「賢くならないと」なぜ清水エスパルスは昇格に失敗? 繰り返した失敗と自ら招いた現実「キツイことを言いますけど」【コラム】

【写真:Getty Images】

●5万人超の大観衆が見届けたJ1昇格プレーオフ決勝

J1昇格プレーオフ決勝、東京ヴェルディ対清水エスパルスが2日に行われ、1-1の引き分けに終わった。東京VがJ1昇格を決め、清水は1年でのJ1復帰を逃す結果に。清水があと1歩のところで昇格を逃すこの試合展開は、シーズン中に何度も繰り返した失敗だった。(取材・文:元川悦子)
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<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/12/03/post522736/5/" target="_blank" rel="noopener">【動画】悲劇の昇格失敗… 東京ヴェルディ対清水エスパルス</a>

 FC町田ゼルビア、ジュビロ磐田がJ1自動昇格を決め、残された切符はあと1枚。その座を巡って東京ヴェルディ、清水エスパルス、モンテディオ山形、ジェフユナイテッド千葉の4チームがプレーオフに挑んでいた。

 12月2日のファイナルに進出したのは、東京Vと清水。オリジナル10対決、しかも舞台が国立競技場とあって、5万3264人という大観衆が集結。スタジアムはJ2同士の対戦とは思えない熱気に包まれた。

 準決勝で千葉を2-1で下している3位・東京Vに対し、4位・清水は点を取って勝たなければならない。準決勝・山形戦はスコアレスドローだっただけに、今回こそ攻撃陣の爆発が求められた。キーマンの1人はもちろん35歳の乾貴士だ。今年4月にゼ・リカルド監督が解任され、秋葉忠宏コーチが監督に昇格した後、トップ下で異彩を放ち、32試合出場10ゴールとセレッソ大阪時代の2009年以来の2ケタ得点を達成したベテランはここ一番での決定力を持っている。それを大舞台で遺憾なく発揮したかった。

 引き分けOKの東京Vが引き気味に来たこともあり、前半の清水は主導権を握り、敵陣で攻め込む時間帯が長かった。清水は序盤から中山克広やカルリーニョス・ジュニオが積極的にシュートを放ち、乾自身も29分にペナルティエリア内でこぼれ球に反応して左足を振り抜いたが、ボールは枠の外に飛んでしまった。清水の前半最大のビッグチャンスだった30分のチアゴ・サンタナのヘッドも決まらず、試合は0-0で折り返すことになった。

 それでも、乾は無得点だった前半を前向きにとらえていた。

●清水エスパルスの変化と悔やまれる決断

「前半を見てもらえれば分かる通り、問題なくいい入りができていたし、相手にびびってるとか、そういうところは全くなかった。『勝ちにいかないといけない』と吹っ切れてる感はもちろんありました」

 秋葉監督も「点を取って来い」と選手たちを鼓舞。よりギアを上げさせた。後半開始後、すぐに点が取れないと見るや、15分にはカルリーニョス・ジュニオと北爪健吾をスイッチ。布陣を4-3-2-1から3-4-3へ移行し、乾と中山を2シャドーにして攻め込もうとした。

 試合の最初の節目が訪れたのはこの直後。北爪の浮き球のパスに中山が反応。エリア内でマークに行った東京Vのキャプテン・森田晃樹がハンドを犯し、清水にPKが与えられた。これは東京Vにとってはやや厳しい判定ではあったが、ジャッジは覆らない。清水としては願ってもない好機。これをチアゴ・サンタナが決め、待望の1点を手に入れた。

 そうなると東京Vの城福浩監督は当然のごとく巻き返しに打って出る。清水の方は受けに回り、2点目を取りに行く気迫が薄れたように見受けられた。秋葉監督の交代も消極的で、前半から数々のチャンスを作っていた山原怜音と中山、さらには乾も10分以上残った時点で下げた。これは通常通りの采配だったのかもしれないが、終盤に何度もドラマが起きているプレーオフでは攻撃のキーマンを最後まで残しておくべきだったのではないか。そのあたりは悔やまれるところだ。

 そして案の定、後半ロスタイムに悲劇が起きる。

●「シーズン通して何回もあったのに…」繰り返された失敗

 東京Vは最前線の染野唯月を目がけて次々とロングボールを蹴り出すようになり、清水守備陣は懸命に跳ね返していたが、93分に途中出場の神谷優太が相手3人に囲まれてボールを奪われた。次の瞬間、東京Vは中原輝へとつなぎ、鈴木義宜の背後を抜け出した染野に絶妙のスルーパスを供給。ここで清水の高橋祐治がスライディングタックルに行き、エリア内で染野を倒してしまったのだ。

「中に人もいなかったし、打たせても大丈夫な角度だった。もっといい対応ができたと思う」と高橋本人は悔やんだが、池内明彦主審はPKを選択。染野が同点弾を決めることに成功した。

 そのままタイムアップの笛。同点に追いついた東京Vが16年ぶりのJ1復帰を決め、歓喜を爆発させる傍らで、清水は手にしかけていたJ1切符を最後の最後で逃した。ベンチにいた乾は悔しさをにじませ、「とにかくヴェルディさんの方がJ1に上がるにふさわしかった」と憮然とした表情で言うしかなかった。

「これだけ勝負弱いとね…。ここで勝てばっていう試合はシーズン通して何回もあったのに勝ち切れなかった。今回も1-0で終われれば上がれましたけど、ああいうミスをしてしまう。自分たちがJ2のチームということだと思います。

 キツイことを言いますけど、祐治もまず滑る必要はなかった。前ももっと点を取るチャンスがあったんで、自分たちも悪いですけど、無駄なファウルをしてしまうところは反省しないといけない。個々がもうちょっと賢くならないと、レベルアップしないと本当にJ1に上がれるチームにはなれない」

 世界基準を知る35歳のベテランは、決定的なミスを犯す形になった高橋含め、1人1人の勝負弱さや力不足が招いた結果だという見解を示していた。

●「冷静になって考えたい」甘えと勝負弱さ

 とはいえ、今季の清水はJ2屈指の戦力を誇るチーム。チーム人件費も22億円だった2022年と同規模を維持しているという。一方の東京Vは近年5億円程度で推移しており、今季もそこまで金額を引き上げられなかったはず。つまり、強化費では4倍以上も優位に立っていた清水はそのアドバンテージを生かせなかったということになる。

「グラフに戦力を表せば、確かにウチは今、J2で抜きんでているかもしれないけど、サッカーはチームスポーツ。チームとして同じ方向を向いて迷いなくやるというところがすごく大事になる。みんなの力がかみ合った時に持っている力以上のものが出る。自分たちが本気でお互い要求し合えてやれていたのかというところはもう一度、冷静になって考えたい」と白崎凌兵は苦渋の表情を浮かべていた。

 資金面や選手層、環境、熱狂的サポーターの存在などで清水が東京Vより恵まれていたのは確か。その分、どこかに甘えがあったという見方も否定できないだろう。5年連続のシーズン途中の監督交代という厳然たる事実もある。やはり乾や白崎があえて苦言を呈したように、清水は抜本的なところから見直さないといけないのかもしれない。東京V戦の1-1のドローを単なる1試合と捉えていたら、最高峰リーグ復帰への道は遠のくばかりだ。

 J1優勝争いをしていた時代を知る人間から見ると、この現状を何とか打開してほしいところ。日本屈指のサッカーどころの名門クラブはいかにして這い上がるのか。勝負弱さを払拭し、勝てるチームに変貌していくのか。彼らの行く末が本当に気になる。

(取材・文:元川悦子

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