鹿島に“裏抜け”をもたらせる大型FWがデビュー 田川亨介に寄せられる期待

田川亨介

「アグレッシブに戦うことは海外でより学びましたし、チームのためにキツい時間帯でも戦えるようにやっていきたいです。優勝するためにはもっともっとスタメン以外の選手が途中から出て勢いを出すことが必要になる。今季J1は残り10試合ちょっとですけど、全力を出し切っていきたいと思います」

 J1再開直後の9日に鹿島アントラーズ加入が正式発表された田川亨介。新天地デビュー戦となる17日の浦和レッズ戦を前にこう力を込めていた。

 試合前の段階で鹿島は首位のFC町田ゼルビアと勝ち点3差の2位。ただ、直近11日のジュビロ磐田戦でまさかの逆転負けを喫し、またもや町田と並ぶチャンスをフイにしていた。ランコ・ポポヴィッチ監督も「緩みがあったのは間違いない」と厳しい指摘をしていたが、浦和戦では再び気合いを入れ直し、新たな戦力も加えながら勝ち切ることが不可欠だった。

 4試合未勝利の浦和も1万人近いサポーターが県立カシマサッカースタジアムに集結し、ホームのような雰囲気に包まれる中、闘争心を前面に押し出してきた。前半の決定機の回数では明らかに浦和の方が上。鹿島もボールは握りながらも詰め切れない印象だった。

 0-0で迎えた後半。鹿島は一気にギアを上げていく。60分には名古新太郎のスルーパスに抜け出した鈴木優磨がGK牲川歩見と1対1の決定機を迎え、4分後には名古も枠をかすめる惜しいシュートを放つ。着実にゴールに近づいている感覚はあった。

 背番号11をつける182センチの大型FWが投入されたのは、飲水タイムの70分。最初は交代した師岡柊生の陣取っていた右FWに入っていたが、81分以降は中央へ移動。鈴木優磨とほぼ2トップのような形になって、より得点に直結する仕事が求められた。

 その田川のストロングが存分に発揮されたのが、安西幸輝の縦パスに反応し、左サイドを抜け出した88分のシーン。田川からの折り返しを名古がファーで受け、中央の柴崎岳がミドルシュートを放ったが、GK牲川にキャッチされてしまう。ゴールには至らなかったが、田川らしい裏抜けの迫力とスピードは確実に相手の脅威になったはずだ。

「間違いなく、裏抜けのところでスピードを発揮するのが彼の特徴。ウチのチームにはない色なので、そこをみんなもわかって出していた。亨介も合流して間もないですけど、すぐ自分の色を出したのは、チームにとってもプラスだし、亨介はこういう選手だとわかったと思う。あとは日本の暑さに慣れて、コンディションを上げてくれば、よりチームを引っ張ってくれると思います」と、2023年の半年間、サンタクララで共闘した三竿健斗が前向きに評した通り、田川はまずまずの一歩を踏み出したのではないだろうか。

「今日は楽しかったというのが一番です。できること、課題も見つかりました。ここに来る時には、『どんどん裏を抜けて』ということで僕を取ってくれたと思いますし、そこは常に感じています。あとは得点で、チームに違うアクセントを与えられるように働いていきたいと思います」と田川自身も貪欲に鹿島の戦力になろうとしている様子。こういったガツガツしたタイプは鈴木優磨とも相性がいいのではないか。

 振り返ってみると、田川のポテンシャルの高さは10代の頃から誰もが認めているところだった。サガン鳥栖のユースから2017年にトップ昇格したルーキーイヤーから24試合出場4ゴールという実績を残し、期待感も高かった。

 FC東京に赴いた2019年にはU-20ワールドカップに参戦し、年末にはEAFF E-1選手権の中国戦でA代表デビュー。香港戦では初ゴールもマークした。そのまま順調な歩みを見せてほしいと多くの関係者が願っていたが、2021年夏の東京オリンピックは選外。2022年1年から赴いたサンタクララ、2023年夏から1年を過ごしたハーツでも目覚ましい活躍とはいかなかった。

「海外で難しかったのは、コミュニケーションや細かいところを伝える力が足りなかったこと。日本とはサッカーのやり方が全然違うので、うまくいかない時期も多かったですね。1トップで出ることがほとんどで、ポストプレーを求められる中で、自分のストロングを出すのが難しかったところもありました。ただ、フィジカル的なところは多少、経験を積んできましたし、そこはどんどん出して、ゴールに絡んでいく回数を増やしたい」と2年半の成長を鹿島に還元する覚悟だ。そんな野心の一端が浦和戦で見て取れたのは朗報だ。

 鹿島はチャヴリッチが離脱中で、鈴木優磨に代わる確固たる得点源が不在。17歳の徳田誉も目覚ましい成長を遂げているが、すぐに大黒柱になれるわけではない。だからこそ、25歳になった田川に託されるものは大きい。首位の町田、2位に浮上したサンフレッチェ広島を抜き去るためにも、ゴールの量産が必要になってくる。ここからのブレイクが待たれるところだ。

取材・文=元川悦子

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