「パス1つに意味を持たせる」サッカー日本代表が共有したコンセプト。スペイン人指導者が見た久保建英の魅力とは

【写真:Getty Images】

●「そのパス1つにどういう意味を持たせるのか」

サッカー日本代表は、ドイツ代表とトルコ代表からともに4得点を挙げて勝利を収めている。スペイン人指導者アレックス・ラレアは、日本代表の攻撃をどう分析するのか。また、来年に控えるAFCアジアカップのキープレーヤーを挙げつつ、注目すべきポイントにも言及している。(取材・文:川原宏樹)
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 ドイツ代表とトルコ代表に勝利した日本代表の成長は、チームとしての意図を共有して理解が深まっていることが契機になっている。『DV7サッカーアカデミー』で日本の子どもたちを指導するスペイン出身のアレックス・ラレアはそう指摘する。

 前回は守備面についての解説だったが、今回は攻撃について説いている。その攻撃面においても、共有と理解が進んでいるプレーが見られたと分析した。

 日本代表はどういったプレーで真価を発揮したのだろうか――。

 日本代表はドイツ代表戦においても、トルコ代表戦においても多くの決定機をつくり出し、両試合とも4得点を挙げて勝利した。その得点方法も、ワールドカップのときのようにスピードに頼ったカウンター攻撃だけでなく、右から左からと厚みのある攻撃を見せていた。

 そのように攻撃を展開できていた要因にも、チームとしての意図を共有できていて、どうゲームを進めるべきかの理解が深まった結果だとアレックスは分析している。

「プレーする選手たちが、どのように相手ゴールにボールを前進させるかを理解して、それがしっかりと共有されているように感じました。ただパスをするのではなく、そのパス1つにどういう意味を持たせるのか、またどういう意味を持つのかを考えながらプレーできていました」

「たとえば、逆サイドから攻めたほうがいいのかとか、相手のマークが緩くなった内側への縦パスで前進させるのかとか、そういった瞬間、瞬間で状況をしっかりと理解してプレーの判断ができていて、それが的確かつ迅速なためクオリティが向上しています。ですから、見ていても日本の攻撃は滞りなく進んでいるように感じたことでしょう」

 そのうえで相手との優位性までをインプットして、攻撃を展開できていたと捉えている。

遠藤航守田英正などゲームを組み立てるボランチのポジショニングも、高いクオリティを見せていました。そこからどのようにボールを動かして、どのストロングポイントを使って攻めるのかという点で、選手たちは同じ絵を描けているのではないでしょうか。それが多様性をもってできているということが成長の証だと思います」

 この攻撃面における成長も、契機や根源は同じだと主張する。

●「良い攻撃」が生まれた理由

「守備面で自分たちの綻びや歪みをいち早く見つけられるようになったのと同じで、攻撃面でも相手のどこに綻びがあってどうやって歪みが生じるのかを理解できていて、そうやってできたスペースを利用してどこにボールを収めるべきかが瞬時に共有される感覚なのでしょう。このような理解や共有が守備面と同様で、チームとしての自信につながっているのだと思います」

 加えて、積極性が攻撃における厚みを生み出していたと解説する。

「日本は前からの積極的なプレーが増えています。ボールを前進させたあとのリアクションがすごく良いように感じます。そのため、最終的にはゴール前の人数が多くなっています。さらに、その動き方に連動性があるので、良い攻撃を展開できるようになっています」

 また、前からの積極性は守備面でも表れていて、攻守両面における積極性によって得点が多く生まれたと分析。これは森保一監督が標榜する「良い守備からの良い攻撃」なのではないかだろうか。その点においてアレックスは、こういったチームの成長を見るかぎりは、「標榜どおりのことができている」と太鼓判を押す。

 日本代表の最大の目標は、ワールドカップでの8強入りであり、同大会での優勝だ。とはいえ、当面の目標となると来年1月から開催されるアジアカップでの優勝になる。また、今年11月からはアジア2次予選が始まり、しばらくはアジア勢に勝ち切る戦いが求められる。そのようなアジア勢との対戦をどのように戦い抜くべきか、今後の強化ポイントをアレックスは解説してくれた。

 まず、世界から見て、日本代表を含むアジアのチームの特徴についてアレックスは言及した。

●すでに繰り返しているアジア対策

「アジアのチームの戦い方は、前線に速い選手を配置してカウンターを狙ってきます。ワールドカップでの日本代表もそうでしたよね。すなわち、ボールロストが危険につながるほどカウンター攻撃に破壊力があるというのがアジア勢のキャラクターといえるでしょう。今後の日本はそういった相手と対戦することになるのですが、すでに準備をしているように感じます」

 これまでの日本代表の戦い方から、すでにアジア勢との戦いに備えていると主張したアレックスは、具体的に行っていると思われるアジア対策について解説してくれた。

「サッカーではパスの回数が増えれば、必然的にボールを奪われる機会も増えます。アジアとの戦いにおいてはその可能性が高まることを認識しているようで、ボールを奪ってからはできるかぎり早くシュートで完結させるという選択をしています。トルコ戦でもそのようなシーンが多く、現段階ではその質を高めているということが顕著に表れています」

 ドイツ代表戦では高い位置でボールを奪うことを狙い、奪ったあとは縦に素早く展開することを優先的にプレーしていた日本代表は、後半に狙いどおりのプレーで得点を重ねた。ドイツ代表に比べるとチームの重心が低いトルコ代表を相手にしても同様のことを狙っており、それはどのチームを相手にしたとしても効果的な攻撃となる。

「ビルドアップ時に長くボールを保持しようとはせず、アタッキングサードへの進入、シュートで完結させるということのスピードと質を意識して、それを繰り返しトライしています。守備面では、ボールを奪われたあとのプレッシングやカバーリングといったネガティブトランジションで気を利かせていました。それはチームのコンセプトであって、来月以降も継続して行っていくのではないでしょうか」

 アジア対策をそう解説したアレックスは、最後に今後のアジアとの戦いでキープレーヤーとなる選手を挙げた。

●「優位性を有益に使えるかどうか」を左右するキープレーヤー

「久保建英は、右でも左でも真ん中でも違いを見せられる選手です。アタッキングサードに入れば、コンビネーションを使って相手を崩すこともできれば、自らの力で崩すこともできます。他にも、ライン間でもボールを受けられるし、スルーパスで相手にとって危険なスペースにボールを出せるし、正確なクロスも入れられます。そうやって決定機をつくるだけでなく、もちろん自身でシュートも狙います」

「ありとあらゆる攻撃の役割を担えるのがタケです。彼にどのタイミングでボールが入るのかを興味深く見ていますし、そのあとに彼が見せるアクションは観客を楽しませてくれる魅力的な選手です」

 久保建英を今後のキープレーヤーに挙げた理由を、さらに付け加えた。

「日本には伊東純也三笘薫といった縦に速い選手がいます。そして、それを追い越して攻撃参加できるサイドバックもいます。そういった優位性を有益に使えるかどうかは、タケがどこにボールを動かすかで決まってくるのではないでしょうか。ですので、ボールを前進させるときに、アタッキングサードに進入するときに、彼がどのような状況でボールを受けるのかが注目ポイントになると思います」

 攻守両面でグループとしての成長を見せた日本代表の面々は、個での成長を目指して所属先での戦いへと向かった。あと数カ月間でどのような成長を見せてくれるのか、彼ら一人ひとりの成長が楽しみである。

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