J1昇格最後の1枠をゲットするのは?超攻撃的サッカーと新スタジアムが武器の“本命”長崎に夏場補強に成功した山形が“対抗”…仙台と岡山は“下剋上昇格”に虎視眈々
J1昇格プレーオフ(PO)に臨むV・ファーレン長崎、モンテディオ山形、ファジアーノ岡山、ベガルタ仙台の監督、選手が28日にオンライン会見に臨み、最後の1枠をもぎ取る決意を語った。POは12月1日の長崎-仙台(ピーススタジアム)、山形-岡山(NDソフトスタジアム山形)の準決勝を勝ち上がったチームが、同7日の決勝(未定)に臨む。横浜FCと最終節まで自動昇格を争った長崎の下平隆宏監督(52)は、引き分け以上で決勝へ進める一戦へ「準備はできている」と自信をのぞかせた。
横浜FCと激しく2位を争った長崎は5連勝でフィニッシュ
優勝した清水エスパルスと、2位の横浜FCに続く昇格チームへ。J1昇格PO準決勝へ臨む4チームの監督と選手一人が、オンライン合同記者会見で決意を語った。
J2リーグは上位2チームがJ1へ自動昇格し、3位から6位までの4チームが昇格POで残り1枠を争う。10日の最終節まで横浜FCと激しく2位を争い、勝ち点1ポイント差の3位でPOに回った長崎は、リーグ戦を5連勝でフィニッシュした勢いを自信に変えて7シーズンぶりのJ1昇格を狙う態勢を整えている。
準決勝の相手は最終節での勝利でジェフ千葉を追い抜き、6位に滑り込んだ仙台。もっとも、今シーズンのリーグ戦では3月にホームで敗れ、6月には敵地で引き分けるなどひとつも勝てていない。それでも今シーズンから指揮を執る下平監督は、同じく就任1年目の森山佳郎監督(57)が率いる仙台に苦手意識はないと明言した。
「リーグ戦の最終節からちょっと期間は空きましたけど、体のコンディションとメンタル面の両方で、いい状態でゲームに入れるように気をつけてきた。ゴリさん(森山監督の愛称)が率いる仙台を迎え入れる準備はできています」
柏レイソル、横浜FC、大分トリニータの監督を歴任した下平監督は、今シーズンから長崎のヘッドコーチに就任。ファビオ・カリーレ監督(51)が長崎との契約を残しながら、母国ブラジルの名門サントス監督に就任する異例のドタバタ劇のなかで、開幕直前の2月に正式に監督に就任して昨シーズン7位のチームを立て直してきた。
「大分の監督として長崎と対戦した際に、選手個々の能力が非常に高いと感じていた。実際にチームに入っても同じ思いでしたが、規律やプレーモデルがはっきりしていなかった。そこを整えてきたなかで、いまでは選手の反応がよく、団結力も高まった。自動昇格には届かなかったが、成長を感じられたシーズンでした」
下平監督が振り返った改革が、リーグ最多の74得点を叩き出す攻撃的なチームへの変貌を導いた。柏ユース時代から恩師と慕う下平氏のヘッドコーチの就任とともに、契約満了に伴う退団から異例の再契約を果たし、さらに同氏の監督就任後にはキャプテンに指名されたMF秋野央樹(30)も長崎の変化をこう語った。
「ピッチの内外で規律がしっかりしたなかで、やるべきプレーがはっきりした。パス練習ひとつをとっても、シーズン前といまとでは別チームに思えるくらいに質が上がった。引き分けでも決勝に進めるが、決して受け身にならない戦いをしたい」
追い風もある。ピースタの愛称で呼ばれる待望の新本拠地、ピーススタジアムでは10月の開場から3戦全勝で、準決勝のチケットも前売り段階で完売した。満員の約2万人で埋まる光景を思い浮かべながら、指揮官は決意を新たにしている。
「ピースタで試合ができる幸せや喜びがあるし、長崎県民のみなさんも準決勝を楽しみにしている。最高の舞台で思う存分戦って、仙台さんに勝てていない借りを返したい」
シーズン終盤でチームの完成度がさらに増した長崎が本命ならば、対抗馬はクラブ新記録となる9連勝でシーズンを締めくくった山形となるだろう。
折り返し時点の14位から最終的には4位に急浮上。ホームのNDソフトスタジアムでの準決勝開催を勝ち取り、長崎とともに引き分けでも決勝に進める状況を手繰り寄せた渡邉晋監督(51)は、POでも一戦必勝の姿勢を貫くと誓った。
