「研ぎ澄まされていた」スペイン人指導者が高く評価したサッカー日本代表。その一方で「習得すべき大事なことが残されている」

【写真:Getty Images】

 サッカー日本代表は現地時間9日の国際親善試合でドイツ代表に4-1で勝利し、12日のキリンチャレンジカップでトルコ代表に4-2で勝利した。欧州最高位の指導者ライセンス「UEFA PRO」を持つアレックス・アレラ氏は日本代表を詳細に分析しつつ、「習得すべき大事なことが残されている」と警鐘を鳴らす。(取材・文:川原宏樹/企画:フットボール批評オンライン編集部)※全3回の短期連載の第1回

【プロフィール】アレックス・ラレア

プロ選手としてカナダでプレーした後、指導者の道に進み、欧州最高位の指導者ライセンスUEFA PROを取得する。2020年からは元スペイン代表、元ヴィッセル神戸のダビド・ビジャが主宰するサッカーするクール『DV7サッカーアカデミー』日本支部のディレクター・コーチを務める。

●サッカー日本代表が見せた「大いなる進化」

「親善試合の取り組みとしては完璧に近い状態だった」

 9日のドイツ代表と、12日のトルコ代表と対戦した日本代表の9月における活動をそう振り返ったのは、UEFA PROライセンスを持ち『DV7サッカーアカデミー』で日本の子どもたちを指導するスペイン人コーチのアレックス・ラレアだ。海外の代表チームから日本代表の分析を依頼された経歴のある彼は、ヨーロッパの強豪国を相手に4得点を挙げて快勝したこの2戦をどのように見ているのだろうか。

 昨年のワールドカップ以来の対戦となったドイツ戦だが、「結果よりも内容に注目すべき」と説くアレックスが4-1で勝利した試合の内容について分析した。

「ワールドカップでのドイツ戦は、おそらく100試合を戦って3回ほどしか勝てないくらい相手は強いチームでしたが、そのなかで結果として日本が勝利を得た形でした。今回は親善試合でワールドカップではありませんが、ゲームの内容は明らかに日本のほうが勝っていました。結果的に4得点を挙げましたが、その点差よりも内容の大いなる進化を評価しなければなりません」

 そう総括して、具体的に優れていた点について解説。まずは、菅原由勢と伊藤洋輝が務めたサイドバックの働きによって、攻撃が活性化されていたことを挙げた。

「サイドバックは有能でした。ビルドアップの出口となってボールを受けた後にドリブルを仕掛けたり、空いている味方に渡したりと的確な判断のもとで効果的にプレーしていました。ウイングに渡してからオーバーラップするシーンが見られましたが、相手のプレスがかかりやすい場所にもかかわらず高いクオリティを発揮してボールを前進させていました」

 加えて、ビルドアップから得点機会をつくる上で、サイドバックの担う役割が重要であることを改めて感じ取れた試合だったと振り返る。

●ドイツ代表を苦しめた2つの理由

「数ある選択肢のなかから的確なプレーを選んで前進させられる選手がサイドにいると、ボールはよく動くようになります。日本はそうやってボールを動かすことで、スムーズに攻撃へ移行できていました。それができていたということは、そういったサイドの選手らが選択したプレーの質が高く、的確な判断だったと言えるでしょう」

 続いて、ドイツが思うようにプレーできなかった理由を2つピックアップしている。

 その1つは日本代表の「センターバックの質が高かった」ことで、冨安健洋板倉滉のプレーを称賛した。

「冨安と板倉のディフェンスは相手へのプレッシングも早いし、カバーもスライドも早い。また、危険なエリアを察知する能力も高いので、相手はとても難しいプレーが強いられていました。最後尾中央を堅く閉じた守備でした」

 もう1つの理由に、日本代表の前線に速い選手がそろっていたことを挙げている。

「日本の前線には三笘薫、伊東純也、鎌田大地といった選手がいて、ボール奪取後に素早く渡して早い攻撃を仕掛けようとしていた。その日本の攻撃にリスクを感じたドイツは、思うようにデフェンスラインをコントロールできていませんでした。結果として、ラインを高く保てなかったドイツの攻撃はアグレッシブさを失うことになりました」

 日本の攻撃力は守備面にも影響を与え、チーム全体で良い循環をつくり上げていたと分析している。

 1年も経たないうちに2度も同じ相手と戦った日本代表だが、短い期間にもかかわらず1度目の対戦からは見違えるほど試合内容を向上させて勝利した。アレックスはこの進化に驚きを覚え、素直に褒め称えていた。

●スペイン人指導者が解説する「研ぎ澄まされていた」シーン

 ドイツ戦から中2日でトルコ戦に臨んだ日本代表は、10人ものスターティングメンバーを入れ替えた。大幅にメンバーを変更したにもかかわらず、大きく質を落とすことなく戦って勝利した日本代表をアレックスはポジティブに捉えている。

「ドイツ戦から続いてプレーしたのは伊藤洋輝だけで、残りの10人は異なっていました。そのなかで日本は同じシステムを採用していました。トルコは後方に引き気味でしっかりとブロックをつくる守備を得意としていて、日本が苦手とする相手です。ワールドカップで戦ったコスタリカのようなチームで、守備に重きを置いてカウンターを狙っていました。そういった相手であっても日本は自信を持ってプレーできているように見えました」

