【久保建英・分析コラム】修正で生まれたWG久保への花道。多くゴールへつながったレアル・ソシエダの変化とは?

【写真:Getty Images】

●特別な日に久保建英が躍動

 ラ・リーガ第16節、ビジャレアル対レアル・ソシエダが現地時間9日に行われ、0-3でアウェイチームが勝利している。サッカー日本代表MF久保建英はフル出場を果たし1得点1アシストと躍動。直近の試合でなかなか結果を残せていなかった久保は、なぜ多くのゴールに絡むことができたのだろうか。(文:小澤祐作) ※ゲームスタッツはデータサイト『Who Scored』を参照

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/12/10/post523617/4/" target="_blank" rel="noopener">【動画】久保建英がゴール! ビジャレアル対レアル・ソシエダ ハイライト</a>

 ミケル・オヤルサバルアンデル・バレネチェア、ロビン・ル・ノルマンの不在に、ブライス・メンデスの負傷交代…。様々な不安を抱えながらも、レアル・ソシエダは敵地でビジャレアルを3-0と粉砕した。データサイト『Opta』によると、アウェイのリーグ戦においてソシエダが前半だけで3点を奪ったのは、21世紀に入って4度目のことだったという。

 この試合の前日、12月8日はソシエダにとって特別な日だった。25年前のこの日、ソシエダのサポーターであったアイトール・サバレタ氏が「バスク人だから」という理由だけでアトレティコ・マドリードサポーターに殺害される悲惨な事件があったのだ。クラブは追悼の意を表し、ビジャレアル戦の招集リストに「25 AITOR ZABALETA」と名前を刻んでいる。

 そんなサバレタ氏に捧げる意味でも、特別な勝利を奪ったソシエダ。その立役者となったのが、サバレタ氏が愛してきたソシエダの現アイコン的存在である久保建英だ。38分にコーナーキックからミケル・メリーノの先制点をアシストすると、前半アディショナルタイムには自らゴールを奪い試合を決定づけ、堂々のマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)に選出されている。

 これが実に公式戦13試合ぶりのゴールとなった久保。激しいマークに遭うなど、なかなか目に見える結果を残せずにいた直近のゲームとは違い、なぜ古巣ビジャレアル戦では多くのゴールに絡むことができたのだろうか。

●主力の負傷交代で生まれた変化

 ビジャレアル対ソシエダの一戦は前半で勝敗が決したと言える。2点差であればビジャレアルにもチャンスがあったかもしれないが、前半だけで3点差がつくと逆転は難しくなる。

 ただ、前半で勝負が決まったとはいえ、立ち上がりから継続してソシエダが圧倒していたわけではない。スコアが動いたのは38分から48分(前半AT)までの10分間であり、それ以前はほぼ互角の戦いだった。事実、試合開始〜30分までのソシエダのシュート数は3本だったが、30分〜前半終了までの同シュート数は12本と4倍になっている。前半の後半に、ソシエダのギアが一瞬にして上がった形だ。

 なにがソシエダを変えたのか。それは30分、B・メンデスの負傷交代だ。23分、倒れ込んだところでエティエンヌ・カプエに腕を蹴り上げられたB・メンデスはしばらくその場から動くことができず。その後プレーを再開したが、30分に自ら交代を申し出てベンチへと下がっている。

 B・メンデスの代わりにピッチに入ったのはベニャト・トゥリエンテス。彼は若くハードに戦うことができるが、まだ攻守において気の利いたことはできない。イマノル・アルグアシル監督はそれを理解していたのか、彼をピッチに送り出した後にビルドアップの形を変えている。

 ソシエダはこれまで通り後ろ4枚でビルドアップを進めていたが、B・メンデスの交代後は左SBのキーラン・ティアニーと両CB(イゴール・スベルディアアリツ・エルストンド)の3枚を後ろに残し、右SBのアマリ・トラオレを内側に絞らせた、いわゆる偽SBを採用している。トゥリエンテスのところを配球力に長けるマリ人DFでカバーしようという狙いだろう。

 これが功を奏し、ソシエダはビジャレアルを押し込むことに成功した。一番大きい変化は、やはりSBとWGが縦の関係にならないことだ。それまでのアウェイチームは両SBが低い位置でタッチラン際に張るため、縦のWGにパスをつけると彼らが後ろ向きで受けざるを得ないかつ相手から狙われやすくなるが、B・メンデスの交代後は両SBが中に絞るため、WGとポジションの段差ができる。これにより、相手DFにとっては飛び込みにくい斜めへのパスが増えている。

 当然それは、久保にとってもポジティブなことだ。

●久保建英にとってやりやすかった2つの理由

 試合開始〜30分までの久保のタッチ数はわずか10回だったが、B・メンデスが下がった30分〜前半終了までの約15分間では15回にも伸びている。また、同選手はこの日チーム2位タイとなる3本のシュートを放ったが、これはいずれも30分〜前半終了の間に記録したものであり、うち1つをゴールに繋げている。久保が高い位置でよくボールに触れていたことがわかるだろう。

 久保のゴールはアルセン・ザハリャンの巧みなボール奪取から発動されたショートカウンターで奪ったものだったが、久保のアシストは工夫されたビルドアップの効果が表れていた。内側に絞ったトラオレからサイドに張った久保に渡り、そこからハーフスペースへ飛び込んだトゥリエンテスにパスが入ったことで深い位置をとった。そこで得たCKから、メリーノの先制ゴールが生まれている。

「前半、攻撃でもいくつかの変更を行い、それが彼ら(ビジャレアル)よりも成功し、私たちが試合に勝った理由だと考えている」とはアルグアシル監督の言葉。直近の試合でなかなかボールが来ないケースも多かった久保にとっては、かなりプレーしやすかったはずだ。

 また、ビジャレアルの守備も久保からすると苦ではなかった。

 今やソシエダのエースである久保にはどのチームも基本は2枚で対応してくるが、ビジャレアルは左SBのアルフォンソ・ペドラサ1枚で見ることがほとんど。中盤のカプエはソシエダのインサイドハーフを警戒し、左SHアレックス・バエナは戻ってくるが、そこまで素早くカバーに入ったわけではない。久保にはいつも以上に余裕があった。

 チームがイケイケな状態でビジャレアルを押し込み、その中でさすがのクオリティーを発揮して1得点1アシストをマークした久保。ここ最近結果が出ていなかったこともあり、一安心といったところだろう。ここから再びギアを上げていけるか注目だ。

(文:小澤祐作)

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/08/07/post509964/" target="_blank" rel="noopener">久保建英は? レアル・ソシエダ年俸ランキング1~10位</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/11/27/post521991/" target="_blank" rel="noopener">FWのエゴと久保建英の違和感。目に余るプレーでレアル・ソシエダが失うものとは【分析コラム】</a>

ジャンルで探す