乾貴士、リーガ通算99試合出場。古巣との対戦で「幸せな時間」を語る

 想像とは違う光景だった。

 前節のレバンテ戦後、1週間後の古巣ベティスとの対戦について、乾貴士(アラベス)は、ベティスに来てからの半年、「自分は何も残すことはできなかったから100%ブーイングされる」と話していた。だが、現実は真逆ものだった。

 メンバー発表で名前が呼ばれると、ベティスの本拠地、ベニト・ビジャマリンのスタンドからは大きな拍手が送られた。試合中も、乾がボールを持つと、ブーイングではなく、愛するチーム、ベティスがやられるかもしれないと警戒しながら、そのプレーをしっかりと見届けようとしていた。


古巣ベティス戦に先発した乾貴士(アラベス)

 たしかにこの試合で、乾にボールが回る回数は少なく、チャンスらしいチャンスを作ることはできなかった。リーガ中位に位置する、欧州大会出場権を狙う直接のライバルとの対戦である。ただし、現在はアラベスのほうがベティスより上の順位にいても、この順位がチームの持つ力をそのままを表していないことを誰もがわかっていた(結果は1-1)。

 シーズン中、アラベスのすべての試合を追いかけるEITV記者のイニャキ・ミケオは、この日のアラベスのサッカーに手応えを感じていると話した。

「アラベスはホームとアウェーで戦い方がまったく違うチームだ。アウェーでは負けないことを前提にした戦い方をする。その点から言えば、ベティス戦の戦いはいつもどおりのものであり、勝ち点1を獲得できたことに満足している。これが経済的に厳しい地方クラブの戦い方だ」

 ミケオは、守護神フェルナンド・パチェコの好守を中心に守り抜いた戦いを高く評価した。この試合の乾については次のように語る。

「レバンテ戦のパフォーマンスのほうがよかったことは間違いない。自分の好きなプレーをしてくれた。だが、アウェーでは、どうしてもチームは守備的な戦いをしないといけない。もっとシュートを打つなど、攻撃的なプレーを見たかったが、その点から言えば十分に満足できる出来だった。またホームのメンディソロサでは、今日とは違うもっと乾の色が出た試合をしてくれるだろう。それは間違いないと確信している」

 難しいスタジアムであるベニト・ビジャマリンで、しっかりとベティスの左サイドをケアし、勝ち点1獲得に貢献したことに合格点を与えた。

 自身のパフォーマンスについて、乾は「もう割り切ってやるしかなかった。戦い方として守備から入ることをチームとして徹底していた。自分だけがひとりで前から行っても意味がない。チームに迷惑をかけることになる。気持ちを抑えながらやっていた」と振り返っている。古巣にいいところを見せてやろうというエゴを抑えて、チーム戦術に徹したということだ。

「やりにくいものはすごくあった。でも、意外に楽しかったという気持ちもあった。こういうのもありなのかな、と思いました」

 この試合で、乾は元チームメートと何度となくハグをかわしていた。

 試合前の挨拶でも、ひとりひとりと抱擁を交わし、試合中も対峙したアンドレス・グアルダードと口元を手で抑え、話をするシーンが見られた。後半38分に交代したが、ピッチを去る際、交代したディエゴ・ロランに大きなブーイングが飛ばされたのに対して、乾にはスタンドから再び大きな拍手が送られていた。試合後も、ベンチからそのままロッカールームに戻るのではなく、ピッチの上でマルク・バルトラなどとアラベスでの近況を話し、抱き合っていた。

 やはりアラベスよりベティスでやりたいのではないか。最後にそんな質問をすると、「今はアラベスで精一杯やるしかない。出られていること、使ってもらっていることにすごく感謝している。サッカー選手としてそれが一番幸せなことだと感じています」という答えが返ってきた。

 選手にとっての最大の喜びは、ピッチの上でボールを蹴れること。そんな幸せを、乾は古巣ベティスとの対戦であらためて感じていた。次節ホームでのセルタ戦で、日本人選手として初めてリーガ・エスパニョーラ100試合出場を達成する。「幸せな時間」はこれからもっと増えていくだろう。

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