なぜ森保ジャパンは“鬼門の敵地”でのサウジアラビア戦に2-0勝利できたのか…W杯アジア最終予選で史上初の開幕3連勝

 2026年の北中米W杯出場をかけたアジア最終予選の第3節が10日(日本時間11日)に行われ、グループCの日本代表は2-0でサウジアラビア代表に快勝し、史上初の開幕3連勝をマークした。過去3戦全敗、無得点だった敵地に乗り込んだ日本は前半14分にMF鎌田大地(28、クリスタル・パレス)が、後半36分にはFW小川航基(27、NECナイメヘン)がゴール。守っては難敵を零封して独走状態に入った。鬼門の地だったアウェイ戦で、なぜ森保ジャパンは快勝できたのか。

 元イタリア代表監督のマンチーニも呆然

 約6万2000人で埋まり、文字通りの完全アウェイと化していた敵地ジッダのキング・アブドゥラー・スポーツシティ・スタジアムに空席が目立ちはじめた。
 森保ジャパンが2点をリードして迎えた後半のアディショナルタイム。勝利をあきらめたのは、サウジアラビアのサポーターだけではなかった。
 母国イタリア代表をユーロ2021優勝に導いた名将で、昨夏からサウジアラビア代表の指揮を執るロベルト・マンチーニ監督(59)が、ベンチで足を組んだまま呆然としている。もはやなす術なし。日本の強さを象徴する光景だった。
 通算の対戦成績では日本が10勝1分け5敗とリードしている中東の難敵とは、アウェイ戦に限れば日本の3戦全敗。しかも無得点と鬼門の地と化していた。カタールW杯出場をかけた3年前のアジア最終予選でも、今回と同じく第3節で対戦して0-1と苦杯をなめ、森保ジャパンは予選敗退の危機に立たされている。
 一転して今回は開始早々の14分に、無得点の呪縛を振りほどいた。
 右ウイングバックの堂安律(26、フライブルク)がボールを持ち運び、逆サイドへパスを送る。左ウイングバックの三笘薫(27、ブライトン)がワンタッチで折り返し、さらにボランチ守田英正(29、スポルティング)が再び左へ頭でつなぐ。フリーで走り込み、左足でゴールネットを揺らした鎌田がフラッシュインタビューで振り返った。
「うまく押し込めました。その前の段階で相手を右に、左に揺さぶっていたし、やはり前の選手がゴール前へ入っていくのは常にチームで言われているので。ああやっていい場所に入っていったのが本当によかったと思っています」
 6月シリーズから導入した「攻撃的な3バック」が奏功した得点だった。
 最終ラインに高さと強さを兼ね備えた3人のセンターバックを配置。そのうえで左右のウイングバックにはサイドバックタイプの選手ではなくあえてアタッカーを置き、2人のシャドーと1トップを加えた5人で相手を押し込んでいく。
 アジアの先、世界を見すえた「攻撃的な3バック」で、右の堂安から左の三笘へのパスがゴールへの呼び水になった。さらにアシストをマークしたのが、ボランチの守田だった点に森保ジャパンの進化の跡が凝縮されている。
 これまでは4バックでも3バックでも、守田がボランチの位置から最終ラインに下がり、ビルドアップに加わる形が多かった。しかし、この日はキャプテンの遠藤航(31、リバプール)が最終ラインに降りる形を多用した。
「明らかに相手は誰についていけばいいのか、どこを守ればいいのかで困っていた印象があった。本来は僕が降りて(遠藤)航くんが真ん中という形が多かったけど、今日は航くんが降りると話していて、それがうまくいきました」

 

 

 守田の言葉を聞けば、サウジアラビアの出方を見極めたうえで、相手を惑わすために最善の方策を、ピッチ上で弾き出していた跡が伝わってくる。守田が続ける。
「なので、隙あれば自分が前に行こうと狙っていたし、(鎌田)大地もいい感じに下りてきてくれたので流動性も生まれた。僕がアシストした場面のように、相手のボックス内へ入っていければより効果的だし、すごくバランスよく戦えたと思う」
 3年前に同じスタジアムで敗れた一戦と比べて、この日も先発したのは鎌田とMF南野拓実(29、モナコ)と遠藤だけ。メンバーが大幅に入れ替わっただけでなく、交代出場した選手を含めて、ピッチに立った16人全員がヨーロッパ組だった。
 カタール大会のラウンド16で、PK戦の末にクロアチア代表に敗れた直後。次回W杯へ向けて、鎌田は選手個々の戦術を高める作業からすべてがスタートすると前を見すえている。全員がヨーロッパ組となり、それぞれの国で強豪と呼ばれるクラブに所属する選手が多くなった積み重ねが、自然と代表チームのレベルもあげた。
 そのなかで、所属チームで好調をキープするMF久保建英(23、レアル・ソシエダ)やMF伊東純也(31、スタッド・ランス)、MF中村敬斗(24、同)がベンチスタートとなっている。必然的にチーム内の競争意識がさらに高まっている状況は、途中出場でダメ押しとなる追加点を決めた小川の言葉が物語っている。
「みんなが積み上げてきたものは計り知れないほど大きい。僕なんかはまだまだ何もできていないし、これからが本当の勝負だと思っている」
 小川も昨夏に横浜FCから移籍したオランダのNECで結果を残し、今年3月に代表復帰を果たした一人。カタール大会後も継続して指揮を執る森保一監督(56)のもとで積み上げられたものに、ヨーロッパ各国で選手が高めている個人的な経験、世界を見すえた3バック、そしてチーム内の競争が試合ごとにハイレベルで融合されている。
 進化している過程で、鬼門だったはずの敵地で難敵を撃破した。もっとも、選手たちの視線は埼玉スタジアムにオーストラリア代表を迎える15日の次節へ向けられている。チーム全員の思いを代弁するように、鎌田が気持ちを新たにした。
「次はホームでたくさんのファン・サポーターの前でプレーできる。絶対に勝たないといけない試合だし、次を勝てばワールドカップが自分たちにとってすごく近いものになる。またみんなで切磋琢磨し合いながら準備していきたい」
 3試合を終えたグループCで、日本は史上初の無傷の3連勝をマークするだけでなく14得点、無失点という圧倒的な数字を積み重ねている。サウジアラビア、オーストラリア、バーレーンが勝ち点5ポイント差で2位に続く状況で次節も勝利すれば、鎌田の言葉通りに、2年後の北中米大会へ向けた視界は一気に良好になる。

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