ゴール後“謝罪ポーズ”の伊東純也はやはり森保ジャパンで不可欠な存在なのか…W杯アジア最終予選開幕戦で中国に7-0圧勝

 2026年の北中米W杯出場をかけたアジア最終予選初戦が5日に行われ、グループCの日本代表は埼玉スタジアムで中国代表に7-0で圧勝して、8大会連続8度目の出場へ好発進した。4点差で迎えた後半32分には、性加害疑惑報道と刑事告訴をきっかけに離脱していた代表に約7カ月ぶりに復帰したMF伊東純也(31、スタッド・ランス)が途中出場からいきなりゴールをゲット。その後も2つのアシストを記録するなど、日本のアジア最終予選史上で最多得点記録更新に貢献し、森保ジャパンに必要不可欠な戦力だとあらためて証明した。

 「自然に出ました」

 気がついたときには、ゴール裏のスタンドへ向けて深々と頭を下げていた。
 ペナルティーエリア内の右側でMF久保建英(23、レアル・ソシエダ)から横パスを受けた直後だった。前を向いた伊東が迷わずに左足を一閃。中国DFの左足に当たったシュートはコースを変えて、ゴール左隅へ転がり込んでいった。
 昨年10月17日のチュニジア代表との国際親善試合以来、324日ぶりに決めた代表通算14ゴール目。仲間たちが作った歓喜の輪から解き放たれた伊東は、ファン・サポーターへ一礼した理由に照れくさそうに言及した。
「自然に出ました。声援に対して『本当にありがとうございます』という感じでした」
 ベンチスタートだった伊東に、出番が訪れたのは後半18分だった。最初の交代カードで、腰痛による戦線離脱をへて約7カ月ぶりに復帰し、1得点1アシストをマークしていたMF三笘薫(27、ブライトン)に代わってピッチに立った。
 伊東が交代出場への準備をはじめた段階から、埼玉スタジアムは大歓声に包まれた。性加害疑惑報道と刑事告訴をきっかけに、アジアカップを戦っていた森保ジャパンを離脱したのが2月2日。復帰を待ち焦がれてきたファン・サポーターの熱いエールが凝縮されていた光景に、伊東はあらためて感謝の思いを捧げた。
「やはりモチベーションが上がりましたし、本当に嬉しかったし、ゴールを決めてやろうという思いにもなりましたよね。ゴールそのものは相手に当たってちょっとラッキーだった部分もありますけど、それでもよかったと思っています」
 さらにピッチ上でともにプレーしていた仲間に次々と抱きしめられ、ベンチで戦況を見つめていた仲間も総立ちになって祝福した姿にも目を細めた。
「自分が喜ぼうと思ったときには、すでにみんなが周りにいました。映像も確認しましたけど、ベンチのメンバーもめちゃくちゃ喜んでくれていて本当によかった」
 不動の右ウイングだった伊東を欠いた日本は、アジアカップ準々決勝でイラン代表に屈し、本命視されていた優勝を逃した。北朝鮮代表との連戦となった3月シリーズは、ホームで1-0と辛勝。アウェイ戦は相手の一方的な都合で中止となり、最終的には没収試合となって初戦から無傷の4連勝でアジア2次予選突破を早々に決めた。
 ミャンマー、シリア両代表とのアジア2次予選の残り2試合に臨んだ6月シリーズは3バックをテスト。左右のウイングバックに、サイドバックタイプではなくアタッカーを配置する“攻撃的な3バック”を中国戦でも継続し、ウイングバックは左に三笘が、右には堂安律(26、フライブルク)がそれぞれ先発した。
 三笘に代わった伊東は右に入り、同時に投入された前田大然(26、セルティック)が左に入った。伊東は後半42分に右サイドからあげた絶妙のクロスでその前田のゴールを、さらに試合終了間際には左サイドから久保のゴールをアシスト。アジア最終予選史上における日本の最多得点記録更新にも大きく貢献した。
「スムーズに入れましたし、連携の部分もうまくできた。(前田)大然ならあそこに入ってくるだろう、と思っていたなかでアシストの場面も狙い通りでした。最後は自分でシュートを打とうと思ったけど、タケ(久保)が『純也くん!純也くん!純也くん!』とずっと叫んでいたので任せようと。アシストがついたのはラッキーでした」

 

 

 3バックにおける右ウイングバックは、ドイツ、スペイン両代表を撃破したカタールW杯でも経験している。それでもブランクをまったく感じさせなかった理由は、久保が伊東との関係に言及した言葉に反映されている。
「前半は際どいパスコースを探すあまりに、ちょっとボールをもち過ぎた場面があったかな、という感触がありました。なので、後半に伊東選手が入ってからは、シンプルにパスをはたこう、と。もちろん堂安選手とならば、コンビネーションで彼のよさを引き出せるし、逆に彼が僕に得点やアシストをもたらしてもくれますけど」
 伊東にパスを預ければ、森保ジャパンのなかでも三笘と双璧といっていい、突出した個の力をフル稼働させて局面を打開してくれる。離脱する前から寄せられていた絶対的な信頼感は、推定無罪の原則のもと、スタッド・ランスでピッチに立ち続けてきた伊東からは失われていない。森保一監督(56)も伊東のプレーにこう言及した。
「純也の特徴はサイドから攻撃的に崩していく部分であり、それがわれわれの大きな武器であると、プレーと存在感、そして結果のすべてで示してくれた」
 アジアカップから途中離脱するまでには、選手たちの反対もあって決定が二転三転している。スピードを駆使した攻撃面での突破力だけでなく、チームのために守備面でも献身的に動き、泥臭い仕事も厭わない伊東の復帰を誰もが待ちわびてきた。
 ベンチにいたメンバーを含めて、復活ゴールを全員で喜び合った光景は、伊東が必要とされる証といっていい。右ウイングでもプレーする久保は、伊東と再び共闘し、お互いを生かし、高め合う状況に抱く思いをこんな言葉で表している。
「みんながライバルだと思っていますけど、それでもみんなの活躍は素直にうれしいですよ。ライバルが活躍してくれないと、こちらも困ってしまうので」
 2人の女性に対する準強制性交致傷容疑で、大阪地検へ書類送検されていた伊東は8月9日に嫌疑不十分での不起訴処分が決まった。そのうえで7月下旬から実施された、スタッド・ランスの日本ツアーにおいて、伊東を取り巻いていた状況を踏まえた森保監督が、今回のアジア最終予選から復帰させると決めた。
 代表に招集されなかった間も森保監督とコンタクトを取り、不起訴処分を含めて、状況が変わるのを待ってきた伊東は、復帰までの7カ月をこう振り返った。
「本当に悔しい時間でもありましたけど、チーム(スタッド・ランス)でしっかりとプレーしていたし、代表チームともうまくコミュニケーション取ってきたなかで、いまはアジア最終予選でチームに貢献していくことしか考えていません」
 グループCの他の試合では、伏兵バーレーン代表が敵地でオーストラリア代表を撃破する波乱が起こった。日本は日付が6日に変わってすぐに日本を飛び立ち、10日(日本時間11日)に敵地リファーでそのバーレーンとの第2戦に臨む。
過去2大会連続でアジア最終予選の初戦で敗れたトラウマを、森保ジャパンは怒涛のゴールラッシュとともにあっさりと乗り越えた。勢いと自信を同居させながら、8大会連続8度目のW杯出場へ向けて、最高といっていいスタートダッシュを切ったチームのなかで、伊東が放つ存在感がますます大きくなっていく。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

ジャンルで探す