菅原由勢が引き出す久保建英の怖さ。旧知の2人がサッカー日本代表にもたらす相乗効果【コラム】

【写真:Getty Images】

●シリア代表との一戦

 日本代表は21日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選兼AFCアジアカップサウジアラビア2027予選でシリア代表と対戦し、5-0で勝利した。1歳違いの菅原由勢と久保建英は、伊東純也とともに多くの決定機を生み出していた。両者の関係性は8連勝と好調を維持する日本代表を活性化している。(取材・文:元川悦子)
------------------------------------------------------------
 2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選初戦となった16日のミャンマー代表戦を5-0で勝利し、21日のシリア代表戦に臨んだ日本代表。だが、この一戦が行われるサウジアラビアというのはまさに鬼門だ。最近でも2017年9月、2021年10月に敵地でサウジアラビア代表に敗れていて、いいイメージがない。シリア代表という相手にしても、2017年6月に中立地・テヘランで行われた一戦は1-1の引き分けに終わっている。

 今回は三笘薫や鎌田大地など離脱者が相次いでいるだけに、森保一監督も警戒心を募らせていたはず。ミャンマー戦で温存した遠藤航伊東純也浅野拓磨、久保建英らを揃って起用。「格下相手には当たり前に勝つ」と改めて意気込みを全員で共有し、試合に挑んだ。

 名将エクトル・クーペル監督率いるシリア代表もミャンマー代表と同様に、自陣に引いて守りを固めてくると見られていた。序盤は守備意識が相当に高く、日本代表はDFラインの谷口彰悟や冨安健洋らがハーフウェーラインのかなり手前まで上がって攻め込んだが、ブロックを攻略しきれず苦しい時間を強いられた。

 そこで選手たちは自身の判断でポジションを流動的に変え、ギャップを突いていこうとした。その筆頭がトップ下の久保。4-1-4-1システムのシリアに対し、アンカー脇のスペースを巧みに使いながら攻めに変化をつけようと試みる。それに周囲も呼応。特に伊東・菅原由勢の右サイドとの距離感とコンビネーションは目を引くものがあった。

●相手の戦意を喪失させたゴール

 32分の先制点も右の連係から生まれる。左の浅野から伊藤洋輝へのパスを経て、ボランチの位置まで絞っていた菅原へ。そこから右の伊東に展開し、リターンを受けた久保がペナルティエリア外側の位置で左足を一閃。見事に代表3ゴール目となる先制点を決めたのだ。2019年6月のエルサルバドル代表戦での初キャップから29試合目でようやく公式戦初得点を奪うことができ、本人も安堵したに違いない。

 この一撃から日本代表は一気に畳みかける。37分には日頃の練習で積み重ねているクロス&シュートをそのまま実践。左を上がった伊藤洋輝のクロスを伊東が頭で折り返し、上田綺世が右足でゴール。相手の戦意を喪失させた。

 さらに圧巻だったのが、40分の3点目だ。右タッチライン深い位置からのスローイン。久保が投げ、菅原が受けると、彼は久保に預けて一気に縦へ抜け出した。次の瞬間、久保は中寄りの位置にいた伊東に当て、菅原にボールが渡ったと見るや、ペナルティエリア角ギリギリのところに侵入。リターンをもらって、縦に流れた伊東へスルーパス。最後は伊東から中央の上田へクロスが入り、ゴールが決まるという見事な形だった。

 このシーンを見ても分かる通り、久保と菅原の息の合った連動は大いに光っていた。2人は中学生の頃から年代別代表でともにプレー。2017年のU-17W杯、2018年のAFC・U-19選手権などで共闘してきた間柄だ。

 そんな2人はお互いとの関係性について、以前こう言っていた。

●菅原由勢と久保建英の関係性

「菅原選手とはずっと一緒にやってきて、もうお互いやり慣れてるというか、勝手知ったる仲なので、連係面の問題はないですね」と久保が言えば、菅原の方も「タケは今、特にノッてる選手。中でボールを持っても外でボールを持っても怖さがある。彼にどれだけペナルティボックス付近でボールを持たせるかがカギになると思う」と強調する。

 長年構築してきた強固な信頼関係が右サイドを活性化させ、伊東というスペシャルなプレーヤーと重なり合って、チームに大きな相乗効果をもたらしているのは間違いないだろう。

 8分間で3点を固め取りし、前半でほぼ試合を決めた状態で後半を迎えた。さらに相手を失意に追い込んだのが、後半開始2分の4点目だ。左寄りの好位置で得たFKのチャンス。久保が直接狙うかと思われたが、彼がヒールで流したところに菅原が走り込んでそのまま右足を振り抜くというトリックプレーを披露し、豪快にゴール。菅原は待望の代表初ゴールを決めたのである。

 名古屋グランパス時代は3バックの一角に入ったかと思えば、AZに赴いてからは右MFで起用されるなど、攻守両面でマルチな能力を示していた菅原。そこにリスタートのキックという武器も持ち合わせているのだから、本当に頼もしい。それを久保は分かっていたから、あえて彼にボールを出したのだろう。2人の良好な関係性がチームにさらなる力を与えたと言っていい。

●サッカー日本代表に勢いを与える若い力

 これで勝利を確信した森保監督は66分に上田や浅野を下げ、細谷真大と南野拓実を投入。久保を右、伊東を左に動かし、南野をトップ下に配置するという2列目の構成をテストした。菅原にとっては久保と縦関係になる好機。ここ最近は伊東との組み合わせが多かったが、今後を考えれば久保ともしっかり合わせておく必要がある。そんな意識も持ってプレーしたのではないか。

 結局、そのコンビはわずか10分で終了。75分には堂安律が右に入る形になった。菅原にしてみれば、1試合の中で3人の右サイドアタッカーと縦関係を形成することになったが、誰と組んでも特徴を生かしながら自らも生きるという意識が顕著に出ていた。ポジショニングも的確で、代表に定着したのが今年とは思えないほどの存在感を示していた。

 結局、日本代表は5-0でシリアを一蹴。日本代表は8勝1分1敗という好成績で2023年を終えることになったが、久保や菅原ら20代前半の面々の目覚ましい成長がなければ、ここまで快進撃を見せることもなかっただろう。この日ゴールマウスを守った鈴木彩艶と細谷のパリ五輪世代コンビもそうだが、若い力がチームを活性化しつつあるのは非常に前向きなポイントと言っていい。

 久保と菅原にはここから所属先に戻ってコンスタントな活躍を続ける必要がある。2人とも超過密日程だが、今がキャリアの中で一番伸びる時期。そう考えて自己研鑽を図り、2024年以降の日本代表に多くのものを還元してほしいものである。

(取材・文:元川悦子

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/11/22/post521371/" target="_blank" rel="noopener">英国人が見たサッカー日本代表対シリア戦「久保建英のパスは…」「細谷真大は少し違う武器…」</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/11/22/post521398/" target="_blank" rel="noopener">サッカー日本代表、圧巻ゴールの久保建英を上回る点数は?【シリア戦どこよりも速い採点】</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/japan-schedule-samurai-blue/" target="_blank" rel="noopener">日本代表、次戦のTV放送・配信予定・キックオフ時間は?</a>

ジャンルで探す