 続けて、苦手意識を感じさせずに自信を持ったプレーとは、どういったものだったのかを解説してくれた。

「日本はゴール前にボールが入ったときの感覚が、研ぎ澄まされていたように感じました。伊藤敦樹の先制点が示すように、日本はわずかでもスペースが生まれればシュートを狙っていきました。そういった積極的なプレーは自信の証なのではないでしょうか」

 トルコ戦でもドイツ戦に続いて4得点を挙げて快勝した。大量得点による勝利は前述の積極性以外の要因もあるという。

「選手間の入れ替わりによるポジションチェンジを継続的に行っていました。そういったアイデアはゴール前でも見られ、滞りを感じさせない的確なものでした。それが大量得点となった1つの要因といえるでしょう」

 そういった攻撃を生み出す基礎となるビルドアップにおいては、ボランチのプレーが効果的だったと指摘する。

遠藤航守田英正に代わって、トルコ戦では田中碧と伊藤敦樹が出場しましたが、2人のプレーはチームに安定をもたらしました。ボールをよく動かして、チームをうまく循環させていました。さらに、得点機会になると積極的に攻撃参加をして、ゴールを目指していました。それより攻撃に厚みをつくりあげていました。特に前半は、そういった良いプレーを継続的に行えていたように思えます」

●アジアカップで活きる「大きな強み」

 ドイツ戦とトルコ戦を合わせて、森下龍矢以外の25名が起用された。それでもチームとしてのクオリティを落とさずに勝利したという事実をもって、アレックスはチームの競争力について言及した。

「今回の2試合を総括すると、主力といわれる選手と控えになっていた選手で大きな差はないということがわかりました。たとえば、右サイドバックでは菅原由勢と毎熊晟矢が先発起用されていましたが、互いに違うキャラクターを持ちつつも、ともに質の高いプレーを見せてくれました」

「個人的に久保建英は絶対的なスタメンとして起用すべき選手だと思っていますが、そんな彼が出場しなかったとしても、今の日本は同じようなクオリティを出せる選手がいます。それはボランチでもそうですし、どこのポジションでも同じことが言えます

「いずれのポジションにも複数の選手でちゃんと競争があります。しかも、それぞれに大きな差はなく、その競争力が高いレベルで繰り広げられています」

 この高品質なチームの競争力が強みとなり、今後の日本にとって重要になるときが来ると主張する。

「そういった競争力は、チームにとって重要になってきます。なぜなら、大会になれば異なる特徴を持ったチームと限られたメンバーで戦わなければなりません。そういった異なる状況のなかで、監督が切れるカードが豊富なのは、チームとって大きな強みになるからです」

「今回の2試合で、日本は違うキャラクターを持つクオリティの高い選手が集まっているということを改めて認識させました。この選手層の厚さは多種多様な状況においても、強みを引き出しやすくなることでしょう。次の大きな大会はアジアカップになりますが、そこでの戦いにおいてポジティブに働くことは間違いなく、きっとチームが前向きに戦える要素の1つになることでしょう」

●「冷静になるべき」サッカー日本代表への警告

 今回の日本が展開したサッカーは「素晴らしい」と、アレックスは改めて評価する。

「ワールドカップでは強豪のドイツやスペインに勝利して決勝トーナメントに進出した日本は、クロアチアを相手にPK戦までもつれこみ敗退しました。その戦いは我々を熱狂させてくれるものでした」

「そのときの内容と比較すると、今回の内容は7倍から10倍ほど良かった。今回日本が展開したサッカーは美しいプレー、美しい試合で見ている我々にとってとても魅力的でした。それは素晴らしいことだと思います」

 内容の伴った結果を残した日本を称賛していたが、手放しで歓喜するのではなく「冷静になるべき」と我々に警告する。

「今回の2試合はクオリティも高い試合ができており、それは評価に値します。ただし、1つの大事な要素があります。それは、あくまでも親善試合であるということです。親善試合であることを前提にして評価や分析をしなければならず、我々は冷静になるべきです」

 アレックスは強豪国スペインの出身で、常に勝利を求め、求められる環境に身を置いてきた。そういった勝者のメンタリティをもって育まれた指導者が「冷静になるべき」と警告した真意を説明してくれた。

「私は来日して3年が経ちましたが、これまでに見た日本代表のゲームで最も印象的で素晴らしいと感じたのは2022年3月に行われたアジア最終予選のオーストラリア戦で、後半に入った三笘が2得点を挙げて勝った試合です」

「今回の2試合はその試合に匹敵するほど質の高い内容で勝つことができました。誰が見ても明らかに成長を感じ取れるゲームでした。ですが、あくまでも親善試合なのです。日本がFIFAランキングで首位になったわけではありません。心を落ち着かせて親善試合ということを前提にすれば、チームとしての積み重ねが重要ということが理解できるはずです」

「さしあたって日本代表として大事になってくるのはアジアカップでしょう。その大会に向けてどう戦うかを考慮して、ひとつひとつ整備している段階なのです」

 目標に向けてチームとして積み重ねていけているかを見なければならないと説いたスペイン人指導者は、最後に以下のようにまとめた。

「アジアカップに向けて日本は期待できるチームになっています。しかし、期待しすぎてはいけません。なぜなら、まだまだ習得すべき大事なことが残されているからです」

 その習得すべき大事なこととは一体何か――。

 アレックスは今回の2試合について、守備面と攻撃面に分けて詳しく分析してくれている。それを知ることで、日本がさらに積み重ねるべきポイントが見えてくる。

 その詳細は次回となる。

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