「場当たり的な監督人事」浦和レッズの5シーズンで4度目の監督交代に批判殺到…なぜドタバタを繰り返すのか?

 浦和レッズは27日、ペア=マティアス・ヘグモ監督(64)を解任し、後任にマチェイ・スコルジャ前監督(52)が就任すると発表した。攻撃的なサッカーを掲げて今シーズンに就任したヘグモ監督は、7月以降で未勝利とJ1リーグで13位に低迷。続投を望む声がありながら、家庭の事情で昨シーズン後に退任したスコルジャ氏の再登板が電撃的に決まった。浦和の監督交代は直近の5シーズンで4度目。ドタバタ劇はなぜ繰り返されるのか。

 家庭の事情で退任したスコルジャ氏が再登板

 浦和が再び激震に見舞われた。
 今シーズンから指揮を執っていたノルウェー出身のヘグモ監督との契約を、J1リーグ戦が残り12試合となった段階で解除。後任としてポーランド出身のスコルジャ前監督の再登板が合意に達したと、27日に電撃的に発表した。
 男女のノルウェー代表を含めて、主に母国で指揮を執っていたヘグモ監督は攻撃的なサッカーを掲げ、26試合を終えたリーグ戦で40得点をマーク。昨シーズンの42得点に迫っているものの、対照的に昨シーズンは27とリーグ最少を誇った失点がすでに35を数えるなど、2月の開幕から不安定な戦いが続いていた。
 7月以降に限れば3分け2敗と未勝利が続き、他のクラブよりも消化試合が2つ少ない暫定ながら、最新の順位で13位に低迷している。この間は湘南ベルマーレと北海道コンサドーレ札幌に敗れ、京都サンガF.C.とサガン鳥栖には引き分けるなど、残留を争っている下位クラブにひとつも勝てなかった。
 浦和はさらに、フットボール本部の堀之内聖スポーツダイレクター(SD、44)による声明も発表。そのなかで「始動時に描いた成長曲線に対し、現時点でのチームの完成度は後れを取っていると言わざるを得ません」と、シーズンが終盤戦に入ったタイミングで指揮官交代に踏み切った理由を説明している。
「当然ながら、その原因が全て監督にある、という短絡的な他責思考で判断を行うのではなく、シーズン途中での移籍による選手の入退団や傷病による選手のコンディション不良が及ぼすスカッドの変化、その他の変動要素も考慮した上で、取るべき手段とそのタイミング、直接間接を問わない二次的影響も視野に入れた検討の結果、成長の方向性を継続することと、成長のスピードを上げることの重要性を再確認し、そのための手段としてこのタイミングでの監督交代という決断を下しました」
 7月以降の結果を振り返れば、ヘグモ監督の解任はやむをえない。むしろ札幌に敗れた同20日の直後、リーグ戦が約2週間の中断期間に入ったタイミングで解任した方が、8月以降の戦いへ向けてチームを立て直す時間があった。
 一方で前体制へのサポートが十分だったかといえば疑問が残る。
 ヘグモ監督は[4-3-3]システムのもと、中盤は底の部分にアンカーを、前方には2人のインサイドハーフを置く逆三角形型にスイッチ。さらに前線の左右にウイングタイプの選手を起用し、敵陣に人数を割いて試合を支配する戦いを標榜した。
 しかし、怪我やコンディション不良もあって、ウイングプレーヤーをなかなか固定できない。特にセリエAのローマから鳴り物入りで加入した、ノルウェー代表FWオラ・ソルバッケン(25、現エンポリ)のデビューは5月下旬にまでずれ込んだ末に、期限付き移籍契約が満了した6月末をもって退団している。

 

