人は過去を振り返りながら、このように話す。

●5年間の紆余曲折。重圧から解き放たれ、いざ飛躍

「どんな相手でも大きい大会の初戦というのはすごく難しくなり得る。もしかしたら僕たちがボールを支配する状況になるかもしれないですけど、不用意な連続したミスから失点につながる。そうするとすごく試合展開が難しくなったりすることが考えられる。僕らがドイツを相手にW杯でやったような展開もあり得るので、まずは先制点を取りたい。そういう初歩的なところ、やるべきことをしっかりやることが一番大事になってくると思います」

 現在、日本代表でトップ下を争っている久保、鎌田大地と比較すると、南野の強みはよりストライカーに近い役割を担える点ではないか。ゲームメークが得意な鎌田、フィニッシャーとお膳立て役の中間的存在の久保より前目でプレーしてこそ光る選手だと言える。

 それは今季のモナコでも実証している。2シャドーの一角に陣取ったことで、南野がゴール前で脅威になっているシーンは数多く見られる。そういういい感触を代表にも持ち込めれば、今回のアジアカップで大活躍も夢ではないだろう。

 5年間の紆余曲折を経て、間もなく29歳になる南野はようやく地に足を着けて代表のプレーに集中できるようになった。背番号10を手放し、心理的重圧から解放されたことも大きいだろう。自然体を取り戻した今回のアジアカップだからこそ、期待感が高まってくるのだ。

 伊東純也も30歳を目前に大きく飛躍したが、南野も同じような軌跡を辿ることは十分可能だろう。今回のベトナム代表戦でその布石を打てれば理想的。ベトナム代表戦では新たな代表キャリアを歩み始めた南野拓実の一挙手一投足にフォーカスしつつ、日本代表の戦いぶりを注視すべきだ。いずれにしても、今回は初戦で足踏みすることだけは許されない。

(取材・文:元川悦子【カタール】)

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