【横浜F・マリノスコラム】角田涼太朗を成長させた指揮官の「高い要求」。ともに歩んだ2年半で「プロとしての全てを教わった」

●ケヴィン・マスカット監督のラストマッチ

AFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループステージ第6節、横浜F・マリノス対山東泰山が13日に行われ、3-0で勝利したマリノスが決勝トーナメント進出を決めた。ケヴィン・マスカット監督の就任と同時期にプロ契約を結んだ角田は、指揮官への感謝をラストマッチのピッチで表現していた。(取材・文:元川悦子)
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<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/12/14/post524002/5/" target="_blank" rel="noopener">【動画】角田涼太朗から生まれたゴール! 横浜F・マリノス対山東泰山</a>

 川崎フロンターレヴァンフォーレ甲府が一足先にグループ1位通過を決めた23/24シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)。J1制覇を逃した横浜F・マリノスとしては是が非でも彼らの後に続きたかった。

 12月13日のグループH最終戦の相手は、5戦終了時点で首位に立っている山東泰山。同組は仁川ユナイテッドを含む三つ巴の争いになっており、マリノスは山東に2点差以上の勝利を挙げれば1位通過できる条件だった。

 加えて、この日は2021年夏から2年半指揮を執ってきたケヴィン・マスカット監督のラストマッチ。チーム全体が「ACL1位突破でケヴィンを送り出そう」と結束し、普段以上の強固な一体感で大一番に挑んだのだ。

 筑波大学在学中の2021年夏にマリノス入りした角田涼太朗にしてみれば、マスカット監督は「プロのイロハを教えてくれた指揮官」だ。

「(マスカット監督は)自分が入るタイミングでやってきて、プロとしての全てを教えてもらいました。試合に出ていた時期も出てない時期もありましたけど、今年なんかは本当に信じて使ってくれた。要求が高くて、それをクリアしたいって思いが自分をここまで成長させてくれた」と本人も感謝していた。恩に報いるためには、山東を零封し、1位通過の原動力になるしかない。彼は特別な思いを持ってスタメンでピッチに立った。

●守りを固める山東泰山に対して横浜F・マリノスは…

 マリノスが攻撃的に来ることを想定した山東は5-4-1の超守備的布陣でスタート。マリノスの攻撃時はアタッカー陣やMFをほぼマンマークし、ファウルまがいのアタックを見せるほど、タイトな守りを徹底してきた。

「前半はリズムをつかめなかった。1分毎にファウルがあってプレーが止まるので、コントロールという部分で難しかった」とマスカット監督も膠着状態に苛立ちを覚えたという。

 それを打ち破ったのが、前半終了間際の49分にエウベルが挙げた先制弾だ。起点のパスを出したのは角田。彼からヤン・マテウスにボールが通ると、次の瞬間、エウベルが一気にゴール前へ前進。DF2枚の間をすり抜けたところにラストパスが通り、体勢を崩しながら決めきったのだ。

「失う形が多かったり、相手の勢いに飲まれそうな場面が前半はあった。後ろから手綱を締めてオーガナイズしていこうとした時間帯に奪えた得点。すごく意味のある1点になった」と角田が言うように、チーム全体に安堵感をもたらす一撃だったと言っていい。

「あと1点取って無失点で抑えればいい」という機運が高まる中、迎えた後半。マリノスは一気に畳みかけ、57分に待望の2点目を奪う。これも角田の効果的な縦パスからだった。背番号33は喜田拓也の動きを見逃さず、スルーパスを供給。これがヤン・マテウスに渡り、ペナルティエリア右から打開。最後にゴール前に滑り込んできたアンデルソン・ロペスに折り返し、エースが決めるという形だった。

●ラストマッチで見せた角田涼太朗の成長

「どこかで穴を空ける作業が必要だった。あそこ(のスペース)は相手の泣きどころかなと試合を通して感じていたので、思い切って入っていけた。ツノ(角田)もいいボールをくれました」と喜田はしてやったりの表情を浮かべた。重要な局面で2つのゴールをお膳立てする球出しができたのも、マスカット体制での角田の大きな成長に他ならないだろう。

「そこ(縦につけるパス出し)は自分の特徴でもありますし、ケヴィンも分かってくれていた。チームスタイル的にもセンターバック(CB)に多くの仕事が求められる中で責任感は増していた。それをこの試合で出せたのは大きかったですね」と本人も少なからず成長を感じた様子だった。

 この7分後にヤン・マテウスのビューティフルゴールが飛び出し、3-0になってからは、相手の猛攻を跳ね返すのが守備陣の大きなタスクとなった。山東は次々と攻撃カードを切ってきて、猛然と攻め込んできたが、守護神・一森純と角田、エドゥアルドの両CB中心に体を張って守り続ける。終盤にはヒヤリしたシーンもあったが、それでもゴールを割らせなかった。マリノスの途中出場組である宮市亮水沼宏太らが終盤にギアを上げるいい働きを見せたこともあって、彼らは最後まで集中力を切らさず戦えた。

 そしてタイムアップの笛。3-0で勝利し、マリノスの1位通過が決定。マスカット監督の最終戦を見事な勝利で飾ることができた。

「ケヴィンは自分たちにフォーカスすること、1日1日を大事にすることを就任した当初から言っていた。僕もその言葉に救われたし、焦ることもなくなりました」と宮市がしみじみと言い、喜田も「臨機応変さや自分たちが効果的に変化していくこと、マリノスが進化するために必要なことを植え付けてくれた」と発言。指揮官の功績を選手それぞれが感じ、改めて自身の中に刻み込んでいた。

 角田の場合は、紆余曲折の2023年を過ごしたからこそ、より思うところが多かったはずだ。

●激動の2023シーズン。角田涼太朗を襲ったアクシデント

 振り返ってみると、今季はシーズン序盤から最終ラインの主軸と位置づけられ、3月の第2次森保ジャパン初陣シリーズに初招集されるという好スタートを切ったが、いきなり負傷して代表辞退を余儀なくされた。ここからすぐ復帰したが、5月には右第五中足骨骨折で全治3ヶ月と診断されてしまう。8月以降、少しずつピッチに戻り、完全復活したかと思われた10月。今度は下顎骨骨折の重傷を負い、手術する羽目になった。

「顎の手術をして、本当はこの試合を目指すという話だったんです。僕自身、『どうなってしまうんだ』と不安になったし、食事も取れなかった。流動食を作ってもらったり、無理を言ってリハビリをするために装具を作ってもらったり、本当に多くの人に支えられました。あの時は本当に苦しかったけど、下を向くことなくここまで来られました」と角田は感謝の言葉を口にした。

 もちろんマスカット監督も支えてくれた1人だったに違いない。2点をお膳立てするパス出しと完封という重要タスクを果たし、指揮官から求められた仕事をしっかりと果たしたことで、彼は一段階上のステージに達することができたのではないか。

「前の(ポステコグルー)監督からケヴィンになってもマリノスらしさは引き継がれた。それを先につないでいかないといけないと思います。このサッカーでアジアを取りたいですね」と角田はいち早くアジア制覇に目を向けた。

 来季は新指揮官の下で大目標に挑むことになるが、そのためにも彼自身が守備陣の大黒柱としてさらなる飛躍を遂げる必要がある。

 2024年の角田とマリノスの動向から目が離せない。

(取材・文:元川悦子

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