「引き分けでも決勝にいけますが、そこはまったく意識していない。ここまで来られたのは、目の前の試合での勝利だけを考えた結果として9連勝をマークしたからであり、昇格プレーオフもその延長線上にある。その意味でも勝利しか考えていない」
夏場の補強が、苦戦続きだった前半戦からのターニングポイントになった。湘南ベルマーレから加入したFWディサロ燦シルヴァーノが後半戦で8ゴールをあげれば、鹿島アントラーズから加入した、山形県出身のMF土居聖真(32)も5ゴールをマーク。最後の14試合で12勝1分け1敗と、驚異的な巻き返しに成功した。
それでも、序盤に途中就任した昨シーズンも山形を昇格POに導いている渡邉監督は、J1昇格が目前に迫っていた清水に敵地で逆転勝ちした10月20日の第35節後に、昨シーズンからの取り組みが花開いていると強調している。
「もちろん夏場に加入した選手たちの働きは、みなさんが思っているように素晴らしいものがある。ただ、チームの全体の構図としては何も変えていないし、そこに対して選手たちがより早い判断のもとで、ポジショニングの部分で相手よりも速く先手を取れているところが、いまの結果に結びついている最大の要因だと思っている」
岡山とはリーグ戦でホーム、アウェイともに引き分けた。5月の前者では後半アディショナルタイムに、8月の後者ではトップ下で先発デビューした土居の移籍後初ゴールでともに追いついている。リーグ2位の29失点と堅守を誇る岡山への対策を講じていると明かした指揮官は、10シーズンぶりとなるJ1昇格への決意も新たにしている。
「岡山さんの特徴を把握したうえで、それらをトレーニングに落とし込んでいる。われわれがどのように戦うかは、当日の試合を観ていただけたらと思う。いまはスタッフ、サポーターを含めて山形がひとつになっている空気感がある。過去と比較するのは難しいが、われわれの歴史上でもいい状態にあるのは間違いない」
2012シーズンから導入されたJ1昇格POでは、これまでに数多くの波乱が起こってきた。勝者がJ1の16位と対戦した参入PO時代を含めて、J2リーグ戦で3位だったチームが昇格したのは2015シーズンのアビスパ福岡、2017シーズンの名古屋グランパス、そして昨シーズンの東京ヴェルディの3例しかない。
逆に2012シーズンの大分、2014シーズンの山形が6位からの下剋上を果たしている。特に後者はジュビロ磐田との準決勝の後半アディショナルタイムに、攻撃参加したキーパーの山岸範宏が逆転ゴールを決める奇跡を起こして大きな注目を集めた。
昇格POのレギュレーションで、シーズンの順位が下位だった仙台と岡山は、ともに勝たなければ決勝には進めない。それでも、年代別の日本代表を長く率いてきた仙台の森山監督は、一発勝負へ向けて勝機はあると力を込めた。
「警戒しなければいけない選手やチームの特徴が本当に多すぎて……だからこそ、あまり考え過ぎずにハードワークを貫いて、我慢するところは我慢して戦いたい」
準決勝に臨むチームで唯一、J1の経験がない岡山を率いて3シーズン目となる木山隆之監督(52)も、かつて指揮を執った古巣・山形戦へ闘志を高めた。
「勝利をもぎ取るためには、自分たちの得意なプレーを長い時間出せるかどうか。いいプレーをした方が勝つ、という試合になると思っている」
リーグ戦の最終盤で圧倒的な強さを見せた長崎と山形も、約3週間におよぶ最終節以降の試合間隔で、勢いに微妙な変化が生じる可能性もある。12月1日の準決勝から、リーグ戦で上位チームのホームで行われるために、現時点では「未定」となっている同7日の決勝へ。J2が最も熱くなる最後の3試合がいよいよ幕を開ける。
(文責・藤江直人/スポーツライター)
11/29 07:00
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