なぜ日本代表MF田中碧は約6億4600万円の移籍金で英2部古豪リーズとの契約を決断したのか?

 イングランド2部リーグにあたるEFLチャンピオンシップのリーズは30日、独ブンデスリーガ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフから、日本代表MF田中碧(25)を完全移籍で獲得したと発表した。2028年6月末までの4年契約で、英国などのメディアは移籍金が400万ユーロ(約6億4600万円)と報じた。背番号が「22」に決まった田中は、新天地を通じて「プレミアリーグに昇格したいし、そのために僕はここに来ました」とサポーターへ向けて第一声を届けた。

 「私は試合をコントロールできる」

 今夏の移籍市場が閉じる30日に、田中の移籍が決まった。
 川崎フロンターレから加入して4シーズン目を迎えていた、ブンデスリーガ2部のデュッセルドルフから、イングランドの2部にあたるチャンピオンシップのリーズへ。クラブ公式チャンネル『LUTV』で契約書にサインする姿や、背番号「22」のユニフォーム姿を披露した田中は、新天地のサポーターへ英語で第一声を届けている。
「とても興奮していますし、ここに来られてとても幸せです。自分は試合をコントロールできるし、アシストやゴールも決められる。プレミアリーグに昇格したいし、そのために僕はここに来ました。とにかくチームに貢献したい」
 田中はデュッセルドルフと来年6月末まで契約を結んでいて、すでに開幕しているブンデスリーガ2部でアンカーとして3試合に先発フル出場している。2028年6月末までの4年契約での完全移籍によって発生する移籍金について、英国やドイツのメディアは400万ユーロ(約6億4600万円)と報じている。
 地元紙の『YORKSHIRE EVENING POST』は、昨シーズンからリーズを率いるドイツ出身のダニエル・ファルケ監督(47)が、昨夏の段階から田中の獲得を望んでいたと伝えたうえで、田中の加入を次のように歓迎している。
「ダニエル・ファルケのお気に入りだったアオ・タナカは、セントラル・ミッドフィルダーとして敵陣でボールを巧みに操りながら相手ゴールを脅かす。ピッチの中央にさらなる攻撃的な要素を加えたいと考えていたファルケ監督は、前日木曜日の段階で『私たちが強化する必要のあるポジションは明確だ。中盤でさらに進化を遂げるために、クラブとはさまざまな話し合いの場をもってきた。何らかの契約があると願っている』と話していた。その対象こそがアオ・タナカだった」
 リーズに関するニュースを専門的に扱う『LEEDSUNITED NEWS』は、サポーターへ向けて、田中のキャリアを紹介する記事を掲載している。
「彼は日本のJリーグや、ブンデスリーガ2部よりも高いレベルのリーグでプレーした経験はない。しかし、日本代表として27試合に出場して8ゴールをマークするなど、国際舞台で活躍してきた。そのハイライトはカタールで開催されたワールドカップであり、日本がスペインを2-1で破って世界を驚かせたあの決勝ゴールだった。多才かつエネルギッシュで、中盤のあらゆるエリアで必要に応じて攻撃でも守備でも貢献できるタナカを、わずか400万ユーロというお買い得な値段で補強できた。タナカはリーズでのプレーを介して、さらなる価値があるとすぐに証明するだろう」

 

 記事には川崎時代のチームメイトで、幼なじみでもあるMF三笘薫(27、ブライトン)による“三笘の1ミリ”から田中が決めた、スペイン代表とのカタールW杯グループステージ最終戦で世界中から注目された決勝ゴールの映像も添付されている。
 小学生年代から川崎のアカデミーで育った田中は、2017年にトップチームへ昇格。東京五輪直前の2021年6月にデュッセルドルフへ期限付き移籍し、翌年4月には完全移籍へ移行した。しかし、1部への昇格はかなわなかった。
 特に昨シーズンは2部で3位に入り、1部16位のボーフムとの入れ替えプレーオフに進出。敵地での第1戦を3-0で制しながらホームでの第2戦を0-3で落とし、延長戦をへて突入したPK戦で敗れて5年ぶりの1部昇格を逃していた。
 新天地リーズもイングランド2部にあたるチャンピオンシップを戦っている。ただ、プレミアリーグからの降格クラブと、昇格を目指すクラブが混在するチャンピオンシップのレベルは非常に高く、ヨーロッパの5大リーグに続くセカンドグループに、ポルトガルやオランダとともに各国の2部リーグでは唯一、名を連ねている。
 テクニックやスピードだけでなく、デュエルの局面における激しい肉弾戦も求められるチャンピオンシップは24クラブで構成され、1チームあたり46試合を戦う長丁場のシーズンで上位2位までがプレミアリーグへ自動昇格。3位から6位までの4クラブが昇格プレーオフへ進出し、昇格へ向けた最後の1枠を争う。
 昨シーズンのリーズは、チャンピオンシップで一時は自動昇格圏内につけながら終盤戦で失速。3位で進出した昇格プレーオフで決勝進出を果たすも、サウサンプトンに0-1で敗れ、1年でのプレミアリーグ復帰を逃している。
 田中を含めて、今シーズンのチャンピオンシップには、8クラブに8人の日本人選手が所属。そのなかには今夏のパリ五輪に出場したMF斉藤光毅(23、クイーンズパーク・レンジャーズ)やMF平河悠(23、ブリストル・シティ)も含まれる。
 今夏の移籍市場が閉じた30日には田中に続いて、MF瀬古樹(26、前川崎)のストーク・シティ移籍が合意に達した。さらにチャンピオンシップから3部にあたるEFLリーグ1に降格したバーミンガム・シティで、今シーズンの開幕を迎えていたMF三好康児(27)も同日に、ブンデスリーガ1部のボーフムへ移籍している。
 3部から1部への移籍は、そのままイングランドの下部リーグのレベルの高さを物語っている。ヨーロッパへ新天地を求めて4シーズン目。待ち焦がれてきたステップアップを果たした田中は、先述の『LUTV』の最後をこんな言葉で締めている。
「リーズのサポーターとスタジアムの雰囲気が本当に素晴らしいと、誰もが言っている。そのみなさんの前でプレーできるのが、いまから待ちきれません。多くのサポーターと一緒に、スタジアムで勝利を味わっていきたい」
 プレミアリーグが創設されるまで、イングランドのトップカテゴリーにランクされていたフットボールリーグで、リーズは通算3度の優勝を誇る。1971-72シーズンには伝統のFAカップも制した古豪ではじまる新たなチャレンジを、田中は日本代表として招集されている9月上旬のアジア最終予選後に満を持して加速させていく。

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