パリオリンピック男子サッカー スペインの名指導者が日本の敗因を分析「明らかな決断のミス」

「後半の立ち上がりから、なぜ(大岩剛)監督は人もフォーメーションも代えてしまったんだ! ケガ人でも出たのか? あれは明らかに決断のミスだ」

 スペインの目利き、ミケル・エチャリは開口一番にそう言って、パリ五輪サッカー準々決勝で日本がスペインに0-3と敗れた試合について振り返っている。

 エチャリはフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸)を筆頭に、ウナイ・エメリ(アストン・ビラ)、ハゴバ・アラサテ(マジョルカ)、ホセバ・エチェベリア(エイバル)、そしてシャビ・アロンソ(レバークーゼン)などの有能な指揮官たちに慕われる"指導者の指導者"と言える。主にレアル・ソシエダでテクニカルディレクターや育成ディレクターをしてきたが、監督ライセンスを与える立場の教授でもあり、自身もエイバルを2シーズンにわたって率いた経験がある。

「日本は前半、とてもいいプレーを見せていただけに......」

 そう残念がったエチャリのスカウティングリポートが届いた。


日本の前半の戦いぶりを高く評価したミケル・エチャリだったが... photo by JMPA

「日本は4-3-3を基本に、守備時は4-4-2で構える形だった。パラグアイ戦も見たが、大岩監督のチームは実によく戦術的に形作られていた。4-2-3-1で挑んできたスペインに対し、藤田(譲瑠チマ)のところは封じられていたが(おそらく研究された結果だろう)、その分、山本(理仁)、三戸(舜介)がスペースを使えていたし、関根(大輝)、大畑(歩夢)のサイドバックもバックアップしていた。

 ただ11分、ビルドアップでミスが出て、カウンターを食らう。高いレベルでのプレー経験がこのなかでは豊富なフェルミン・ロペスに先制点を許すことに。一瞬の隙だった。

 しかし、日本は次第に盛り返した。15分くらいから日本はラインを押し上げると、すばらしいコンビネーションでスペインを脅かすようになっている。スペインが専守防衛でリトリートせざるを得ないほどだった。(パウ・)クバルシも、(アレックス・)バエナも、心理的にかなり追い込まれていたと言えるのではないだろうか」

【変更によりスペインが息を吹き返した】

「そして39分、三戸からのパスを受けた藤田はマークを外しており、スルスルと持ち上がり、細谷(真大)の足元にパス。細谷は背負いながらターンし、見事なゴールを決めた。ところが、オフサイドの判定で取り消されることになった。映像で見ると、確かに藤田の足がオフサイドラインにかかっていた。レアなケースだが、オフサイド以外の何物でもない。

 それよりも私が気になったのは、後半に向けての日本の戦い方だ」

 エチャリはそう言ってから、戦術的な指摘をしている。

「前半の日本は間違いなくいい流れだった。攻守が機能していた。にもかかわらず、なぜ山田(楓喜)を下げ、藤尾と細谷のツートップにしたのか? 得点がほしかったとしたら、中盤の厚みを失うべきではなかったし、サイドに起点を残すべきだった。

 結果的に、この変更がスペインの息を吹き返させてしまったのだ。

 後半、スペインはポゼッションで日本を上回る。フェルミンが躍動するようになり、前半は沈黙していた(アイマール・)オロスもサイドで存在感を示し、アベル・ルイス、バエナも好機を得た。ボールを持つことをディフェンスに用いながら、攻撃でもアドバンテージを作った。

 一方で、日本はなかなかゴール前まで攻められなくなって、主導権を失っていった。攻め手そのものを喪失。混乱も生じ始めていた。

 76分、日本はCKを与えると、致命的な戦術的ミスを犯している。CKの守りで、ペナルティアークに人を置かないなど、基本的なエラーである。そこは攻撃のリバウンドも含め、必ずケアしなければならない。高いレベルではミドルの精度の高いシューターが何人もいるからだ。それは監督指導講習で教える"初歩"と言える。

 その結果、フェルミンに直接ボールを通されてしまい、自由にコントロールされ、時間を与えてシュートを打たれてしまった。必然の失点だ。

 2-0とされたことにより、日本は苦しくなった。それでもCKから高井(幸大)がポスト直撃のヘディングシュートを打っている。しかし、それが限界だった。86分には、やはりCKの守りでクリアし切れず、アベル・ルイスにとどめを刺された」

 エチャリはプロの視点で、そう敗因を分析している。勝ち筋があっただけに惜しみながら、最後にこうもエールを送った。

「パラグアイ戦もそうだったが、日本はチームとして前半、とてもいいプレーをしていた。選手の質は高く、何人かは必ず、フル代表にも入ってくるだろう。スペインに負けて大会には敗退したが、すばらしい選手たちを育てていることが証明された。その戦いに、心から敬意を表したい」

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