 ヘグモ監督はシーズン途中で、システムを昨シーズンまでの[4-2-3-1]に変更。ダブルボランチとサイドハーフの起用を介して、結果を残す戦い方を優先させた。しかし、夏の移籍期間に入って主力に退団者が相次ぐ激震に見舞われている。
 元キャプテンのDF酒井宏樹(34、現オークランド)をはじめ、副キャプテンで守備の要アレクサンダー・ショルツ(31、現アル・ワクラ)、MF岩尾憲(36、現・徳島ヴォルティス)、先述のソルバッケンに続いて、酒井の後にキャプテンに就任していたMF伊藤敦樹(26、現ヘント)も今月にチームを去った。
 対照的に今夏に新たに加入したFW二田理央(21、前ザンクト・ペルテン)、MF本間至恩(24、前クラブ・ブルージュ)、MF長沼洋一(27、前・鳥栖)らはまだフィットしていない。目指していたサッカーを実践できなかった末のヘグモ監督の解任に、SNS上では浦和のフロントを責める声も数多く飛び交っている。
「何?…浦和レッズは 結局フロントのおもちゃなの?」
「こんなクラブでごめんなさい。ヘグモさんありがとうございました」
「こういう場当たり的な監督選び繰り返してるから30年でリーグ優勝1回しか取れてないってフロントは理解してます?」
「選手に出ていかれまくって、 監督もやってられないよな、こんなチーム…」
「浦和フロントの迷走」
 浦和は2020年にフットボール本部を立ち上げ、3年計画のもと、最終年の2022シーズンのJ1リーグ優勝を掲げた。しかし、1年目の2020シーズンを終えた段階で大槻毅監督(51、前ザスパクサツ群馬監督)が契約満了に伴い退任する。
後任にはスペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督(50、現・武漢三鎮監督)が就任。2021シーズンに天皇杯優勝、2022シーズンにはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で決勝進出を果たしたものの、リーグ戦で最後まで優勝争いに絡めなかったという理由で退任し、結果として3年計画も達成できなかった。
 しかし、フットボール本部の土田尚史スポーツダイレクター(SD、57)と西野努テクニカルダイレクター(TD、53)は責任を取らずにその後も同職にとどまっている。2023シーズンはスコルジャ監督のもとでACLを制し、リーグ最少失点の堅守を武器にリーグ戦で4位に入り、YBCルヴァンカップでは準優勝した。

 

 もっとも、スコルジャ監督を招聘したのは、土田SDでも西野TDでもなかった。浦和の田口誠代表取締役社長(61)も「当初、監督候補者のリストに(スコルジャ監督の)名前はなかった」と2022シーズン後の監督人事を振り返り、フットボール本部のスタッフだった堀之内氏の現地調査が最終的な判断につながったと認めている。
 選手たちから厚い信頼を寄せられ、ファン・サポーターからも続投を望む声が数多く寄せられていたスコルジャ監督は、昨シーズンをもって「私の人生において仕事と家族の優先順位を変えるべき時だと感じた」と双方合意のもとで退団。浦和を通じて発表したコメントのなかには、こんな言葉も綴られていた。
「私の将来の目標は、再び監督として浦和レッズに戻ってくることです」
 フットボール本部でも昨年限りで土田SDが退団。ヘグモ監督を招聘した西野TDも、シーズン途中の今年4月に突如として退団した。そして、後任のSDに就いた堀之内氏の判断でヘグモ監督が解任され、母国ポーランドへ帰国した後は家族に寄り添い、フリーになっていたスコルジャ氏の復帰が電撃的に決まった。
 浦和の監督交代は、フットボール本部が立ち上げられた2020年以降の5シーズンで4度目。堀之内SDはリリースのなかで、今回の人事を「継続を旨としてチーム編成を行う上で、短期間での監督交代に強い葛藤があったことも事実です」と位置づけながら、難易度の高いチャレンジへあえて踏み切ったと綴っている。
 しかし、西野前TDとヘグモ前監督、堀之内SDとスコルジャ新監督の関係から、SNS上ではクラブ内の“政治的”な動きを指摘する投稿もある。
「なるほど、西野さんが連れてきたヘグモは切り、堀之内さんが連れてきたスコルジャを招聘か。確かに理に適ってはいるけど、上回き加減のこの時期にやるかね」
 ヘグモ監督の解任は26日付で、ともに加入した2人の外国人コーチも浦和を去る。またもやドタバタ劇が繰り返された形だが、就労ビザ発給などの手続きもあって、スコルジャ新監督もすぐには来日できない。
 何よりもスコルジャ監督が指揮を執っていた昨シーズンとは堅守の象徴を担っていたショルツをはじめ、主力選手たちの顔ぶれも大きく変わっている。激震が収まりそうもない浦和は暫定的に指揮を執る池田伸康コーチ(54)のもとで、31日の次節で首位のFC町田ゼルビアと国立競技場で対戦する。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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