【ガンバ大阪総括コラム前編】ポヤトス・スタイルは間違いだったのか? 「恥と地獄の連鎖」山あり谷ありの11ヶ月

【写真:Getty Images】

●ポヤトス体制1年目は屈辱的な結果に

 スペイン人のダニエル・ポヤトス監督を招聘し、2023シーズンの明治安田生命J1リーグを戦ったガンバ大阪は16位に低迷。ホーム最終戦ではクラブに向けサポーターから厳しいブーイングが浴びせられた。新たなサッカーを求めたガンバの決断は間違いだったのか。今シーズンの総括を前後編に分けてお届けする。今回は前編。(取材・文:下薗昌記)

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 ホーム最終節の試合後、恒例で行われるセレモニーはブーイングが飛び交う殺伐とした空気感が漂った。

 チームの顔であるはずの宇佐美貴史がキャプテンとしてマイクの前に向かうとゴール裏からは痛烈なブーイング。「ブーイングをしたくなる気持ちも、本当に僕らも分かっています。僕らも同じ気持ちですし、僕らも苦しいです。ただ長い間、1つのクラブで頑張り続けた選手が今日を持って去ります。なので最後、温かく送り出して頂けるとありがたいです」。

 13年間、ガンバ大阪一筋でプレーした藤春廣輝の別れの場を良きものにしようと発した宇佐美の言葉もむなしく、続いて挨拶に立ったダニエル・ポヤトス監督も厳しいブーイングで出迎えられた。

 ゴール裏では近年、パナソニックスタジアム吹田ではまずお目にかからなかったクラブを指弾する横断幕が2つ掲げられた。

「腐った土から芽は出ない。恥と地獄の連鎖 誰が変える」
「青黒を誇示し最後まで闘える者は誰?」

 新体制会見など「晴れの場」には姿を現す社長やGMは近年続く低調なシーズンのホーム最終節、サポーターの前に姿を見せないことが恒例となり、サポーターミーティングも2018年2月を最後に開かれていない。コアなサポーターからのクラブに対する不満がつまった横断幕が掲示されたのは、むべなるかなといったところである。

 昨年までのレギュレーションであればJ2との入れ替え戦に挑むことになるリーグ戦16位のフィニッシュに加えて、Jリーグ創設当初の「暗黒時代」以来、28年ぶりの7連敗でシーズンを締めくくり、失点数はリーグワーストタイ。さらには天皇杯2回戦ではJFL勢の高知ユナイテッドに1対2で敗北を喫するなど、ポヤトス体制1年目の成績はおよそ、スペイン人指揮官が「ガンバが本来、いるに値するところに戻しにいく」と口癖のように話した言葉とは対照的なものだった。

 ただ、クラブ史上初となるスペイン人監督を招いた2023シーズンは、何年か後に「産みの苦しみ」だったと位置付けられる可能性を持つ1年だったことも確かな事実である。

●「魅力的なサッカーで勝利を追求する」

 昨年8月、片野坂知宏監督(当時)の事実上の更迭に伴い、急きょ指揮を執った松田浩前監督は圧巻の堅守をベースにJ1残留に導いたが、ガンバ大阪は長年続いていたリアクションスタイルからの脱却を目指してポヤトス監督に白羽の矢を立てた。

「攻守に主導権を握る魅力的なサッカーで勝利を追求する」。

 今年1月のキックオフイベントで和田昌裕取締役ゼネラルマネジャー(GM)は、クラブが目指す新たなスタイルをこう説明した。西野朗元監督が率いた当時の華麗な攻撃サッカーを「ガンバらしさ」の典型例として思い浮かべるサポーターは多いだろうが、遠藤保仁二川孝広山口智ら突出したタレントが支えていたスタイルはいわば「奇跡のサッカー」だった。

 サッカーのトレンドも変化し、かつては好タレントを輩出し続けた下部組織も弱体化――。これこそが将来的な一番の懸念材料と言えるのだが――。だからこそ、新時代のガンバ大阪のスタイル確立を託されたのがポヤトス監督だった。

 シーズンを終えて、残された数字は惨憺たるものであるのは事実だが、ポヤトス・ガンバが歩んできた道のりが、決して間違いとは言い切れないのも事実。山あり谷ありの11ヶ月には、指揮官が見せた可能性と、来季に向けての希望、そして課題が見え隠れしていた。

●「今季のガンバ大阪は一味違う」と感じさせたシーン

「攻守両面において、圧倒的に支配するサッカー」。ポヤトス監督がシーズン序盤から一貫して口にしてきた方向性である。

 フォーメーションは4-3-3を新たに採用。ワールドカップカタール大会にチュニジア代表として出場したイッサム・ジェバリや初のイスラエル人Jリーガーとなるネタ・ラヴィ、更にはパリ五輪世代の半田陸を獲得するなどクラブの本気度を感じさせる補強もあって、期待度が高まったシーズン開幕前、「サッカーの道筋や方向性は見えているので、あとはどれだけ表現できるかどうか」と宇佐美が言えば、「ポヤトスチルドレン」の一人として今季台頭した山本悠樹も「ガラッとサッカーのやり方も変わって、監督の言っていることも分かりやすい。後はJ1でどこまで勇気を持ってやれるかが大事。僕個人は元々、得意だったことを思い出させてもらっているし、自分に合うサッカー」と言い切っていた。

 柏レイソルとの開幕戦でGKを東口順昭でなく、湘南ベルマーレから期限付き移籍を終えて復帰した谷晃生を先発に抜擢したことからも分かるように、開幕からガンバ大阪が目指したのは後方から丁寧にボールをつないで相手ゴールに迫るスタイル。絶大な効果はあったものの、苦しくなればパトリックへのロングボールでしのいできた前年までとは180度異なる戦い方だけに、ドロー発進した柏レイソル戦以降、いきなりチームは長いトンネルに入り込む。

 三浦弦太とクォン・ギョンウォンのCBコンビはビルドアップでスムーズさを欠き、ウイングまで狙い通りの形でボールを動かしながらも、個の打開力を欠いたことで攻撃は停滞。とりわけシーズン序盤に目立ったのは、自陣での組み立てでミスを犯し、自滅的な失点を繰り返したことである。

 もっとも、今季のガンバ大阪は一味違う、と早々に感じさせた一戦があったのも見逃せない。

 第5節の北海道コンサドーレ札幌戦は2点を追う展開から2対2のドローに持ち込んだが、ポヤトス監督が本来目指すスタイルが2得点に凝縮していたのだ。

「自分自身は支配するスタイルが好きだし、そのためにはボールを持つ、そうすることで試合をコントロールする感触を得られる」と公言するポヤトス監督ではあるが、単なるパスサッカー原理主義者では決して、ない。

「どこにスペースが生まれるのか、どこにスペースを作り出すのか」(ポヤトス監督)。

 札幌戦は最終ラインからラヴィを経由して、左右双方のサイドを崩し切り、華麗な2点をゲットしたが、この得点こそがポヤトス・ガンバの真骨頂。そして、Jリーグが公開した「J STATS REPORT 2022」によると、J1の全18チーム中、唯一自陣から始まる攻撃で得点を奪えていないという不名誉なデータを残したガンバ大阪が、短期間で変化しようとしている事実を感じさせるものだった。

(取材・文:下薗昌記)

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